第三十一話 (ハイド)
ハイドは悪魔の世界に驚いた。
人間の世界より明るく色鮮やかだ。
銃声の変わりに、風の音や鳥の鳴き声が聞こえる。
「ここは天国なのか?」
「神など信じていないのではなかったのか?」
ラルフが笑う。
ハイドは青空の下で思いきり走った。
今まで身を潜めて生きてきたハイドにとって、武器も何も持たずに走るのは、夢のようだ。
走って、転んで、笑って、寝転がって、飲んで、食べて……。
人間だった頃、出来なかったこと全てをやりつくしたかった。
「ラルフ。お前は寝ないのか?」
「ああ。悪魔は基本、眠らない」
「俺は戦場で熟睡などしたこと無かったから、思いきり眠ってみたいな」
「ならば眠ってみれば良い」
ハイドは大きなベッドの上で大の字になった。
天井のある場所で、柔らかく清潔なシーツの上で眠る。
ハイドはしばらく天井を見つめていたが、いつの間にか戦場に立っていた。
「ハイド、何をしている! 敵が来るぞ。さぁ立て!」
「……ゼロ?」
ハイドの目の前に、死んだはずのゼロがいる。
「ハイド。
俺は敵の後ろへ回るから、お前はここで合図してくれ」
ゼロはあの日と同じ作戦で、ハイドを置いて走って行った。
「ゼロ……。待て! 行くな!」
ゼロの背中が小さくなっていき、やがてゆっくりと倒れていった。
「ゼロ!」
ハイドはベッドの上で目を覚ました。
シーツは汗でぐっしょりと濡れている。
その後もハイドは何度か睡眠を試みたが、夢の中ではいつも戦場にいた。
それからハイドは眠らなくなった。




