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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
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処理

 腰に装着したセルドライバーの起動と共に内側に伸びる鋭利なワイヤーが僕の腹を撫でる。

 引き裂かれるような、と言うより実際に引き裂かれ割腹する痛みに絶叫が口から迸りそうになったが声を呑み堪えて見せる。

 体内へと伸びるナノセルメタル供給線が腸を掴み上げ、締め上げ、そして変質させ体の内から、根本から僕を変えてゆく。

 溢れ出る全能感とそれらを否定するような飢餓的な承認欲求が全身を突き動かす。

 憎らしい怨敵のアームの言葉を借りるのならこの衝動の根源はセルナノメタルの使用で発生する症状だ。

 しかしその症状を気にしている暇は今はない。

 アームの遺体の一部を、セルナノメタルで構成された装皮を早く処理してしまわなければならない。


『あの蓋を開ければいいのか?』


 禍々しく変身を遂げた僕は血反吐を何時でも吐けそうなじくじくと残る割腹の痛みに眼を顰めながら、顎で高炉の蓋を差した。


「ああ、さっさと開けてくれ。時間ももうないからな」


 そうジェフリーがいい高炉の可動部を指さしながら早くしろと急かす様に手を叩いて、まるで犬にフリスビーを取ってこいと言わんばかりのジェスチャーでムカッとしてしまうが、これも僕の恨みを晴らすための行為だ。

 僅かな怒りもセルナノメタルの感情作用の症状にかき消され、僕は行動を開始した。

 高炉の上へと続く足場ステップへと一息に飛んで登り、蓋の前へと立った。

 巨大で分厚い鉄の蓋。軽自動車なら軽く超えるほどの大きさだ。

 この強固に作られた蓋越しにでも伝わる熱気はこの中で何物を溶かして溶解させているのだろう。

 頑丈に作られた可動部。こいつを壊すのは少々骨が折れそうだった。

 しかしやるしかない。

 僕はこぶしを握り締め拳を振り上げた時、拳の奇妙な隆起に気づく。

 妙に銀色に変色した拳、無意識を攻撃の意図をくみ取ったセルドライバーが肉体保護にセルナノメタルを拳に収束させ硬化させたのだ。

 皮肉にもこのセルナノメタルの特性はアーム・クランチのモノであり本来僕が持ち合わせていないモノだ。

 そんなことなのだが僕の理解は及ばず、ただこの体に起こった現象を受け止めて前向きに捉えて利用する。

 ぶり上げた強固な拳を可動部に振り下ろし、破壊活動に精を出す。

 普通の人間ならば道具も使わず壊すことなど無理だろうが、今の僕は特殊能力保有者(チェンバー)であり、そしてOSEのヒーローと同様に常識外れの変身を行えているのだ。

 造作もなくまるで抉り取るかのように分厚い金属の塊の可動部を殴り削ぎ蓋の開閉を阻害する部分を破壊する。


『よし……』


 あとは蓋を押しのけるなり持ち上げるなりしてこの灼熱に煮え滾る溶鉄の中へとアームの遺体を投げ入れれば事は済む。

 しかしながらこれを望む僕は躊躇ってしまう。

 蓋越しからでも感じる熱気は触らずとも理解できてしまうほどの危なさを孕んだ熱量だ。

 火傷では済まない。これは死も覚悟しなければならないと悟ってしまうような、そんな危険な熱を佩びている。

 この体に唾液を分泌する機構が備わっているのかも怪しいが僕は唾を呑んで、躊躇を決死の覚悟で包んで心の底に沈めて隠し、蓋と高炉の隙間へと指を差し込んだ。


『────』


 喉から迸りそうになる激痛の絶叫が喉元まで登って僕は意識を飛ばしそうになるが、声を殺し途切れそうになる意識を必死で掴んで離さず、罵倒とも取れる愚痴を溢しながら僕は独り言ちる。


『クソッタレジェフリーめ……。後で飯奢らせる……!』


 鼻につく肉の焼けた鼻つく臭いと鉄の過熱されたツンとした香り、ウザいくらいに手の平から立ち上る煙で目が痛い。

 中腰でしっかりと蓋を握って力任せに蓋をずらしてその赤々と輝きを放ち、高炉の中より泡立つ飛沫のが僕の頬に飛び散った。

 あまりの暑さにぱっと手が離れて皮の剥がれたスケルトンボディにも似た変身姿の頬を僕は必至で摩って熱さを誤魔化して息をついた。


『開いたぞ』


「ご苦労さん。今からそっちに行く」


 アームの一部を詰め込んだバックパックを背負ったジェフリーと教授が上へと登って来た。

 セルナノメタルの重みは鉛とほぼ同じ重量だ。ジェフリーは息を切らせながら、教授はそのジェフリーを手助けをしながら登る。


「はァ、はァ……」


『タバコ辞めろよ』


「ジャックに同意する」


「うるせえ、──さっさと処理するぞ」


 バックパックを下ろした二人。教授が僕に渡してくる。


「ジェフリーから聞いた。これは君の姉の仇なのだろう。始末が私とこいつの手では君も後悔したくないだろう」


『……あざっす』


 遠慮しらずのジェフリーにはない心遣いに大変うれしい限りだった。

 僕はバックパックを受け取って高炉の縁に立ち、そこに煮えたぎる赤く溶けて揺らめく何かしらの溶解した金属に姉への思い出をありありと溢れてきた。

 今迄僕をウザいくらいに可愛がってくれたあの姉はもういないのだ。

 小さい時からずっと一緒で、ジュニアハイスクールで失敗して泣いていた僕を慰めてくれたし、料理が下手で僕の作った決して得意ではない料理をうまいうまいと言い一緒に食べた。

 そんな姉は僕の背中と壁の隙間で潰れて死んだ。

 今そんな事になった原因は僕の手で殺して、そしてゴミ同然に投げ込めばいいだけなのだ。

 終わりにしよう。この呪いを。

 高炉の中へとアームの遺体を投げ捨て、僕はようやく解放された気分になった。


「気抜いてる暇わねえぞ。さっさとずらかるぞ」


『……はいはい。ある意味アンタみたいなのが日常に変える一番の手なのかもな』


 僕たちは足場から降りようとしたとき、背筋の凍るような声が聞えた。


「おいお前ここで何してる!」


 足場の下に待機しているカルロに大声で声が掛けられる。

 その意味するところは警備が──来た。

 どうするかと混乱する思考が先行したが、それよりも先にクラッカーでも鳴らしたかのような音が鳴り、バタリと人が倒れる音が聞えた。

 カルロの手に握られていたのはテイザーガンでそれから伸びる銅線の先に警備が痺れながら白目を剥いていた。

 こちらを見て舌を出して苦笑いを浮かべたカルロが言った。


「撃っちゃった♪」



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