1・2
「麗ちゃん 私の身体、よろしくね」
発した一言で、そこに居た私以外の全員が固まった。
あの日からずっと考えていた。叶うことはないだろうと思いつつも、もしそんな未来があれば私は迷い無くそちらを選ぶ。
そのときはそう思っていたけど、いざ固まった面々の顔を見渡すと、痛みを感じないはずなのにチクリと胸を刺されるような感触がある。
「……りん」
霞の表情には信じられないことを聞いたような、それでいてその一言がきっと彼女の中で腑に落ちてしまっていることへの板ばさみのような困惑が滲み出ている。
「ごめん、みんな ずっと決めてたんだ 麗ちゃんのこと、今の私の身体のことが分かるより前から……ずっと昔からこうしようって」
何で麗ちゃんが
何で私じゃなくて
私だったら良かったのに
もし私が代わってあげられたら
そんなどうしようもない後悔がいつも心の中に漂っていた。
それは紛うことなく私の本心で、今やっとそれを果たせる。長かったけどやっとだ。しかも終盤は思いがけずこんなにも楽しい思いができた。
きっとこれは神様がくれたチャンスだ。そしてこの楽しい時間はささやかなギフト。もう思い残すことはない。
……そう思いたいのに
「霞、そんな顔しないで」
彼女はやはり困惑に表情を歪ませながら、その眼からは大粒の涙を溢していた。
出会ったばかりの頃の彼女は、まるで生きながら死んでいるかのような生気のない表情をしていた。
彼女の心に空いた穴がそうさせた。彼女は傷付けられ、奪われ、絶望の中に生きていた。出会った当初は忘れていたけど、同じだったからこそ私は直感的に彼女に親近感を抱いたのだろう。
そんな彼女が今や人一倍表情豊かになった。よく感動し、よく笑うようになった。そんな彼女の屈託なく、どことなくぎこちない笑顔が私は好きだった。
だからこの今際の時に私が彼女から引き出すのがそんな哀しい顔なのは悔やまれる。
「やっと叶うの 私の願い それだけじゃない こんなに素敵な友達ができて、楽しい思いをいっぱいして、見送ってもらえる 私は満足してるから」
「でも……」
いつもは口論になると得意気に理詰めで攻勢をしかけてくるくせに、今日の彼女は調子が悪いようだ。
「霞のおかげだよ ありがとう 楽しかった」
つられて涙が溢れそうになるのをぐっと堪えて作った笑顔でそう告げると、彼女は止め処なく溢れる涙を気にも留めずこちらを真っ直ぐに見据えて唇を噛み締めた。
「泉さんも縁さんもありがとう 二人のおかげで悔いなく逝ける ……霞のことよろしくね」
この場を作ってくれた二人も大切な友達だ。今思えばこの二人に巡り合えたこともきっと何かの導きだったのかもしれない。
「ほんまにそれでええの? りんちゃんは」
「うん いい」
「……まぁ本人がそう言うなら、私たちにどうこう言う筋合いはないしね」
二人はやはり晴れ晴れした表情ではないが、それでも私の考えを理解はしてくれているようだ。
「じゃあ麗ちゃん」
命を分けた最愛の妹に身体を託す。……そうと分っていたら、もっとよく食べて貧相でない身体にしておけばよかったかもしれない。まぁでもそれくらいは大目に見て欲しい。
「後は……」
「待って」
と、最後の一言を麗音の重苦しい声が遮った。
「勝手に決めないで」
「麗ちゃん……」
「凛ちゃんはいっつもそう……独りよがりで勝手に決めて……こっちの思いも知らずに……」




