第二十一話
リリアが目覚めると、目の前にラルフがいた。
「おはよう。リリア」
「……おはよう」
ローザが現れたのは、夢だったのだろうか。
ラルフ達は本当に、元は人間だったのか。
それがもし本当ならば、なぜ悪魔に魂を売ってしまったのだろう。
リリアの心の中で疑問が沢山あったが、それを聞く勇気はなかった。
「どうした? リリア、……そこ」
ラルフが首の辺りを指差した。
「え?」
「少し赤くなっている」
恐らくローザに押さえつけられた時に出来たアザだろう。
「……何でもないよ」
リリアは手で首もとを隠した。
「……。そうか。
朝食の準備が出来たから、着替え終えたら食べに行こう」
「うん……」
リリアは人形のローズとバイオレットに着替えを手伝ってもらって、食事の整った部屋へラルフと一緒に向かった。
部屋にはローザとハイド、ビンセントがいた。
「おはよう。リリア」
ローザがにっこりと笑う。
ハイドは相当酒を飲んだのか、椅子に座ったままぐったりしていた。
いつもはハイドが話題を振って、会話をしながら食事をするが、今日は皆、黙って食事をした。
「フフッ……。こんなに静かに食事を摂るの、初めてだわ。
リリア、何か三人に聞きたい事があるんじゃないの?」
ローザがリリアに聞いてきた。
「ローザ、何が言いたい?」
ローザの含んだ言い方に、ラルフが反応した。
「さぁ? それはリリアに聞いてみればいいんじゃないの?」
「聞きたい事は何もないわ。
あったとしても、この場では聞かない」
「あら、そう?」
ローザがつまらなそうな顔をする。
「ローザ。お前、今日はおかしいぞ。
リリアに何かするつもりなのなら、いくらお前でも許さないからな」
ぐったりとしていたハイドが間に入った。
「フッ……。
おかしくなっているのはアナタ達の方だと思うけれど。
何だか空気が悪いから、お先に失礼するわね」
ローザは席を立ち、部屋からスッと消えた。
朝食後、ハイドはローザを送るため、馬車に乗り込んだ。
昨日まで機嫌の良かったローザは、黙ったまま窓の外の景色を見ていた。
「……なぁ、ローザ。何故リリアに突っかかったんだ?」
「フッ……。ハイドには分からないでしょうね。
人間だった頃、私は永遠の若さと命が欲しくて悪魔を召喚した」
「知っている。その時現れたのがラルフだった」
「私は永遠を手に入れるため、ラルフにお願いして悪魔にしてもらった」
「ああ」
「私にとってラルフは全て。
私はラルフとずっと一緒に居られると思っていた。
なのにラルフは、子どもを産んだら永遠を捨てなくてはならなくなると、私との結婚を拒んだ」
「ローザ、お前は永遠が欲しかったのだろう?」
「ええ、そうよ。
でも、好きな人と一緒にいられないのなら、永遠に価値はある?
なのに、あの子……。
リリアは人間のままこの世界に来て、ラルフと結婚しようとしている」
「リリアは永遠の命が欲しくて、この世界に来たわけではない」
「フフッ……。どうかしら?
愛を得れば、次に永遠が欲しくなるものよ」
馬車は目的地に着き、ローザは馬車を降りた。
「さようなら、何も知らないハイド。
アナタはお姫さまを永遠に守り続ける騎士でいればいいわ」
ローザは高笑いをしながらそう言って、屋敷の中へと消えていった。




