第二十七話 (閑話・ローザ)
ローザは村の小さな酒場で働いていた。
毎晩、ローザ目当てに村の男たちがやって来る。
「今、私のお尻を触ったのは誰? 次やったら殺すわよ?」
「ははは!」
店はいつも賑わっていた。
「ローザ、俺と結婚してくれないか?」
「フッ。冗談でしょ?
アンタと結婚したら、一生貧乏生活が待っているじゃない。
それに私は、誰か一人のものになるなんて、まっぴら御免よ」
ローザは求婚してくる者、全てを断った。
いくら断っても求婚者は後を断たない。
ローザは明け方近くまで仕事をし、最後の客が帰ると酒場の二階にある自分の部屋で体を休める。
「はぁぁ……。あの客、やっと帰ってくれた」
ローザは鏡台の前に座り、念入りに肌の手入れをする。
鏡の前のローザは疲れが顔に出ているものの、いつも美しかった。
「この美しさを活かすことなく、ただ死ぬのを待ち続けながら生きていくなんて。何てつまらない人生なの」
ローザはため息をついて、ベッドに潜り込んだ。
翌日、店に小柄な男がやって来た。
「お客さん。この店に来るの、初めてよね」
「お嬢さん、合わせ鏡を知っているかい?」
「合わせ鏡? さぁ、聞いたことがないわ」
「二枚の鏡を合わせて、ある呪文を唱えると、悪魔が出てきて願いをかなえてくれるのさ」
「フフ……。面白そう。
良かったら私にその呪文を教えてくれる?」
ローザは小柄な男の話など信じていなかったが、酔客の相手には慣れていたので、その話に乗ったふりをした。
小柄な男はローザに呪文を教え、店を後にした。
その日も最後の客を見送り、ローザは自分の部屋の鏡台の前に座った。
「まさかね……」
ローザは冗談のつもりで小柄な男が言った通り、鏡台の鏡に手鏡を合わせて呪文を唱えた。
「……。
何だ。何も起こらないじゃない」
ローザが小さく溜め息をつき、テーブルの上に手鏡を置こうとした瞬間、手に持っていた鏡が割れた。
驚いたローザが、割れた鏡の破片を拾っていると、いつの間にか金髪の男が立っていた。
この村では見かけない、美しい男だ。
「アンタ……、誰?」
美しい男はローザの質問に答えず、少し面倒臭そうな顔をして
「お前の願いは何だ?」
と、聞いてきた。
「願い?
急にそんな事を言われても……。
何も考えていなかったけれど」
「金持ちと結婚するのはどうだ?」
「お金があったって、私の心は満たされないわよ。
私は今の生活でも充分満足している。
ただ、このまま年を取って死んでいくのを待つのが嫌。
……。そうだ。悪魔になって永遠の若さと命を手に入れたい」
「永遠など退屈なだけだ」
「いいの。後悔なんてしないわ」
そうしてローザは悪魔になって、悪魔の住む世界に来た。
「何て大きな屋敷なの?」
ローザはラルフの屋敷を見て驚いた。
「ラルフ、そこの美しい女は誰だ?」
屋敷の中から銀髪の青年が声を掛けてきた。
「フフ。美しいですって? 悪魔にも正直者がいるのね」
ローザは銀髪の青年とすぐに意気投合した。
「ところで私は、この屋敷でアンタ達と一緒に暮らして良いのかしら?」
「お前がここに居ると、ハイドの教育上良くない。
海の見える場所に屋敷があるから、そこへ行ってくれ」
「教育上って……。俺は大人だ!」
「フフ……」
ローザは悪魔の世界を満喫した。
一日中ワインを飲んで、ドレスを新調して、夜会に出て……。
永遠を手にしたその後は、何をすれば良いのだろう。
ローザはふとした瞬間に思い浮かぶ気持ちを、ワインを飲んで紛らした。




