11話
ルヴェール市長親衛隊の隊員を名乗る魔女から逃げだすふたり。
足を負傷しているエルカを、イリスはおんぶして全力疾走。
「待てー! 謝れー!」
「あいつ足速いんだけど! あいつもフィジカル系の魔女じゃん! この世界の魔女怖い!」
「私を背負ったままこの速度で走れるあんたのフィジカルの方が怖い」
「うおおおお! 正直、ペシミウスのフィジカルに圧倒されて私はすごく悔しかったんだ! 私もあれくらい強くなりたい!」
しかし、ちょっとずつ距離は詰められ、最後にはイリスは無理に速度を出そうとして躓き地面に激突。エルカは放り出されるも、水の魔術でクッションを生成し、華麗に着地。
「まぁでも、ここまでくればあんまり人いないし、戦ってもいいんじゃない?」
エルカはそう言った。イリスも起き上がりながら、槍の魔女アマルセルに向き合った。
「はあはあ。いや、でも、戦わないで済むならそうしたいよお」
「お前たち……」
アマルセルの方も、息は上がっていた。槍を構えてイリスに向けている。
「観念しろ! それから、謝罪しろ!」
「謝罪?」
「そうだ! 謝罪だ!」
「えっと、何を謝罪すればいいんだっけ。エルカ、覚えてる?」
「ん? なんだっけ。何か面白い話をしてた気がするんだけど」
「ええっと、私たちは何を謝ればいいんですか?」
「……な、なんだっけ? え、ええと! とりあえず、謝れ! お前たちは多分何か言っちゃいけないことを言ったんだ!」
「ご、ごめんなさい。もうしません。ほら、エルカも謝って」
「覚えてないけどごめん。確かに何か失礼なことを言ったような気もする」
「許そう。君たちが争いを好まない善良な魔女なのはわかった。あと、そうだ。銀髪の君。名前は?」
「えっと。イリス。虹目の魔女、イリス」
「イリス。うん。いい肉体だ」
そう言って、持っていた槍を手放してその場に捨て、手を差し出した。
「あ、どうも。君もいい脚力だった」
謎の友情が芽生えているのを横目に、肩をすくめたエルカ。その瞬間、視界の端で何かが光るのが見えた。
爆発音。三人はさっと振り返る。
「くそ。またか」
「え、何?」
「連続爆発事件だ。死者も出てる。私はこれを解決するために来たんだ」
「じゃあ私たちを追いかけてる暇なんてなかったんじゃない」
「……あぁ! またフィルに怒られる。やっちゃった~~。喋ってる場合じゃない! 早く行かないと!」
そういってアマルセルは、爆発のあった方に走って行った。
「イリス。私たちも行こう。できることがあるかもしれない」
「うんそうだね。行こう」
「おんぶして」
「えっ」
「足痛い」
「わかったけど……恥ずかしくないの?」
「恥ずかしさより楽しさが勝った。ほら、いけいけイリス号」
「エルカってさ……いや、やっぱりなんでもない」
◆
爆発の現場は凄惨だった。吹き飛んだ露店。泣き叫ぶ人々。続々と集まってくる野次馬。
イリスとエルカはすぐに負傷者の治療をはじめた。エルカの水と凝集の魔術は傷口を洗って塞ぐのに役立つ。
イリスの方は最初の方はエルカを手伝っていたが、途中から現場に落ちている金属の破片を見て思考をめぐらせていた。
「くそ、陰湿な。どんなクソ魔女がこれをやったのか。絶対に見つけ出してこらしめてやる」
アマルセルは、特にやることもなく、そんなことを何度も言いながら突っ立っていた。
「ねぇ槍の魔女さん。多分これ、魔女の仕業じゃないよ」
イリスは金属片を拾ってそう言った。
「なぜそう思う」
「これ見て。銀だ。爆発が起こって、銀の破片が飛び散ってる。死傷者も、爆発の衝撃で吹き飛んだんじゃなくて、この破片に傷つけられた。これは人間の作った兵器だよ。魔女はこんな回りくどいやり方はしない」
「……お前、もしかして賢いのか?」
「当然」
「本当か?」
「イリスは賢いよ。馬鹿だけど」
エルカがけが人を治しながらそう言った。
「エルカ。私は馬鹿じゃない」
「いや、絶対馬鹿」
「じゃあ賢くないのか」
「いや、イリスは賢いよ。馬鹿だけど」
「いったいどういうことなんだ」
悩み始めるアマルセル。ため息をついたイリス。
「はぁ。馬鹿なのは君らだよ。ほら、この破片も見て。陶器だ。多分陶器の入れ物に、火薬か何かを入れて火をつけたんだ。銀の破片も一緒に入れてね。即席の手りゅう弾といった感じかな……誰が、何のために? アマルセル、何か知ってる?」
「ええと確か。事件が起こり始めてすぐ、政府の連中が火薬の魔女を捕まえたけど、爆発は止まらなかった」
「その子は無実の罪で捕まったってことか。かわいそう」
「別名花火の魔女。あの子の打ち上げる花火が見れないのは寂しいなあ。まぁそんなこと言っている場合じゃないんだけど」
「うーん。その魔女から火薬を買ったやつの仕業かな?」
「その魔女は、火薬は危ないから誰にも売っていないって。政府の連中が拷問しても他に何も言わなかったってことだから、多分本当にそう」
「拷問? ルヴェールの政府って、そんなこともするの?」
「政府とは名ばかりで、あいつら実質マフィアだからな。北区の狭い土地の中で威張ってるだけだし。私たち親衛隊の方がまともだぞ!」
そう言ってアマルセルは胸を張った。その姿は、ちょっとルヴェルティカに似ていた。
◆
傷を治し終えたエルカ。
「ありがとう。魔女さん」
エルカのおかげで軽傷で済んだ人間のひとりがおじぎをした。
「どういたしまして。ところで、爆発が起こる前に、何か不審な人は見かけなかった?」
「わからない。急に光って、吹き飛ばされて……」
「爆発が起こったのはどのあたり?」
「あそこ」
指さした先には、ずたずたに引き裂かれた無残な遺体。
「こいつは魔女だ。見覚えがある」
アマルセルはそう言った。
「彼女を合わせて、すでに、6人の人間と4人の魔女が死んでいる。そのうちひとりは、私たちの仲間だ」
「その割合は……ちょっと不自然だね。いくら魔女が多い都市といっても、100人に1人もいないはずだから」
実際、この場にいる者のほとんどは人間に見えた。エルカは立ち上がる。
「狙われているのは、魔女か」
「明らかにね」
「わかった。イリス、この事件、私たちで解決しよう」
「え? いいけど。なんで急にやる気だしたの?」
「私たちはルヴェルティカに助けられた。この都市を助けることが、彼女への恩返しになるなら、やるべきだ。私は筋を通したい」
「え……なんかかっこいい! さっきまで私におんぶされて幼児みたいにキャッキャ言って喜んでた人とは思えない!」
「ほら、行くよイリス。調査開始!」




