第二十八話
夕方、ハイドが屋敷に戻って来た。
夕食時、珍しく無口なハイドに誰も声を掛けようとせず、とても静かだった。
「お先に」
ハイドが早々に席を立ち、部屋から出ていった。
「ハイド、元気がないみたい……」
「今はそっとしておいてやれ」
心配そうにしているリリアの頭をラルフが優しく撫でた。
次の日も、ハイドとリリアは何度か顔を合わせたが、そのたびハイドは
「リリア、今日は疲れていてゴメンな。
また今度どこかへ出掛けよう」
と、笑顔を見せた。
その嘘の笑顔が、ますますリリアの心を不安にさせた。
「リリア、そんな所にいると風邪をひく」
リリアはなかなか眠つけず窓の外の赤い惑星を眺めていた。
「……ラルフ、ハイドに何があったの?」
ラルフはリリアの隣に座り、リリアの目をじっと見つめた。
「……リリア。ハイドは友人を亡くした」
「友人?」
「ああ」
「友達は悪魔なの? 悪魔なら死なないよね?」
「自ら命を断つことは出来る」
「時間を戻せば? 悪魔になら出来るでしょ?」
「悪魔にも、越えてはならない領域がある」
「……」
生まれてから、大切なものを失ってばかりいたリリアにとって、ここは夢のような世界だ。
魔術を使えば欲しいものは何でも手に入る。
それでも命を断つのには、余程の理由があったのだろう。
友人の死を受け止めきれないハイドに、何と声を掛ければ良いのか、リリアには分からなかった。
「リリア。お前が悩む必要は無い。
ハイドなら、いつか乗り越えられる。だから今はそっとしておくしかない」
「うん……」
ラルフは窓を閉じ、カーテンを引いた。
ハイドは自分の部屋から、ぼんやりと窓の外を見ていた。
ハイドの部屋から中庭がよく見渡せる。
リリアは毎朝、中庭の大きな木の下に花を置く。
最初はリリアが何をしているのか、さっぱり分からなかったが、いつしかその様子を見るのがハイドの日課になっていた。
ハイドはしばらくリリアと顔を合わせるのが辛かった。
ローザの死がリリアのせいで無いことは分かっていたが、リリアの顔を見るたび、馬車でのローザの言葉を思い出す。
勝ち気でいつも自信に満ち溢れていたローザが、リリアの存在を恐れていた。
ローザは人間でいる時からずっと一人ぼっちだった。
いくら沢山の人間から告白されても、本当に心を許せる相手は一人もいなかったのだろう。
騎士に守られたかったのは、ローザの方だ。
ハイドはそんなローザの心の弱さに気付いてやれなかった事、救ってやれなかった事を後悔していた。
リリアは今日も中庭の大きな木の下にいる。
ハイドは何かを決心したように、自分の部屋を出た。




