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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
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ちっぽけな存在価値

 心のどこかで恥じ入るような、罪悪感のような気持ちが払拭する事が出来なかった。

 それを紛らわせるように必死に仕事に没頭するしか私は逃げ道を見いだせなかった。

 変身した姿はこの街では誰もが畏怖する対象であり、その姿を目にした善良な人々は歓喜の声を上げて呼び讃える。後ろ暗いものは怯え震えてその手にする武器を向けるか降伏するばかりだった。

 ヒーローとしての絶対的な存在の価値。正義としての立ち振る舞いは英雄的であれそう思っていた。

 しかし現実はそう振舞うことで発生するプライオリティからその姿に付属する商品価値を何よりも大切とされた。

 利益、利益、利益──何よりも大切なのは金と言う信頼が重要だった。

 それを脅かす存在が今私たちの立場を狙っている。

 私の人となり(カラー)をOSEの方針(カラー)で塗りつぶすしか私の繊細な色を守る方法が見当たらない。

 例え色を重ねたところでその色がどす黒い色に変化しようとも。

 そんな訳で私はオーロヴィル・シティを駆けずり回り、州警察の要注意集団資料(ブラックリスト)に載っている集団を虱潰しに回っていくしかやることはなかった。

 アーム・クランチの失踪。彼が最後に居場所を確認された場所に残された大量の血痕と肉片が何かしらの事件性を漂わせていた。

 ヒーローはあらゆる悪事を解決しなければならない。それが善良な人々の規範となるべく。今でもそう考えているのは私の勝手な願望であることは理解しているが、必要とされていない事は理解している。

 しかしそんな些細な志を持っていないと私がヒーローになった理由が見当たらなくなってしまう。

 それはOSEが求めている資質で無かったとしても。


『制圧終了。機動隊の突入をお願いします』


 少しだけしゃがれた声で私はインカムで機動隊に通信を入れた。

 ガムシャラに歌いこのどうしようもない気持ちを晴らすしか方法が見えなかったからだ。

 歌声を武器に私の喉から発せられるのは恨みつらみの籠ったシャウトばかりになり、夢も希望もない絶望の歌詞ばかりだった。

 私の歌いたい言葉はこんなんじゃない、私の語りたい詞はこんなに暗くない。

 だがこんな状況で、こんな立場で何を語ればいいのだろう。

 機動隊の突入の騒がしい足音に気を抜く来たくなるが、しかしながらここは悪の巣窟で、常人であれば死と隣り合わせ現場であることをふと気づき気を引き締めて、体を覆う装皮が解けていないかと体を見渡した。


『ディーヴァ。今日の仕事はもうお終いよ、装甲車に戻って来て』


 私のプロデューサー、ミハエラの声がインカムに届き私は回れ右で現場を後にした。

 広報と支援の為に放送機材を満載した装甲車は私たちファイブのいわば楽屋で、作戦ブリーフィングなどがこの車両で行われる。

 仰々しく警備が現場を取り囲み、あちこちで銃の擦れる音が聞こえて頭に響いてうるさかった。

 装甲車の後部ドアを開けて中に入った私は椅子に体を沈めて息をついた。


『うっ……は、が──はァ」


 体中に張られたテープを引き剥がすような鋭い痛みが全身に走り、全身を覆うセルナノメタルの装皮がチョーカー型のセルドライバーに納まり、ようやく普通の姿に戻った。

 体中に溜まる重苦しい感覚は疲労の顕著な症状だった。

 そんなこともお構いなしにミハエラは私の向かいに座り、デブリーフィングを始めるのだ。うんざりする。


「お疲れ様。デブリーフィングを行うわ」


「コーヒーの一杯でも入れてよ。喉が痛い」


「それならミネラルウォーターの方がいいわ。あなたの売りは喉なんだから」


 デスクに置かれたミネラルウォーターを渡され私はそれに口を付けてた。


「もう言いかしら?」


「……いいわ」


 座席に備え付けられたディスプレイを取り出して、画面を忌々しく私は見た。


「二日前に拘束したブラックリスト者の取り調べが済んだわ。今回はなんと武器密輸の嫌疑が掛った連中だったけど、なんと化学兵器の密輸をしようとしていたわ。連邦法の違反の重大犯罪だわ」


「経歴とか素性の前置きはいいの。本筋のアームとの関わりはあるの?」


「残念だけれどそこまでは分からないわ。第一に、貴方に命令されている任務はアーム失踪に関わりのある《かも》知れない人物・集団の確保よ。失踪の調査自体はスカイ・ライドの仕事よ」


「調査の状況だけでも教えて欲しいんだけど、仮にも私はファイブのメンバーで、アームは私の先輩に当たるんだし安否も気になる」


「──いいわ。安否ね」


 ミハエラは手に持つタブレットを操作しディスプレイに全体の半分以上が私には理解できない内容を表示して簡潔に説明を開始した。


「港に残されていた血痕のDNAデータをアームのDNAデータと照合した結果は85%と出ているけど遺伝子クリエイト技術でアームに近い遺伝子を持っている者の可能性もあるし、何よりチェンバーはDNAの変化が激しいから何とも言えないわ」


「死んでいる可能性もあるし、死んでないかもしれない、のね」


「そう。で、血痕も肉も骨もあり状況から見て爆発物で被害者を殺害しているみたいなのだけど、皮膚細胞が見つかっていない」


 私は小さく息をついて、状況を観察してみよう。

 被害者は血液の総量から一人と断定されている。殺害方法は爆破……にしては地面に爆破跡はがない。周囲の状態を見れば銃弾でハチの巣にしようとしたが装皮を破れず爆発物に頼った? 。

 皮膚細胞が見つかっていない──外から手投げ弾やロケットランチャーを使ったのなら蒸発した? 。いや、それなら骨ここまで綺麗に残っているのはおかしい。

 どれだけ深く考えようとも結論は出る訳はなく、私はディスプレイを目元からどけて眼を擦って目の霞を取ろうとする。


「疲れているようね」


「……分かる?」


 私の声からミハエラが疲れているとようやく聞き取ったようだ。


「そう言えばディーヴァはお休みを一日も取っていなかったわね」


「ファイブに休みなんてあるの?」


「当たり前よ。OSEは企業よ、ヒーローも一般社員も違いはないわ。ただヒーローの場合は一週間で三日の申告制よ」



 ………………



 私は休暇の申告制であるあることを完全に失念していた。もっと言うのなら労働規則すら目を通していないかったためだ。

 申告制を知った私は会社に戻ったと共に申告を行い二日の休暇を取り金土日と三日間の休暇を入れた。

 安息日もここ一ヶ月ろくに休んでいなかったために体中に疲れが溜まって怠く重たい。

 制服、もといコスチュームを脱ぎロッカーに投げ込んで私は誰にも挨拶を交わす気になれずそそくさと会社を後にしていた。

 スクーターバイクに乗って、お気に入りのロックミュージックを爆音で聞き家路へとつく私は疲れからかとにかく味の濃いものを欲していた。

 OSE本社から家まではかなりの距離がある。家で食事はお母さんが用意してくれているだろうが空腹は我慢が出来ず、近くのファストフード店に入った。

 中央区から離れた北西部の住宅地付近にあることと、もう夜も深い事もあり客の入りはなく、店員が所在なさげにタブレットを突いていた。


「ハンバーガーをお願い」


 私は短くそういい。注文を済ませた。

 暇なのだろう商品は五分と立たずに出てきた。

 奥のテーブル席に着いた私は空腹に耐えられる堪らずハンバーガーにかぶりついた。

 濃い味が口の中で広がりそれを咀嚼している内に私は心のどこかが崩れていくような感覚があった。

 今迄に予想、理想としていたヒーローたち悪しきを挫き弱きを助けるそんなヒーローを。

 しかし現実は違った。金に執着して、それの為なら善も悪もどうでもいいかのようなあの態度。

 平然と殺しを行い、利益だの体裁だの。そういった事しか言わなかった。

 理想とされるヒーローの頂点『ファイブ』はまるで置物のような感覚で。

 こんな気持ちになるのなら、こんな惨めな、卑屈な気持ちになるのならヒーローになんてならなければよかった。

 そう思えてしまう。そう思えてしまったから余計に惨めになり視界が歪んで、テーブルに滴が零れる。


「……っ。……ッ──」


 私は声無く泣いていた。

 こんな現実、あんまりだ他かだがハイスクールを出たての私に突きつけてくるなんて。

 悔しさ涙で顔をぐしゃぐしゃにしている私を尻目に、外の駐車場に騒がしい連中が駐車して四人が店内に入ってきた。

 一人は如何にもな悪人面の男、もう一人は見てくれの悪くない上半身裸の青年。

 様子のおかしいイタリア人と、静かな雰囲気で怒っていた黒人の男の人であった。

 悪人面が何やらイタリア男に喚いていた、それを脇の二人が宥めていた。


「ジャック! コーヒー買ってこい。このバカ野郎の顔面にお見舞いしてやる!」


「落ち着け、あの状況だ。カルロの判断は当然だ」


「そうだ。落ち着けジェフリー」


「うるせえ、この野郎あれだけのことして報酬寄越せと言いやがる。頭に血が上って当然だ!」


 喚いて喚いて、惨めなこっちの気持ちも失せてくる。

 私のテーブルの通路を挟んで向かいのテーブルに座った悪人面は怒り心頭と言った様子であった

 その向かいにイタリア男が座って手巻煙草を吸おうとする。


「外で吸ってよ。店の中よ」


 私はそう言ってイタリア男を泣き腫らした目で睨んだ。

 その声が癇に障ったのか悪人面がこっちを怖い目でこっちを見ていう。


「嬢ちゃん。少し黙ってろ」


「マナーぐらい守りなさいよ。灰皿もないのに」


「ああ?」


 ケンカ腰の彼が立ち上がった。

 私も惨めな気持ちが変な方向にシフトして怒りに変わり始めていた。

 いっその事だ。この喉でこいつの鼓膜を破いて逃げればスカッとするだろう。

 そう決めた私たちの間に入ってくる者がいた。


「止めろよジェフリー。彼女の言い分は当然だ」


 上半身裸の青年が割って入り私たちのケンカ腰のそれを止めた。

 不意に感じた。この青年の匂いが妙な事に──。

 どこか血腥い、ツンと鼻につくような鉄の香りに。

 

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