第2話「媚びが効かない女」
レオンと2人で街道を進む三日目。
野営を繰り返し、俺の役割は完全に定着していた。
朝の準備、夜の警戒、ルート提案。戦闘は一切なし。
レオンは文句を言わず、むしろ頼りにし始めている。
「次はあの街だ。ギルドで依頼探すぞ」
レオンが大剣を肩に担ぐ。
街は冒険者の集まる中継地。転生者も多いはずだ。
街の入口で、騒ぎが起きていた。
人だかりの中心に、ローブ姿の女性。
黒髪。鋭い目。20代前半に見える。
足元に魔物の死体が5体。焦げ臭い。
「だから、詠唱効率が悪いって言ってるの」
女が周囲の冒険者に説教中。
「魔力流の方向が逆。基礎からやり直しなさい」
冒険者たちがムッとした顔。
明らかに転生者。魔法帝だ。
(ミレイか)
ステータスから察するに、知力特化の魔法使い。
剣聖レオンとは対極。感情より論理優先タイプ。
「すみません、お話聞かせていただきました」
俺は自然に近づき、低姿勢で声をかける。
レオンは少し離れて見守る体勢。
ミレイが冷たくこちらを見る。
「何?野次馬?」
「いえ、感心して。あなたの魔力流理論、初めて聞きました」
技術的な理解者アピール。いつもの媚び。
「で?」
無表情。
効いてない。
(まずい。レオンには通用したのに)
レオンは「すごい!」で落ちたが、
この女は称賛をスルーするタイプだ。
「具体的に、どの部分が理解できたの?」
試すような目。
浅いと見透かされる。
(ステ知力40の出番だ)
転生時に盛った知力が、ここで活きる。
「魔力の逆流制御ですね。通常は安定優先ですが、
あなたは不安定域を意図的に使って爆発力を出してる。
制御を一歩間違えると自爆リスクですが、
その境界を維持する技術が凄いんです」
即興で解析。
ステータスのおかげで、頭が回る。
ミレイの目が、初めて動いた。
「…続けて」
食いついた。
「だから、通常の5次元魔力流じゃなく6次元まで展開してる。
計算上、出力は理論値の180%になりますが、
詠唱負荷が3倍になるはず。それをどうクリアしてるんですか?」
完全に専門領域。
俺は魔法使いじゃないが、観察と知力で追いつく。
沈黙。3秒。
ミレイが小さく息を吐く。
「…頭いいのね、あなた」
初めての評価。
「転生者?職業は?」
鑑定魔法らしきものを軽くかける。
「人間です。職業選択で時間切れしました」
正直に。弱みを見せる。
「バカみたい」
ミレイが鼻で笑う。
でも、敵意はない。
「でも、無駄にステータス高い。知力40は異常よ」
ステータスが見えたらしい。
「それなら使えるかも。レオン、あんたの雑用?」
レオンに視線。
レオンが肩をすくめる。
「戦えねえけど、観察は確かだぞ」
ミレイが俺を見る。
「明日から3人で動く。文句ないでしょう?」
命令口調。
でも、仲間認定だ。
「光栄です。僕でよければ」
軽く頭を下げる。
その夜、宿屋。
レオンが酒を飲みながら言う。
「ミレイは気難しいが、火力は本物だ。お前が引き込んだな」
「運が良かっただけです」
謙遜しつつ媚び。
ミレイが部屋から出てきて一言。
「次は聖女ルナを探すわ。あの回復が揃えば完璧」
パーティ3人目。
俺の立ち位置は、ますます明確に。
戦えない分、仲間を繋ぐ役。
(これでいい)
ステータスが高いおかげで、理解力と魅力が効く。
職業なしのハンデを、媚びで埋める。




