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【小説版】十畳 いわく 鈴の音  作者: 憩葱助
曰く謂れ
11/13

仮想コミケ進行(アシ作業)で忙しかったので、更新間が空いてしまいました。

10日刊再開頑張ります!

 なんで

 

 何で私ばっかり……

 何で私だけ……?


 私がおかしいの?

 私が悪いの?


 何で人と少し違うだけでこんなに傷付けられなきゃいけないの?


 誰も信じてくれない

 誰も味方じゃない


 みんな敵だ


 この世界は

  

 目に映るものは全部……




 ゾリッ




………


 

 「………………」

 

 何か嫌な夢を見たな。

 

 時計の盤面は四時を回ろうかという時刻を煌々と無機質に表示している。

 

 どれくらいぶりだろう、うなされて目が覚めるなんて。

 どんな夢だったかはっきりとは思い出せないが、全身から滲み出た脂汗がさぞ不快な夢だっただろうことを物語っている。

 気持ち悪いな。シャワー浴びたい……けどさっき浴びたしな。

 ほんのカラスの行水くらいでいいようなものを、水道代とガス代を考えて躊躇してしまう自分の貧乏性が汗ばみの不快感を苛立ちに変える。

 

 ……まぁ、ウェットティッシュか何かで拭けばいいか。

 

 年頃の女性らしからぬいい加減さだが、別に誰かに張る見栄も華も持ち合わせていない。最低限不快な臭いを放たないくらいのケアをしておけばいいだろう。


 「……おはよう?」

 

 と、そんなことを考えている目の前にふよふよとタオルが舞ってきた。

 

 「寝汗すごい 大丈夫?」

 

 ウェットティッシュが良かったけどなぁ……なんて思いつつも、そんな彼女が厚意でわざわざ触れもしないタオルを出してくれたのでそれを無碍にするわけにはいかない。と手に取ったそれで汗を拭うが……洗い物増えるしなぁ。明日の朝にでも「こういうときはウェットティッシュで」と言っておこう。こういうときがもうないといいけど、一応。

 

 「……ありがと」


 「怖い夢でも見た?」


 普通なら人を怖がらせるような位置づけにいるであろうこの幽霊、少し凄んでやったらすっかり丸くなって、自身の障りと何ら由縁のない悪夢にうなされる同居人を気遣うようにまでなりくさった。

 今まで色々とやんちゃな振る舞いをしていたが、彼女は結局根の部分がそういう真面目で気遣いな女性なのだろう。思い返せばその言動の節々に無理が滲み出ていた。

 

 「…………別に 平気」

 

 言うが、彼女はどうにも腑に落ちていないような目つきで口を尖らせている。

 

 「えーっと……え~~~……うーん……あっ」


 と、数秒逡巡した後彼女は両手を広げて


 「寝つき悪かったら……ひざっ 膝枕する?」

 

 などとのたまった。

 

 ……この女は、こういう奴なんだろうな。


 「な なんつって~…… すり抜けちゃうし……」


 ゴチン


 「ほぁ!!?」

 

 まぁすり抜けるのは分かっていたが、彼女の誤魔化し笑いより一瞬早く、無謀にも彼女の膝に飛び込んだ私の頭は鈍い音を立てて床に激突した。

 

 床固っ


 さすが木造畳敷きとは違う頑強な造りだ。頼もしいけど……痛い。


 話が違う……とは言えないな。彼女の厚意に触れられないことは分かっていた。彼女も私も。

 

 「何で」

 

 「え?」

 

 「何でこんなにはっきり視えてるのに触れないんだろう」

 

 私も彼女も、はっきり視えているのに触れ合えない。

 まるで違う世界の影を映しているだけかのように、どれだけ縋っても触れない。

 

 昔から私の目に映る世界はそうだった。

 

 今彼女が視ている世界もそうなのかもしれない。

 

 私と彼女は同じだ。


 そんな私と彼女ですらお互いに触れ合うことはできない。

 

 「何で私は幽霊が視えるんだろう……」

 

 そう口をついて出た言葉と同時に、無意識に涙が零れた。

 

 「ん~~……私もこんなにちゃんと視えて話せる人、初めて会ったから~~……」


 そんな私を見て彼女は一瞬目を伏せると、わざとらしく考え込むようなポーズをとる。……演技が下手だな、本当に。


 「……でも視えるってことは~……視えるべくして視えるっていうか……」

 

 そしてあやすような笑顔を作って彼女は私を見据え、

 

 「多分何か……あなたが視るべきものがあって、視えるんじゃないでしょうか~~……」

 

 諭すように、その癖恐る恐るとそう言った。

 

 まぁ気の利いたアドバイスなんて端から望んではいない……いなかったが、解けない謎にさらに謎を重ねるようなことを言ったと自覚しているのだろうか?この女は。

 

 視るべきものね……。

 今まで色々視てきた。今も目の前にいる“彼女”。


 じゃあ“ソレ”って何よ。

 

 私はそれが知りたいのに……



………



 ピッ ピピッ ピピッ ピピッ


 「……ん」

 

 目覚ましの機械臭い音薄白く部屋を照らす日光

 

 朝か。

 ゲンナリして気が抜けたのか、あの後すぐに寝付けたようだ。

 結果オーライではあるけど、彼女には感謝しないとな……

 

 「あ」

 

 と思うのも束の間


 「今度こそおはよ~~」

 

 彼女は仰向けの私の腹のあたりからもぐら叩きよろしくにょっきりと顔を出した。

 

 不思議な光景だ。目覚めるとお腹から生首が生えてるとか。


 「…………」

 

 「あれ? おはよ~~」

 

 何だろうなこれは。

 

 私が視るべきものね。

 

 少なくとも……


 「あれ~~? まだちょっと寝惚けてる?」

 

 コイツじゃないな。

 

 「お~~い 大丈夫? まだ調子悪いの? ねぇ~~~~……」

 

 人の腹の上で能天気な面でコロコロと首をかしげる“曰く”とけたたましくなり続けるデジタル音に、せっかく目覚めたのにもう一度深い眠りに逃げてしまいたいとすら思う。

 

 「それ お腹から生えてくるの、普通にキモいからやめて」

 

 搾り出すように放った一言に「……はぁい」としょぼくれた声を上げながら、彼女は申し訳なさそうに私の腹にもぐっていった。

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