新月
「今日は賑やかなんだね。」
地元のスナック。いつもは数人がカウンターで飲んでるだけなのに、今日に限って団体さんが3組も入っていて超満席だ。
「ほんとに珍しいわ。でも華金だからこうじゃなきゃね。」
「華金って…」…昭和だな。
なんでも、ジャガイモの収穫が終わったからと、地元の農家さん達が街に出ているらしい。僕は、こんなに賑わう光景をここ十数年見たことが無かった。
ただ陽気に笑い、酒を飲み、カラオケのマイクを奪い合い、喧嘩したり、隣の女性を口説いてるオジサンがいたり…。
ああ、なんてくだらなくて、バガげていて…なんて愛おしい光景だろう。
僕が一人カウンターで飲んでると、今年の春に、田植えやらジャガイモの植付けやらを手伝いに行った農家さんの団体が入って来た。結局僕も、なし崩し的にそこに合流。
バカな話に盛り上がり、酒を飲んで、歌って、今年の収穫を祝った。
気付けば、既に日が変わって12日。山神様の日だ。
この宴を山神様も楽しんでくれているだろうか。
名前も分からない女神様は、きっと山神様なのではないかと、僕は思っていた。長い棒を持った、山の祠の女神様から連想されるのは、山神様だけだ。
「嫉妬深い女神様だと伝わっているけれど…本当なのかな…。」
ふらつく足取りで1人、新月の暗い夜道を步いていると、ついついそんな失礼な事を考えてしまう。
山神様の祠の方角に目を向けると、山影からオリオン座が昇って来たところであった。




