エピソード2:ロンウェイ②伝説の宝珠と眠れる運命!
シンドゥーのとある食堂で、ロンウェイは次々と料理を平らげていた。フェイフォンは呆れながら、彼が団子を食べるような感覚でご飯を消費するのを見つめる。
「……あなたのおじいさん、食事のマナーは教えてくれなかったの?」
ロンウェイは一旦手を止め、姿勢を正す。それから少し丁寧に、ゆっくりと食べ始めた。
「ごめんね。本当にお腹空いてたから、つい夢中になっちゃった」
「おじいさんは今どこにいるの?」
「亡くなった」
彼は表情を変えずに答える。フェイフォンは一瞬たじろぎ、悲しげな顔になる。
「……そっか。ごめんね」
「大丈夫。病気だったから。少なくとも、苦しまずに逝けたみたいだよ」
「で……なんでわざわざシンドゥーまで来たの?」
「うん。ただ、どこか町を見つけたかったんだ。それで、ジュウラオまで案内してくれる人を探してた」
「ジュウラオって言った!?」
「うん。知ってる?」
「知らないわけないでしょ! でも問題が一つあって……彼、とっくに死んでるわよ。だって、あの人は史上最強の武術家として知られてたけど……200年も前の話よ」
「ふーん……本当? おじいちゃんが亡くなる前に、『ジュウラオを探せ』って言ったんだ。もし死んでたら、おじいちゃんも知ってたと思うけどな」
「まあ、がんばればいいんじゃない? でも、あの人のお墓だって多分見つからないわよ。だって場所もわかんないんだから。それで、おじいさんはなんでそんなこと頼んだの?」
ロンウェイはポケットから赤い球体の宝石を取り出す。赤いダイヤのような輝き、水晶のような透明度で、金のチェーンに通されたペンダントだ。
フェイフォンはそれを手に取り、じっと見つめる。一瞬、宝石の中を龍が飛び回る幻影が見えた
――まるで別世界の光景のようだった。しかし、瞬きするより早く、その映像は消えてしまう。
彼女は目をこすり、自分の目を疑う。
「これ、何?」
「よくわかんない。おじいちゃんは『天の竜の宝珠』って呼んでた」
「……『天の竜の宝珠』って言った?」
「うん。知ってる?」
フェイフォンは深く息を吸う。
「えっと……あたしが知る限り、それは伝説よ。大災厄以前の、さらに古い文明に伝わる『五つの神宝』の話。五行の要素と天の方位を司る神獣が守っていたって……」
「東方の火の龍、南方の水の鳳凰、北方の土の亀、中央の木の麒麟、西方の金の虎。でも、五千年前の神話の話よ」
ロンウェイはにっこり笑う。
「へえ、すごい! じゃあ君、詳しいんだ!『伝説』かどうかはわかんないけど、おじいちゃんは『これは本物だ』って言ってた。時々、正しく強い戦士が選ばれて、悪と戦い世界のバランスを守るんだって」
「で、よくやったわね! 100年前、人間たちは惑星を破壊し尽くした。
森を焼き払い、川と海を汚し、空気を毒に変え、無数の種を絶滅させた。
そして、ほんの一握りの傲慢で自己中な連中のエゴで、バカみたいな戦争を起こし、
最後には残ったもの全てを爆弾で燃やし尽くしたのよ!」
ロンウェイは食事の手を止め、フェイフォンの言葉に耳を傾ける。
「そして今、残されたわずかなものでさえ、砂漠のあちこちを荒らし回るギャングどもが支配している。
略奪、拷問、レイプ、弱者殺し……その上、飢えと渇きと病気までついてくる。もう最悪だわ」
フェイフォンは肘をつき、顎に手を当てる。苛立ちがにじむ。
「もしそんな『戦士』が本当にいたとして、彼らは無能な役立たずか、惑星を破壊した連中の仲間だったのよ」
ロンウェイは沈黙する。俯いて、涙をこらえているようだ。喉を鳴らしてから、震える声で話す。
「たぶん……あの時、宝珠にふさわしい人が誰もいなかったんだ……それか、彼らだけじゃ大災厄を防げなかったのかも……」
フェイフォンが返事をする前に、突然、ロンウェイを「乗せてきた」ギャングたちが怒り狂って食堂に乱入。他の客は縮み上がり、殺されはしないかと震える。
「あっ! いたぞコイツ、親分!」
「チッ……見つかっちゃったわね、ボウヤ」
ギャングは二人のテーブルに詰め寄り、ナイフと金属バットを構える。
「クソガキ! どうやって店から抜け出して、こんなところで豪遊してやがる!?」
「あの…お腹が空いてたから、このお姉さんが助けてくれたんだ」
盗賊が鼻で笑う。
「まあいい、親分。こいつをシーショウジエンのじいさんの所に連れ戻せばいいんだ。縛ってな。逃げられないようにしとけ。こんなガキでイライラするのも時間の無駄だ。金が入るんだからな」
フェイフォンは果汁を飲みながら、涼しい顔でロンウェイに問いかける。
「ねえ、ロンウェイ。本当にそれでいいの? 『売られる』ってどういう意味かわかってる?」
「おい、小娘! 余計な口出しすんじゃねえ! 痛い目見たいのか!?」
ロンウェイは真面目に答える。
「えっと…この人たち、僕の面倒を見てくれる人に引き渡すって言ってたから。ジュウラオを探す間、食べるのに困らないようにしてくれるんだと思う」
そう言うと、ロンウェイは丁寧にお辞儀をする。
「ごちそうさまでした、お姉さん。きっとこれでお姉さんの運勢も良くなりますよ」
盗賊たちと一緒に店を出ようとするロンウェイ。フェイフォンは彼らが暴力を振るわないのを一瞬観察するが、突然立ち上がって追いかける。
店の入り口で叫ぶ。
「おい、ロンウェイ! あいつらはお前を奴隷として売り飛ばすつもりなんだよ、バカ!
わかってるのか!? 買い手はお前をタダ働きさせたり、殺したりできるんだぞ!
お前に選択権なんてない! 本当にそれでいいのか!?」
盗賊が拳銃を構える。
「この雌犬、黙れ! 撃ち殺すぞ!!」
ロンウェイは驚いた表情。
「え…本当ですか、おじさん?」
「当たり前だ、この脳みそウンコ野郎が!!」
フェイフォンは瞬時に動き、ロンウェイと話していた盗賊を蹴り飛ばす。男は数メートル吹っ飛んだ。
「なんだこいつ!?」
他の盗賊が武器を構えようとするが、腕を上げるより早く、バタリと気を失って倒れる。
《舞鳥拳:鷹の狩!》
気がつくと、フェイフォンは倒れた盗賊たちの背後に立ち、開いた扇を両手に持っている。
「わあ! すごい! じゃあ君の流派って『舞鳥拳』って言うの!? あの蹴りを入れた瞬間、同時にあの二人も扇で攻撃してた! 本当に鷹が獲物を狙うみたいな姿勢だったよ!」
ロンウェイが興奮して話していると、フェイフォンが険しい表情で近づき、突然彼の頭をコツンと強く叩く。
「いてっ! なんで!?」
「あなたのせいでウーシュイのギャングに巻き込まれたじゃない! それで、あなたは食事代も払えないくせに、あたしへの報酬なんて到底無理でしょ!」
周りの住民が怯えた声で言う。
「お嬢さん、何てことを……ウーシュイのギャングがどれだけ危険で人数が多いか知ってるのか?」
「親分のラーシーは改造人だ。ほぼ無敵なんだよ……」
「捕まったら、拷問されて殺されるぞ……」
フェイフォンはイライラして叫ぶ。
「はいはいはい!! わかってるわよ!! ヒロイン気取りでやってるわけじゃないの!!」
フェイフォンはロンウェイのスカーフの端を掴み、犬の首輪のようにグイッと引っ張る。ロンウェイはゴホッとむせる。
「ちっ! なんでいつもこうなるのよ!? どう頑張っても、ギャングどもと関わらずにはいられないんだから!
いいか、ガキ。今すぐここから逃げるわ。運が良ければ、あんたよりあたしを追ってくるだろうから、逆方向に走れば逃げられるぞ」
ロンウェイはスカーフをひったくり、フェイフォンの手から逃れる。
「まだ行けないんだ。あの杖、おじいさんからもらった大切なものなんだ。あの店に置いてきたから、取りに行かなきゃ」
フェイフォンは顔を引きつらせる。
「おい、状況がわかってないわね。ウーシュイのギャングは砂漠で最も凶悪な連中よ。手足をバイクに縛って引き裂いたり、熱した油で体の一部だけを焼いたり、生きたまま野犬の餌にするのが趣味なの!」
彼女はロンウェイの鼻先に指を突きつけ、烈火のごとく怒る。
「あんたを直接殴らなかったからって、『いい人たち』だと思うなよ!
そもそも、人を簡単に信じるんじゃない。この世界で誰もが守ってるのは、自分の欲望だけ。
他人を助けようなんて、バカげた真似は誰もしないわ。だからその棒は諦めて、今すぐ逃げなさい!」
ロンウェイは静かに首を振る。
「ごめん、フェイフォン。でも……駄目なんだ。あの杖はおじいさんからの贈り物で、僕の大切なものだよ。絶対に置いていけない」
フェイフォンはプッツンしそうな表情になるが、やがて大きくため息をつき、諦めたように肩を落とす。
「……あんた、あの時あたしについてきたのも、あの盗賊たちが『殺意』を持ってたから気づいたんだろ?ウーシュイの連中に反応しなかったのは、あいつらが悪党でも、あんたを殺すつもりはなかったからだろ?」
ロンウェイは頭をかきながら、フェイフォンの指摘を理解した様子で、照れくさそうに答える。
「うん……たぶん、その通りだよ。外の世界には、僕を簡単にだませる悪い人がいっぱいいるんだろうね。
でも、いい人もきっといるはずさ。だって、そうじゃなきゃ……フェイフォンだって、今僕を助けてくれないでしょ?」
フェイフォンは黙り込む。反論できない。
ロンウェイはシーショウジエンの店に向かって走り出し、振り返りながら叫ぶ。
「行っちゃっていいよ! 心配しないで! 僕、なんとかするから!それと……ありがとう!」




