第7話 空に走った縦の線
違和感は、消えなかった。
むしろ、はっきりしてきていた。
影が遅れる。
音が、わずかに重なる。
ほんの僅かなズレ。
だが、それが“当たり前”として受け入れられ始めていることの方が、ユウには異様だった。
「……もう気にならなくなったな」
交差点の手前で、リクが言った。
信号は赤。
車が流れている。
いつも通りの風景だ。
「慣れただけだろ」
ユウは短く返す。
「慣れていいもんなのか、それ」
「よくはないだろうな」
軽口のような会話。
だが、どこか空気が硬い。
ミナが、ふと空を見上げた。
その視線が、いつもより長い。
「……どうした」
ユウが聞く。
ミナはすぐに答えない。
ただ、目を細めている。
「……見て」
その一言で、ユウも空を見上げた。
青い空。
雲もない。
いつもと変わらないはずの、空。
――だが。
そこに、線があった。
細く、鋭く。
縦に。
まるで、空を“切った”ような。
「……なんだ、あれ」
リクの声が、わずかに低くなる。
線は、動いていた。
いや。
“広がっている”。
ゆっくりと。
音もなく。
空が、開いていく。
横ではない。
“上に”。
青の奥に、別の層が見えた。
光でも、闇でもない。
形を持たない“何か”。
理解しようとすると、認識が滑る。
「……おい」
リクが言う。
「これ、ヤバいだろ」
その瞬間。
“何か”が動いた。
亀裂の向こう側で。
距離が分からない。
遠いのか、近いのか。
そして。
落ちてきた。
音はない。
だが確実に。
ユウたちの目の前に、“それ”は現れた。
衝撃はなかった。
地面も揺れていない。
ただ、そこに“出現した”。
人の形に近い。
だが、人ではない。
輪郭が揺れている。
いや。
揺れているのではない。
“決まっていない”。
「……なんだよ、これ」
リクが一歩下がる。
その存在が、ゆっくりと顔を上げた。
目があるはずの場所。
だが、そこには何もない。
それでも。
見られている、と分かる。
次の瞬間。
頭の奥に、言葉が落ちた。
『――修正対象』
音ではない。
直接、意味だけが流れ込んでくる。
ユウは、理解した。
直感的に。
これは――
敵だ。




