終わらない、終わりの始まり
この作品は生成AIを使用して作成しています。
最初に、音が消えた。
爆発のようなものを想像していた。
咆哮。崩壊。断末魔。
だが違った。
「……?」
何も聞こえない。
風も、人の声も、瓦礫の崩れる音すら。
ただ、世界が“歪んでいる”。
視界の端で、城壁がゆっくりと曲がっていく。
石が、液体のように垂れ落ちていく。
(なんだ……これは)
理解が追いつかない。
「報告しろ!何が起きている!」
叫んだはずだった。
だが、自分の声すら聞こえない。
代わりに――
頭の奥で、何かが軋んだ。
次に来たのは、“匂い”だった。
腐敗。
だが、生物のものではない。
もっと根源的な、世界そのものが腐っていくような臭気。
思わず口を覆う。
吐き気が込み上げる。
だが吐けない。
胃の中身が、もう存在しないかのように。
「……っ、あ……」
足元を見る。
影が――動いていた。
いや、違う。
影が、増えている。
一つではない。
無数に。
そしてそれらが、絡み合いながら形を作っていく。
腕のようなもの。
顔のようなもの。
口。
開いた。
そこから、声にならない声が溢れる。
――ゆるさない
――――――ゆるさない。ゆるさない。許さない。ユルサナイ。ゆるさない。赦さない。ゆるさないゆるさないユルサナイ許さないゆるさない赦さないゆるさないゆるさないゆるさないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイアアアアアアアア!!!!!
それは音ではない。
だが確かに“意味”を持っていた。
直接、脳に流れ込んでくる。
(やめろ)
耳を塞ぐ。
意味がない。
声は内側から響いている。
――いたい
――さむい
――どうして
――いたいさむいいたいいたいいたいさむいさむいさむいさむいいたいさむいいたいさむい
――どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!
「違う……」
アルヴェルトは首を振る。
「これは……彼女じゃない……」
だが、理解していた。
これは“彼女”だ。
エリシアの中に溜まり続けたもの。
言葉にならなかった叫び。
押し殺された感情。
それが――形を持っている。
城の中庭が、崩れた。
地面が割れるのではない。
“溶けた”。
そこから、黒い何かが溢れ出る。
液体とも、霧ともつかないそれは、触れたものを次々と変質させていく。
兵士が一人、足を取られた。
助けを求めて手を伸ばす。
その腕が、途中で止まる。
いや――止まったのではない。
“分解された”。
指が、関節ごとにばらばらにほどけていく。
血は出ない。
代わりに、黒い霧が立ち上る。
「ぁ……あああああああああ!!」
絶叫。
だがそれも、途中で途切れた。
口が、崩れた。
顔が、形を保てなくなる。
人間であることを、やめていく。
(違う……違う……!)
アルヴェルトは後ずさる。
(これは処理できる災害じゃない)
戦でも、疫病でもない。
対処など、存在しない。
その時だった。
視界の奥。
黒の中心に、“人の形”が見えた。
細い。
壊れそうなほど。
だが確かに、そこに立っている。
「……エリシア」
声が漏れる。
届くはずがない。
それでも。
その影が、ゆっくりとこちらを向いた。
目が合う。
――合ってしまった。
世界が、止まった。
彼女の目は、何も映していなかった。
怒りも、悲しみも、ない。
ただ――空虚。
だが、その奥にあるものを、アルヴェルトは知っている。
底のない、黒。
「……あ」
声にならない声。
足が動かない。
逃げなければならない。
わかっている。
だが――
「……遅いのよ」
今度は、はっきりと聞こえた。
かすれた、壊れた声。
「全部……終わってから……気づくなんて」
一歩。
彼女が踏み出す。
その瞬間、周囲の空間が軋む。
「君は……」
何を言おうとしたのか、自分でもわからなかった。
謝罪か。
弁明か。
命乞いか。
どれも違う。
どれも、もう意味がない。
「ねえ」
彼女は、微かに首を傾げた。
かつてと同じ仕草。
だがそこにあった優しさは、どこにもない。
「王太子殿下」
その呼び方が、刃のように刺さる。
「これが――“正しい選択”の結果よ」
足元から、何かが這い上がる。
黒い影。
いや、違う。
“手”だ。
無数の。
掴まれる。
足を。
腕を。
喉を。
「――やめろ!!」
叫ぶ。
今度は、聞こえた。
だが意味はなかった。
引きずり込まれる。
黒の中へ。
最後に見たのは、彼女の顔だった。
笑っていた。
静かに。
救いのないほどに。
「安心して」
その声だけが、やけに鮮明だった。
「終わらないから」
次の瞬間。
アルヴェルトという存在は、世界から“剥がれ落ちた”。




