2、天使のナース班
「おやおやアレンくんじゃないか。どうしたの?そんな汗だくで。」
「ハァ…ハァ…班長。コイツ…お願いします。隊長からの命令です。」
ここはナース班。宮部隊総本部の中にある。アレンはレンをここまで担いでやって来た。
「ったく。お前一体何キロあるんだよ!俺よりチビのくせに!」
無造作にレンを床に落とす。
「あ〜アレンさん。ここまで運んでくれてありがとうございます…。」
あちこちから湧き出てくる疲労。ボーッと天井を見上げることしか出来ない。
今のレンには歩く力が殆ど残っていなかった。訓練生のため毎朝3時台に起床し、4時10分までには訓練場に集合しなければならない。遅れたらペナルティが課される。朝昼晩動きっぱなしで食べる量も少なく、日々が寝不足と疲労で積み重なっていく。それを乗り切ってこその現役隊員だが、なかなかこれをクリア出来る者はいない。
そんな生活からのアレンとの手合わせ。体力には自信があったレンにも等々身体的に限界が来てしまった。そのためガルシアの好意により、特別にナース班に連れて行くことを許可された。
「ガルシア君からは聞いたよ。この子訓練生なんだね。」
「はい…。今回は特別ということらしくて。」
「そっかそっか。随分怪我してるね〜。誰が怪我させたの?」
「…。」
班長の質問にアレンは目を逸らす。その行動で全てを察し、他の班員を呼んだ。
「班長〜。訓練生が来たってマジすか?」
他の班員が奥からやってくる。
「うん。今回は特別にね。明日の夜任務に出発なんだって。」
「へぇ〜、明日の夜!?ってことはこの子かなり優秀なんじゃない?」
「去年はロンという訓練期間免除はいたけど、訓練期間中に現役と任務に行く子はいなかったね〜。」
倒れてるレンの周りを班員が囲む。
「ねぇねぇこの子可愛くない?初々しい感じがする〜!」
「うんうん。可愛い〜!愛嬌がありそうだよね。」
「分かる〜!ロンにもそんなのあったらいいのにね。」
「ほんとほんと。せっかく可愛い女の子が側に居るのにね。」
「良かったねアレン君。あんたにも優秀な後輩がまた増えるから。」
「いや、別にソイツは優秀でもなんでもないです。」
「またまたそんなこと言っちゃって〜。」
「あの…。」
レンはゆっくりと起き上がった。辺りを見回すとオレンジの制服を着た人や白っぽくて裾付近に水色のグラデーションがかかった制服を着てる人、そして星宮の制服を着た人がちらほらいた。みんなレンを見ている。
「ん?どうしたの〜?ここは大丈夫だよ〜。優しいお姉さんたちがいっぱいいるからね!」
そして前を向くと白い服を着た女の人がいた。笑顔でレンに話してくれる。この言い方がまた子供をあやす時の言い方である。
「あの、えっと、その…ここは何処ですか?」
見たことのない環境で思わず緊張してしまう。
「ここ?ここはナース班だよ。みんなの癒しの場を提供する場所。」
「そうそう。ここに現役の人たちがまったりいるでしょ?」
「はぁ…。」
「あれ、8割が仕事サボって来てるからね。」
右から耳打ちでボソッと教えてくれる。彼女も先程目の前にいた人と同じ制服を着ている。
「まあまあ。今日はここでゆっくり休んで。アレン君もお疲れ様。アンタも休んで行きな!」
「え!?良いんですか?」
「いいよ〜。ここまで体格のいい男の子1人運んできたし、アンタも明日この子と任務でしょう?ケアしてあげるからさ。」
「あ、ありがとうございます!」
「ん〜んま。んま。パンケーキうめぇ〜!」
この会話をしている時、お茶室で1人モグモグとパンケーキを食べているララがいた。
「は〜いじゃあ治療していくね〜!私はマリーナ・ヴェネリックよ。マリさんって呼んでね!」
レンを子供のように扱う彼女。ナース班の一員だ。心優しい性格の27歳。自分より年下にはお世話したさあまりに子供扱いしてしまう。みんなからはマリちゃん、もしくはマリさんと呼ばれている。
「レン・バーシンです。よろしくお願いします。」
「は〜いよろしくね。自己紹介ちゃんと出来て偉いね!」
とパチパチしてくる。
でも実力は確かだ。目を瞑らせて傷口に手を当てる。そして眉間のところに治癒能力を注ぎ込む。
「はい、終わり!よく出来ました〜。」
目を開けると傷だったところが無くなっており、体力も回復していた。
「すげぇ!ありがとうございます!俺、プロのナース班から治療受けたの人生で初めてです!」
「そうなの?なら、私が第1号?」
「はい!俺、基本元気っ子なんで小さい頃からあんまり風邪引かなかったし、怪我しても気合いで治してたんであんまり病院にお世話にならなかったんですよ。」
「そうなんだ。じゃあユニテイルに通ってた時も医務室あまり行かなかったの?あの学校一般クラスだと重症になってしまう子多いのに。」
「あー確かに?でも重症になった奴がいた時は大体派遣されたナース班の人や個人で病院を経営してる人が来てましたね。」
「そうなの!私それ行ったことがあるよ。見てるだけで痛かった〜。でも凄いな。そういう人たちにお世話になったことないんだ。」
「いや?そんなことないですよ?」
「え?どういうこと?病院とか行ったことないんでしょ?」
「はい、それはないですけど俺よく友達と喧嘩しては怪我したり授業でやらかして怪我したりはあったんでその時知ってる先輩に治療してもらったことはあります。怪我の度合いが度合いだったんで学生の治療でも治っちゃったんですよね。」
「そうなんだ〜。ちなみにその子の名前って教えてもらったりする?」
「あ〜いいですけど、今元気にしてるのかなぁ?」
「ん?どういうこと?」
「いやぁその先輩優しくて美人で優秀な人だったんですけど、ユニテイルの生徒とは言えないほど身体が弱くて。よく体調崩しては医務室直行だったんですよね。その人無事卒業できたんですけど、それ以来会ってないんで、元気にしてるのかなぁって。」
「なるほどね…。やっぱりそうだったんだ…。」
「へ?やっぱりって?」
「フフフ、ちよっと待っててね。」
マリーナはそう言って診察室を出ていった。
しばらくするとマリーナの声が奥から聞こえてきた。
「ほら、こっちよ。」
そしてレンのいる診察室にカーテンから顔をのぞかせ、「お待たせ!」と言って入ってきた。
そして現れたもう1人、女子なら憧れる人が多いであろうサラサラで背中まで伸びたストレートヘア、華奢な体、儚げな顔付きの美人、色白い肌、綺麗な二重。
彼女こそ、レンがかつてお世話になった1つ上の先輩。
「っ…!」
驚きの再会で息を飲むレン。目を見開き、彼女を見つめた。
「レン…君?」
首を傾げながら聞く。
「…!ルナ先輩!」
「久しぶり、レン君。元気してた?」
「はい!元気してました!ほんとお久しぶりです!」
懐かしの先輩に再び会うことができ、笑顔が溢れるレン。
彼女の名前はルナ・リシーレ。ナース班の一員。ロンとユニテイルの同期で現在17歳。在学中はよく体調を崩しており、身体も弱かったが、ナース班に入ってから適切なケアを受け、今では健康な生活を送れている。
「うわぁ〜!!また更に綺麗になりましたね!俺ずっとルナ先輩のこと気になってたんですよ!良かったぁ〜、元気そうで。」
「フフフ、ありがと。レン君も採用試験合格したんだね。」
「はい!しました!今では森宮部隊の一員です!」
胸に手を当て、誇らしげに語るレン。その会話が聞こえてきたアレンが「まだ現役にもなってねぇだろ。嘘つくな。」と突っ込んでることも知らずに。
「森宮かぁ。そこの隊長さんや副隊長さんにはいつもお世話になってるよ。あの人たち良い人だよね。」
「そうですよね。見てて思います。だから森宮の皆さんがあれだけ隊長たちを尊敬しているんだなって思います。俺、早くあの輪の中に入りたいです。」
「あ、まだ訓練生なの?」
「はい…残念ながら。あ、でもこれから現役になるための試験があるんですよ。それに合格すれば、俺も晴れて現役です!」
「そっか。大変だと思うけど頑張ってね!そうすればここも出入り自由になるし。沢山遊びに来てね!」
「はい来まぁ〜す!!」
レンは完全にデレデレになっていた。
レン自身ルナに恋をしている訳ではない。かつては好きになりかけたこともあったが、ロンの存在もあるため彼女への恋はもう既に諦めている。それでも優しくて穏やかで心も綺麗なルナをレンは心の底から尊敬している。
「よし、じゃあ行くぞ。」
「はい!」
ナース班でしっかり休んだ2人は次の日、与えられた任務のため、出発した。




