第二十話
リリアは自分の部屋に戻り、一冊の本をめくった。
読んだことのない本だったが、何故か懐かしく感じた。
小さい頃からあまり外に出られなかったリリアは、本を読んで想像を膨らませていた。
今は想像していた世界がそのままここにある。
リリアが夢中で本を読んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「リリア、ここにいたのか」
ラルフが部屋に入って来た。
「夕食の準備が出来たが、俺と二人で食べるか?」
「ううん。皆と一緒に食べるよ」
「……そうか」
リリアがラルフと一緒に食事が整った部屋へ行くと、ハイドとローザは既にワインを開けて盛り上がっていた。
「どうした? リリア。今日は、やけに大人しいな」
ハイドが陽気な声でリリアに言った。
「私がいるからかしら?」
ローザが笑いながら言った。
「そんなことないよ……」
リリアが答えると、しばらく沈黙が続き、
「ククッ、アハハハ……!」
と、ローザの笑い声が響いた。
「ハイド、自分の部屋で飲んだらどうだ」
今まで黙っていたビンセントが席を立った。
「リリア、俺たちも部屋に戻ろう」
ラルフも立ち上がり、リリアの手をとって部屋を出た。
「何だ? 皆、どうしたんだ……」
「フフッ……、アハハ……!」
再び屋敷にローザの笑い声が響いた。
その日の夜、ラルフはリリアの側にいた。
リリアはベッドから外の景色を眺めた。
「この世界の月は、赤くて大きいのね」
「あれは月ではない。赤い惑星だ。
あの星には火を吐く竜が住んでいる」
「ラルフはあの惑星に行ったことがある?」
「ああ」
ラルフと二人きりで、こんな話をするのは何日ぶりだろう。
ラルフもリリアも、これからの事を意識しすぎて、目の前の物が見えなくなっていた。
「もう一度、水竜に乗りたいな……」
「これから幾らでも乗れる」
「うん」
リリアは久しぶりにラルフに見守られながら眠りについた。
「リリア……、リリア……」
誰かが呼ぶ声がして、リリアは目を覚ました。
「……!」
目の前にいたのは、ローザだった。
外は暗くて、まだ朝になっていないようだ。
「やっと起きてくれたわね」
「ローザ……。何故ここにいるの?」
「リリアと二人きりで話がしたかったからよ」
リリアは辺りを見回した。
「フフッ。ハイドは泥酔しているし、二人の紳士は真夜中にレディーの部屋には入って来ないでしょうね」
ローザが悪意に満ちた顔でクスクスと笑う。
「ラル……!」
思わず叫ぼうとしたリリアの口を、ローザが手で押さえた。
「大人しくしていれば、何もしないわ」
リリアが首を縦に振ると、ローザが手を離した。
「アナタ、ラルフと結婚するためにこの世界へ来たそうね」
「……」
「フッ……。馬鹿馬鹿しい。悪魔は結婚なんてしないわ」
「どうして?」
「魔女は子どもを産んだ時から年老いていき、最期には死んでしまうのよ?
子どもの命と引き換えに、永遠の若さと命を捨てるなんて馬鹿げているわ」
リリアはローザの言っていることが理解出来なかった。
リリアは永遠の若さと命が欲しくてこの世界に来たわけではない。
「アナタ、悪魔はどうやって誕生するか知っている?」
リリアは黙って首を横に振った。
「人間として生きることに絶望し、悪魔に魂を売った人間が悪魔になるのよ」
「……?」
「ハイド達は元々人間だったのよ。
嘘だと思うのなら、三人に聞いてみるといいわ」
ローザはリリアの首を両手で押さえつけた。
「グッ……!」
「リリア。これ以上、三人の心を掻き乱さないで。
これは忠告よ。
アナタのような人間は、この世界にいる資格がない」
そう言って、ローザは部屋から消えた。
リリアは、そのままベッドの上で気を失った。




