湖の祠
「ここだよな…」
小さな町のその山間に作られた、小さなダム湖。
数千人の生活を支える水源になっており、主要産業である稲作を支えてもいる。この地は昔から雨が降れば暴れる水に悩まされてきた歴史があり、ダムを含めた治水事業はとても重要なものであった。
また、鉄を多く含む川の水は赤く錆びた色で、清清らかな流のイメージからは少し違った、独特な印象を与えている。
男の夢に出てきた小さな祠は、ダム湖を一望出来る山の中腹にあった。
「ご挨拶に伺いました。」
壊れた灯籠が簡素な祭壇に寄りかかり、木の葉の積もるその場所を、ほんの気持ち程度に綺麗に整えると、膝を付いて祈りを捧げる。
名も知らぬ神様だが、事あるごとに参拝に訪れるほどの御縁を感じている。夢に出て来たのは、間違いなくこの祠の御祭神さまだった。
「まことに失礼ではありますが、男の神様だとばかり思っていました。申し訳御座いません。」
微かな木々のざわめきと共に、風が頬を撫でていく。
カラカラと舞う落葉からは、気持ちの良い秋の香りがしていた。
「せめてお名前だけでも教えて頂きたいのですが…すいません、僕の力不足ですね。」
水を護る…とは、この水源のことであろうか…。
それとも、もっと広い意味…この北海道の水のことか…。今はただ、想像するしかなかった。
「戦えってことは、既に物理的に明確な敵が居るって事ですよね…?僕なんかに、ほんとに無茶振りだと思うのです…。何の力も無い、ただの一般人ですよ?」
カラスが一羽…首を傾げるようにして、近くの柏の樹の上から僕を見下ろしていた。
「はぁ…、君が僕の味方かな?頼むから力を貸してくれよ…。」




