時の中で
「ふぅ…いい香りだね。」
「ふふっ、ちょうど収穫してきたばかりだから。何か温かいものでも飲む?」
部屋の中では、数種類のハーブを吊して乾燥している最中のようだ。まだフレッシュな香りが心地の良い空間を作っていた。
「ええ、もちろん。オススメでブレンドしてもらえますか?」
「わかったわ。」
オススメのブレンドハーブティー…メニューには無いが、此処を訪れる人の殆どがオーダーする「今のあなたへのハーブティー」。
彼女は薬草棚に向かうと、おもむろにその内のいくつかの引出しを開け始める。
「これと…これ。…何だかこの子も主張してくるわね…。それと、これかしら。う~ん…確かにいつもと違った感じがするわね…。」
そして、それらを木の皿に取り出すと、一つ一つ確かめるように紙に何かを書き出していく。
「チョロチョロと水の音がするわ…そんなに大きく無い水の流れね。それから…とても小さな祠が見える…。女性の神様ね。長い…これ、何だろ…棒?かな…。」
「…え?…何で見えるんだろ…」
「う~ん…その女神様がね、どうしても伝えろって、そう言うのよ。」
そんな会話を交わしながら、彼女は魔女らしくハーブをブレンドしていく。そして棚から取り出したランプを灯して、それを火にかけた。
「でも…流石にね…ここから先は別料金だけど、どうする?」
「放っては置けませんよね…もともと、今回来たのはその為ですから。今日、これから出来ますか?」
「そうね、体調も良いし…いけるわ。」
「それじゃあ、お願いします。」
彼女…白の魔女は向かいの椅子に座ると、テーブルに置かれていた幾つかの石の中から、一つの水晶を選び取るとそれを左手で包み込みながら目を閉じた。
「今から貴方の情報を取りに行くわ。少し待っていてね。」
「…はい…。」
『…彼女…彼女は貴方との繋がりを持つ…護っている大勢の中の一人…』
『…戦いなさいって、言ってる…』
『…女性を護りなさいって…』
『…水を護って欲しいとも…』
『…えっ!?…彼女は生前、貴方に護られていたらしいわ…。だから今は貴方を護っているって…。』
『…戦いなさいって…』
「僕は戦う力なんてありませんって…大丈夫ですか!?」
白の魔女は僕を見つめて、泣いていた。
『…私ね…見えちゃったのよ…ヨボヨボのおじいちゃんになった貴方が…戦っているところ。ボロボロになってもね…凄い目をして…カッコ良かったわよ…。大丈夫…貴方は強いわ。』
「そう…ですか。」
そうか、そこで自分は死んだんだな。果たして彼女が見た光景は、過去なのか…それとも未来なのか…それは分からないけれど…。
「大丈夫ですよ。護らなきゃならない大切な人の為にも、僕は死ねませんからね。」
『ふふっ…そうね。』
真っ赤な目をして涙を浮かべたままの白の魔女は、無理やりな微笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「さて、聞きたい事は聞けました。今日はこれで帰ります。」
「あら…もう帰るの!?もう少しゆっくりしていけば良いのに…。」
「やらなきゃいけない事が出来ましたから、また来ます。」
「そう…あっ、あのね、その女神様が、一生懸命貴方に話しかけているのに、全然受け取ってくれないと言ってたわよ。」
「そ、それは申し訳ないですが…僕の力不足ですよ。」
「いいえ、體も精神も既に受け取れる状態になってるらしいわ。でも、それなのに貴方が拒否してるんだって。見かけによらず頑固なところがあるのね。」
「…ははは…まあ、自覚はありますね…。それじゃ、また。」
すっかり冷めてしまったハーブティーを飲み干すと、魔女の隠れ家をあとにしたのだった。




