第二十九話
リリアはバイオレットが眠る大きな木の下に毎日一輪の花を置き、しばらくそこで本を読む。
人間の世界にいた頃はハッピーエンドの物語ばかりを読んで、外の世界へ行くことに憧れを抱いていた。
しかし最近は歴史の本も読むようになり、リリアの育った国がいかに安全で平和な国だったのかを思い知るようになった。
父王もアスランも何も言わなかったが、弱くて小さな国が他国に責め込まれないようにするため、相当な力を尽くしてきたのだろう。
「リリア、隣に座ってもいいか?」
リリアが見上げると、そこにはハイドが立っていた。
「あ! ど……、どうぞ」
リリアが慌てて本を閉じ、立ち上がると
「ハハ。リリア、座ってていいよ」
と、ハイドが笑った。
ハイドがリリアの隣に腰を下ろすと心地よい風が吹き、木々がサワサワと揺れた。
「……リリア、ゴメンな。
バイオレットを燃やしてしまって」
リリアは黙って首を横に振った。
「リリア、俺も友達をなくした」
リリアは何も言えなかった。
「リリア。
俺な、悪魔になる前は人間の兵士だった。
殺した相手の顔なんか覚えていないし、何十人殺したのか、何百人殺したのかも覚えていない。
仲間が死んでも、悲しいとも思わなかった」
リリアは読んでいた本を後ろに隠して、ハイドの横顔を見つめた。
「人間だった頃は何とも思わなかった人の死が、悪魔になって、こんなに悲しく思えるなんて……。
たった一人の死で、こんなに落ち込むなんて……。
おかしいよな……。悪魔のくせに、おかしいよな?」
「おかしくなんかないよ!」
俯いていたハイドは、突然大声を出したリリアに驚いて顔を上げた。
リリアは顔を真っ赤にして涙をポタポタ落としていた。
「おかしくない。全然おかしくなんかない!」
「……リリア、ごめん。俺が悪かった」
ハイドはリリアを抱きしめた。
「お前ならそう言ってくれると思っていた。
分かっていて、その優しさに甘えたかったんだ。
悪魔のくせに、弱いよな」
リリアもハイドをぎゅっと抱きしめて、黙って首を横に振った。
それから二人は日が暮れるまで一緒にいた。
途中、ビンセントが一輪の花を持って庭に出てきたが、二人の姿を見て、そっと屋敷に戻った。




