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不完全な世界の残し方 ―選ばれなかった現実たちへ―  作者: stracchino


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第5話 選ばれない世界

 その違和感は、静かに広がっていた。


 音のズレや、影の遅れは、もう珍しくない。


 だが。


 “消える”ことだけは、慣れなかった。


 ユウは、駅前のベンチに座っていた。


 夕方。

 人の流れが増える時間帯。


 学校帰りの学生、仕事終わりの社会人。


 雑多な動き。


 その中に、紛れている。


 “消える瞬間”が。


「……あそこ」


 ミナが、小さく言った。


 視線の先。


 改札の手前。


 三人組の男が、立ち話をしている。


 ユウは、その様子をじっと見た。


 特に変わった様子はない。


 普通の会話。


 笑っている。


 その瞬間。


 一人が、消えた。


 唐突に。


 まるで、最初からそこにいなかったかのように。


 残った二人は、何事もなかったように話し続けている。


「……今の」


 リクが言う。


「完全に一人減ったよな」


 ユウは、ゆっくりと頷いた。


 もう、驚きはない。


 だが。


 納得もない。


「……誰だった」


 小さく呟く。


 だが。


 答えは出ない。


 思い出せない。


 顔も。

 声も。


 何も。


 ただ。


 “いた”という事実だけが、残っている。


「……これさ」


 リクが言う。


「消えてるんじゃなくて」


 一拍。


「選ばれてないんじゃねえか?」


 ユウは、その言葉に反応した。


 選ばれていない。


 その表現は、妙にしっくりきた。


「……どういう意味だ」


 ミナが聞く。


 リクは、少し考えてから言った。


「さっきのさ」


「三人だったじゃん」


「でも、実際は四人いたんだろ?」


 一拍。


「で、三人の方が残った」


「一人は、消えた」


 ユウは、静かに聞いていた。


 その構造。


 理解できる。


「……選択されてる」


 ミナが言う。


「どの状態にするか」


 一拍。


「現実を」


 ユウは、目を閉じた。


 横に広がる世界。


 複数の可能性。


 その中から。


 一つが選ばれる。


 それが、“現実”になる。


 そして。


 選ばれなかったものは。


 消える。


「……じゃあ」


 ユウは、ゆっくりと目を開けた。


「今、ここにある世界も」


 一拍。


「選ばれてるだけか」


 ミナが頷く。


「……そう」


 その一言で。


 すべてが決まった。


 世界は一つではない。


 そして。


 自分たちがいるこの世界も。


 無数の中の一つに過ぎない。


「……なあ」


 リクが言う。


「じゃあさ」


 一拍。


「俺たちも、消えるのか」


 ユウは、答えなかった。


 だが。


 その可能性は、確実にある。


 むしろ。


 自然な結論だ。


 選ばれなければ。


 消える。


 それだけの話。


 そのとき。


 ユウの視界が、揺れた。


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


 別の光景が見えた。


 同じ場所。


 同じ時間。


 だが。


 違う自分。


 違う立ち位置。


 違う選択。


 そして。


 その世界では。


 ユウが、いなかった。


「……っ」


 息を呑む。


 すぐに、元の視界に戻る。


 だが。


 今のは、幻ではない。


 確かに見た。


「……今、見えた」


 ユウは言った。


「何が」

 リクが聞く。


「別の世界」


 一拍。


「そこに、俺はいなかった」


 沈黙が落ちる。


 重い。


 現実として、重い。


「……それ」


 リクが言う。


「消えた側か」


 ユウは、ゆっくりと頷いた。


 選ばれなかった世界。


 そこでは、自分が消える。


 こちらでは、残る。


 ただ、それだけの違い。


「……なんだよ、それ」


 リクが呟く。


「運ゲーかよ」


 ユウは、小さく笑った。


「かもしれないな」


 だが。


 それで終わらせるわけにはいかない。


 もし。


 この世界が、選ばれているだけなら。


 その選択は。


 誰がやっているのか。


 何が基準なのか。


 それを知らなければ。


 いつか、自分も消える。


 理由も分からないまま。


「……探すしかないな」


 ユウは言った。


 一拍。


「選ばれる条件」


 ミナが、静かに頷く。


「……ルール」


「そうだ」


 ユウは、前を見た。


 人の流れ。


 何も変わらないように見える。


 だが。


 その中で。


 確実に、何かが選ばれている。


 何かが、残されている。


 そして。


 何かが、消えている。


 ユウは、小さく呟いた。


「……選ばれない世界」


 その言葉は。


 これから起きるすべてを、示していた。


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