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終わりの、始まり

牢番が異変に気づいたのは、彼女の最期の数刻前だった。


「おい……なんだ、この……」


空気が重い。


息が詰まる。


見えない何かが、圧し掛かってくる。

鉄格子が軋み、壁に亀裂が走る。

「封印が……!」


慌てて術者を呼ぼうとしたが、遅かった。


エリシアは、もう立っていなかった。

床に崩れ落ち、呼吸は浅く、今にも途絶えそうだった。

だが――その口元は、確かに笑っていた。


「……遅いのよ」

掠れた声。


「全部、溜まった後で……気づいても」

彼女の胸元に刻まれた封印が、内側から膨れ上がる。

まるで、生き物のように。




「あぁ…」




その目が、ゆっくりと開かれる。



濁った光が、世界を射抜く。



「これで、やっと……」



それは、爆発ではなかった。

解放だった。



圧縮され続けた怨嗟と魔力が、一斉に解き放たれる。

音は、なかった。

だが、すべてが歪んだ。

城が崩れ、人が叫び、空が裂ける。

逃げ場はない。

どこにも。


魔力は形を変え、呪いとなり、影となり、炎となり、国土を覆い尽くす。


触れたものすべてが、腐り、狂い、壊れていく。



「なぜだ……!」

誰かが叫ぶ。

「なぜ、こんなことに……!」

答える者はいない。


ただ一つの事実だけが、そこにある。


彼らが切り捨てた少女が。

最後に残したものが。

これだった。


瓦礫の中で、王太子は膝をついた。

すべてを失った後で、ようやく理解する。


あの日の選択が、何を意味していたのかを。

「エリシア……」

名を呼ぶ。



だが、その声は届かない。

彼女はもう、どこにもいない。




ただ――


残滓だけが、世界に満ちている。

黒く、重く、終わらない呪いとして。


それは、救いのない物語。

誰も報われず、何も残らない。


ただ一人の少女の怨嗟だけが、永遠に続く地獄を生み出した。

そしてその地獄は、今もなお――

静かに、広がり続けている。

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