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【小説版】十畳 いわく 鈴の音  作者: 憩葱助
曰く謂れ
12/13

第一章 曰く謂れ 編 完結です。

更新日(19/09/15)現在同人誌漫画版第1巻収録分はここまでになります。


以降の更新は漫画版よりも早く展開することになるので、ネタバレ注意です。

 新しい入居者は何やら変な人だった。

 

 引越し荷物がやたら少なかったり、服がほとんどパーカーとジーンズとジャージだったり、モ○ゾフのプリンカップをコップとして常用していたりと、……何だかよく分からないがこれまでの入居者と明らかに風が違う。細かいところをあげつらっていくとキリがなさそうだが、“変なヤツ”と総括すればそこに全て収まる。


 特に変なところは二つある。

 これまでのどの入居者とも違い私の姿がハッキリと視えているらしいこと。

 そしてその上で“幽霊”という存在の特異性を欠片ほども歯牙にかけないような薄いリアクションしかとらないこと。

 もっとも、薄いのはリアクションに限った話ではない。彼女はこれまでの入居者とはまるで違う。生きているはずなのにまるで生気のない無表情で無感動で、まるで普通に日常生活を送る人たちと一層違う世界を一人虚ろに彷徨っているかのようにすら思える。その様は異様という他無い。


 何が彼女をそうさせているのかは知る由もないが、まぁこちらとしては特に危害もないが面白くもない。


 新しい入居者が来たところでまたいつものように私を怖がるのだろう。またいつものようにいじめて追い出してやればいい。居るだけで邪険に扱われるくらいなら一人でぼーっとしていた方がマシだ。

 だがどうにも彼女はそんな様子がない。

 「おはよう」と言えば「おはよう」と返ってくるし、特に見送らなくても「行ってきます」と言うし、帰ってくれば「ただいま」と言う。終いにはマイペースに寝支度をすると必ず「おやすみ」と一瞥してから眠りに就く。

 別に何ら変なことではない。というか、彼女がそれを徹底的に無表情でやることを除けば至極当たり前な日常的接触だ。当たり前だと思いつつも、私も私でここへきてそのような扱いを受けたことがないのでどうにも調子よく返すことができない。

 

 「私、あなたのことを無視しようとも排除しようともしてないんだけど」と彼女は言った。

 

 目から鱗がこぼれるような気分だった。

 

 彼女はあんな調子なので、私の存在を受け入れているとまでは行かないだろう。だが受け入れようが受け入れまいが、そこに幽霊が居ようが彼女はここに住むという。そして私に「おはよう」と言う。

 私自身考える由もなかった、誰かとの同居生活。

 

 同居生活と言っても、私は本当にそこに居るだけで何かするわけでもないのだけど。

 そう考えると彼女にとって私は喋る観葉植物のようなものなのかもしれない。だとすれば、観葉植物に律儀に挨拶するなんてあんな鉄仮面のような無表情のくせして生真面目さが愛らしい。

 

 なるほど、ギャップ萌えってこのことか~。

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