エピソード1:ロンウェイ①奇跡の出会いが未来を変える!
灼熱の太陽、焼けつくような風、終わりの見えない砂漠。
辺り一面に広がるのは砂と、地面に揺らめく陽炎だけ。空は完全に青く澄み渡り、この世界には雲など存在しないかのようだった。
一人の少年が、当てもなく歩いている。
彼は素足で、砂の熱さが肌を焼くほどなのに、上半身は裸で、短いズボンだけをはいている。
身に着けているのは、銀の飾りが付いた赤いスカーフとターバン、そして両端に金色の装飾が施された真紅の杖。長い黒髪は、時おり風で口に入りそうになる。
「うわぁ…おじいちゃんが『世界は砂だらけだ』って言ってたけど、まさかここまでだとは。もう人間って、僕以外いないのかな?」
歩きながら、ふと右側の遠くに、大きな砂煙が上がるのを見つける。少年は驚いて手で顔を覆い、目を細めて、見たこともない“何か”が近づいてくるのを確認した。
「ん…? あれは何? 砂嵐? それとも、バッファローの群れ?」
現れたのは、奇妙な黒い模様が体に刻まれた男たちだった。
色とりどりの髪は変な形に固まり、ボロボロに褪せた服を着ている。
彼らは、ガラスのように太陽を反射する光る岩のようなものに乗っていたが、形は不格好で、耳をつんざくような雷のような音を立て、近づくにつれてうるさくなる。
黒くて臭い煙を吐き出し、通った跡には砂煙がもうもうと舞う。
少年は、どうしてあの「岩」が動けるのか、ましてやそんなに速く走れるのか、まったく理解できない。
でも、とりあえずあいつらが近くに来るのを待つことにした。
盗賊たちは遠くに少年の姿を見つけると、すぐにそちらへ向かった。バイクを止め、少年を四方から囲む。
「おい、ガキだぞ!」
「一人でこんなとこを歩いてんのか!?」
「遊牧民の部族か、アモのクソどもに襲われた村の出かもしれねぇな」
「シンドゥーで売り飛ばせねーか?」
「僕を売る…? どういうこと?」
「金と引き換えにお前を引き渡すってこった」
「ふーん…じゃあ、売られたら他の人に会えるってこと?」
盗賊たちは顔を見合わせ、爆笑する。最近では、そんなに純真なのは珍しいよ。小さな子供でさえそうなのに、彼は12歳くらいに見えるのに。
「アタマおかしいんのか、それとも何か障りでもあんじゃねーか?」
「まあ、ギャーギャー泣かれねえだけマシか」
「そうだぜガキ! お前を可愛がってくれる『いい人たち』に引き渡してやるよ」
「いいね! じゃあ、僕それでいいよ!」
盗賊たちは少年を嘲るように笑うが、彼はまだ状況を理解できていない。縄を取り出し、縛り始める。
「これ、何のため?」
「逃げられねーようにだ」
「でも、なんで僕が逃げるの?」
「ハハハ! なぜだ…? そりゃ…風が強けぇから、バイクから落ちねーようにな」
「ふーん…この『変なもの』は『バイク』って言うんだ。魔法の道具なの?」
「ハハハ! 言った通りだろ? こいつ、完全に隔絶された部族の野郎か、頭がイカれてるぜ」
「バイクって知らねーのかよ、ガキ?」
「うん。初めて見た。変なものだね…臭い煙を吐いて、うるさい音を立てるくせに、ほとんど僕と同じくらい速く走れるんだ」
盗賊たちはその比較を笑い飛ばす。少年をバイクの後部座席に押し上げ、西方向へと走り出す。別の盗賊が赤い杖をひったくる。
「あ、その杖、大切なんだ。おじいちゃんからのプレゼントなの」
「へへっ…心配すんな、ガキ。『丁寧』に扱ってやるよ」
皮肉が完全に通じない少年。もしもっと人と接していたら、彼らの悪意ある表情に気づいたかもしれない。だが、彼はただ考える。
「町か村に連れて行ってくれるなんて、本当にラッキー。五日間も砂漠を歩き続けて、もう飢えと渇きで死にそうだった」
――――
30分後、盗賊たちは巨大な町に到着する。
――石と廃材で組まれた建造物。
――金属の支柱に支えられたバラック。
――色あせたテントの露店。
――道端には、盗賊のバイクに似た壊れた機械の残骸が転がっていた。
人々は盗賊たちを見るやいなや、逃げ隠れする。
「降りろ、ガキ! 着いたぞ!」
縄で犬のように引っ張られながら、少年は降りる。彼の目には、この光景が「衝撃的」に映った――
『わあ…! これが【町】なのか! すごく人が多い!』 ――少年はそう思った。
建物の中では、盗賊が店主を呼びつけた。皺だらけの長いひげ、禿頭、金歯の老人だ。
「おい、シーショウジエン!このガキ、いくらで買う?砂漠で拾ったんだが、頭がちょっとおかしいみてぇだ」
老人は縄を解き、少年の目、口、歯、手、腕をくまなく調べる。
「健康そのものだ。こんな奴は珍しい…この筋肉! 歯だけ抜いて売ってもいいくらいだ。750万チエンだな」
「クソッ、ラッキーすぎる! ラーシー親分も大喜びだぜ!」
「じゃあ、僕はこの人と一緒にいるの?」
「ああ、『買い手』が見つかるまでな。ま、すぐだろ、へへへ」
少し離れた骨董品店では、青い髪を小さな横ポニーテールにした少女が大きなバックパックを担いでいた。ショートパンツに革ブーツ、露出の多いトップスという格好だ。
***
店主が声をかける。
「いらっしゃい、お嬢さん。何かお探しですか?」
「売りたい物があるんだけど」
そう言うと、少女はバックパックから次々と品物を取り出した。
・ビデオデッキ
・ミキサー
・スマホ2台
・ブラウン管モニター
・マザーボード5枚
店主は目を見張る。
「おいおい…これは全部『失われたテクノロジー』じゃないか! どこで手に入れた!?」
「まさか庭先で拾ったと思ってんの? あたしは技術考古学者よ。仕事なんだから、当然でしょ」
店主は一つひとつ丁寧に品物をチェックし、少女は待つ。
「全部で100万チエンだ」
「ふざけんなよ、ジジイ!?」
「……え?」
「あたしが素人みたいに見える?
このビデオデッキのヘッドは完璧だし、マザーボードのコンデンサも全部生きてる。
スマホのバッテリーもまだ持つし、モニターにヒビ一つない。ミキサーのモーターだって回るんだぞ?
最低でも800万チエンは当たり前だろ」
そう言うと、少女はバックパックに品物を戻し始める。
「いいわよ。興味ないんでしょ?もっとマシな買い取り業者を探すまでよ」
「待、待て!もう一度計算し直すから……!」
――――
数分後――少女は店を出ると、満面の笑みでガッツポーズをした。
「やったぜ!900万チエン!あの機械人とキモい変異者だらけの地下墓所で死にかけた甲斐があったわ!これで新しい服が買える!」
その様子を、少し離れた場所から盗賊の一団が観察していた。彼らは少女を尾行し、路地へと誘い込もうとする。
一方、隣の店の窓からその光景を目撃した少年は、盗賊たちの殺気立ったオーラに気づく。
店主と盗賊の話し声に紛れ、少年は窓からこっそり脱出。屋根伝いに彼らを追い、高所から少女と盗賊たちを見下ろした――
路地に入った瞬間、少女は背後に忍び寄る盗賊たちに、振り向きもせず言い放った。
「いいわ、もう人目もないし……そろそろ襲いに来るんでしょ?」
「ヒヒヒ。俺たちがついてるって知っててわざと追い込まれたのか? 勇者か? それともただのバカか?」
「あたしから見たら、あんたたちの方がバカね。3人で、22口径のピストル2丁(弾丸不足だし)、ナイフ1本だけ? あたしの腕を縛ったって、あんたたちがあたしから盗めるチャンスなんてないわよ」
「……な、なんで武器の情報が!?」
「チッ! 撃てっ!」
ダダダッ! ――盗賊たちが発砲するが、少女はあしのうしろのホルスターから金属製の扇を二振り引き抜くと、スーッと歩み寄りながら、バレエのような優雅さで弾丸を扇で弾いていく。
五発目を撃つ間もなく、彼女は盗賊たちの眼前に立ち――
《――殺鶴の舞!》
ザクッ! ザクッ!
一瞬の閃光。少女の扇が三人を切り裂き、武器は大根のように薄切りにされて宙を舞う。男たちは呻き声を上げてその場に倒れ、意識を失った。
「ざまぁみろ!女の子ってだけでナメてんじゃねーよ!」
「すごい……! あの動き、信じられない……!」
少女は突然の声に驚き、辺りを見回す。すると、少年が屋根からスッと着地し、目の前に現れた。
「すごい速さだね!今の流派、何ていうの?それと、その武器も初めて見たよ!」
『……この子、あたしに気づかせずに近づいた!?声をかけられるまで完全に感知できなかった……』
警戒しながらも、少女は問う。
「……あなた、誰?」
少年は無邪気に笑いながら答える。
「僕はロンウェイ! よろしく!」
握手を求めるように手を差し出す。
『……明らかに普通の子供じゃない。戦闘の達人だ。あたしの感知をかいくぐったのは初めて。でも悪意はなさそうだ。襲う気なら、わざわざ姿を見せたりしない』
「フェイフォンよ。……ロンウェイ、ここに住んでるの?」
「ううん、とっても遠いところから来たんだ。『シュエジュー』って場所、知ってる?」
「シュエジュー!? ここから50日は離れてるじゃない!あんな高山で……どうやって生きてたの?地面まで千キロもあるんだよ!?」
「うん。確かにすっごく高かった。でも洞窟に水源があったし、おじいちゃんと一緒に獲物を狩ってたから大丈夫!」
「信じられない……で、どうやってシンドゥーまで来たの?」
「変な髪色のお兄さんたちが、『バイク』って言うのに乗せてくれたんだ!」
「ウーシュイのギャング!? なんであいつらが誰かを乗せてやるんだよ!?」
「わかんない。『お前を売り飛ばす』って言ってたから、乗っちゃった。でもさっき悪い人たちが君を追ってるのを見て、助けようと思ったんだ。でも君、助けなくても大丈夫だったみたい」
フェイフォンは呆れたように眉をひそめる。
「そのザコどもの危険性はわかってて、ウーシュイのギャングには気づかなかったの?
あなたの危機感知能力、完全に故障してるわ。……まあいい、あたしは知らない街の少年と喋ってるヒマないの。じゃあね」
路地を出ようとした瞬間――
ゴォォォォッ!!
突然、獣のような轟音がロンウェイの腹から響く。フェイフォンは驚き、変な姿勢で飛び上がりながら後ずさる。
「な……なんだよ今の!?」
「あ、ごめん。五日間砂漠歩いてて、何も食べてないから……お腹が『文句言ってる』みたい」
フェイフォンの目がさらに大きく見開かれる。
「そ……それ、お前の胃の音だったのかよ!?」




