ろくでなし
カルロの診療所へと赴いた僕たちは、盗んだ車を停車させコンテナの扉を強くたたき、カルロを呼び出した。
僕だけ降車してジェフリーは車で待機している。
「なんだ?」
「ちょっと、いいか?」
僕はそう言ってカルロを外へと呼び出す。
ジェフリーではなく僕であることに不思議がりながらカルロは寝起きなのか、マリファナを吸いながら、寝ぼけ眼で車のところまで来てくれた。
助手席で待機しているジェフリーは後部座席に片腕を伸ばし、アドレナリンの鎮痛作用が切れたのか割れた肩甲骨が痛むのか、顔を歪めながらカルロの顔を見ていやらしく笑った。
「てめえまた何しに来た」
「面白いもの見せに」
申し訳ない気持ちで、僕は後部座席のドアを開けそれを見せた。
『グウッ! アアアアッ!』
身をよじり、足をばたつかせて暴れるアーム、その目がギロリとカルロを睨んだ。
変身が中途半端に解けて縛り上げられ、腹から伸びた針の先には伝導性の銅線がテイザーに繋がり、暴れ始めるとジェフリーが引き金を引いて電撃を見舞い、泡を吹いて再度気絶してしまう。
こんな状態がカルロの診療所に来るまでに何度もだ。
マリファナの煙の煙たさからか、それとも拘束されたアームの姿からか、仰天したように腰を抜かして咳き込んで涙ぐんだ。
「なんてもん連れてきてんだ!」
「最高だろ……いってぇ……それマリファナか? 俺にも寄越せ」
ジェフリーは痛みに耐えられそうにないみたいで、肩甲骨が折れた方の手を出してカルロの口に咥えたマリファナを渡せとジェスチャーする。
しかしカルロはそれにいちいち反応している程余裕がないようで、喚いてジェフリーに掴み掛らんばかりに迫った。
「マジでふざけんなよ……俺から薬を取り上げて次は人生を取り上げようってか?」
「この街でここまで落ちぶれた使える世捨て人はお前ぐらいなもんだからな。手伝えよ」
「お断りだ! 今すぐ帰れ!」
「いいのかな? こいつが今でも恋しいようだけど?」
胸元から透明な小さなビニール袋に入れられた切手のような紙切れ。カルロの気を引き付けようと猫じゃらしで戯れるかのように振って見せると、カルロは黙りこくってそれを凝視していた。
本当に頭が痛くなる、ここまで現金な人も相違ないだろう。
現状の目に見えた危機と目先の快感を天秤にかけてどちらが優先されるかは常人ならば、ジェフリーを追い返すはずだろうが、常人ではないのだから目先の快感を選び取る。
「LSD? メスか? 純度は?」
「最高品質の押収品だ。もう何年キメてないんだ? キメたくて仕方ないだろ」
ここまで薬にがめつくバカな反応を見せると却って清々しいくらいだ。
そこまでにして薬が欲しがるのはそれにそれだけの快感があるのだろうが、僕はその快感だけは遠慮願いたい。
運転席に乗り込んだカルロが新しいマリファナをジェフリーの口に咥えさせて、火を付けいそいそと薬をむしり取って懐に収める。
「薬は頂くぞ。ふぉほ! ハレルヤ! 今日は最高の日だ──それでこいつどうすんだ?」
「とりあえずはどこかに閉じ込めて、情報を徹底して吐かせる」
「ヒーローだからな頑丈なところの方がいいだろ。最近停泊した船がデカい金庫を置いてった、そこにしよう」
そそくさと運転席に座り、僕に乗るように促すカルロは車を出してコンテナの山のように積み重なった迷路をすいすいと進んでいく。
マリファナの鎮痛作用に息をつくジェフリーの後ろで隣でのびているアームに何とも言えない僕はこれを足蹴にしながら目的の場所に到着して車を降りた。
大きな金庫だ。それこそ銀行などで証券や金塊を収める人が何人も入れるような巨大な金庫。
カルロは足取り軽やかにその分厚い扉を開ける。
「かなりの時間放置されているからな、外ずらは汚いが厚さ十ミリの鉄筋入りのコンクリ製だ。変身してないアームならこれ位で十分だろ」
「ああ、十分だ。あとはこいつが暴れないように拘束するものが必要だな」
僕は埠頭に放置されている野太い鎖を見つけて指さした。
「あれでいいじゃないか?」
「ちょうどいいな……カルロ、溶接具とはあるか」
「勿論。なんでもそろえてやるよ」
そう言って僕たちはアームを抱えて放置された金庫の中に入りアームの拘束を開始する。
溶接具を買いに走るカルロはすぐに戻って来て、鎖を気絶するアームに巻きつけ橋を金庫内に溶接を開始した。
何故だろうか。僕は姉の仇であるアームが捕まったにも拘らずあまり嬉しくない。
むしろ厄介事を抱えてしまったと思えてしまうくらいだった。
ヒーローに狙われて初めて実感する僕の立場。この街では間違いなく必要とされないヒーローに歯向かう存在が僕。
ただ漠然と、アームへ復讐を誓いそしてセナ姉さんを生き返らすと言う夢物語を信じてここまで来たが、いざ目の前に感じるのはひたすらに恐ろしかった。
どうすればいいのか。復讐をするのか、そうジェフリーに馬鹿げた質問をしてしまいそうなほど気が動転しているのが分かる。
感情任せにアームに当たり散らせば気は晴れる筈だろうが、柄ではないし何より暴力は僕の好むところではない。
複雑な感情に頭を抱えて、アームを金庫内へ固定して拘束が完了した。
………………
「ヤブめ、もう少しまともな治療はないのか」
「喚くなよ。痛まないだけましだと思わないと」
薬をキメて夢見心地のカルロが、負傷したジェフリーを簡単な治療をしていた。
治療と言ってもモルヒネによる痛み止め包帯での固定でしかないのだが、それでも痛みでのたうち回るよりかは幾分かはマシになったジェフリーが普通の煙草に火を付けて、疲れたようにため息を吐いた。
「さて思ってもみない収穫がだが、どういう風に情報を聞き出すかな」
「まずは、セルドライバーを外さない事にはどうしようもないんじゃないか?」
僕はそう言って座り込んで疲れた体を休めた。
変身が完全に解ける様子が見えず、中途半端な鎧姿のアームの装皮は完全状態の硬度を未だに持っているせいで弾丸も、刃物も通用しそうになかった。
「やるだけやるしかない、セルドライバーは変身時に体と融合するように設計されてるらしいからな。あの状態で聞き出すしかない」
「道具は任しとけ、準備はこっちで済ませておく、けど──」
やる気のカルロが再度ねだるような声を出したかと思うと、スマホ画面を僕たちに見えるように距離を取って突き出してくる。
その画面には警察の緊急連絡番号が撃ち込まれており、今にもそのボタンを押しそうになっている。
僕はとち狂ったカルロを睨みつけ、何が狙いかを聞き出そうとするがジェフリーはむしろ落ちつた様子で煙草を吸っていた。
「薬を寄越せってんだろ? あれじゃ足りなかったか?」
「ぜんぜん足りないね。お前のおかげで俺は幻覚剤が手に入らなくなってんでね」
やはりこの男はクズだ。薬で身を持ち崩したどうしようもない男だった。
ジェフリーの言われるがままにここに来たが、ここまでどうしようもない男とは思わなかった。
しかしそれも込みで考えていたのだろう、ジェフリーは提案する。
「お前を雇用してやるよ、リヴェンジャーズに。給与はLSDかメスだ」
「そいつは本当か? 俺を騙そうってんじゃないだろうな?」
「局長に聞いて流してもらうようにいってみるさ、今の俺の上司もこの作戦はどうしても成功させたいからな、どんな手も使うことが許されてる」
リヴェンジャーズの上司且つ支援者である連邦陸軍将校の力を使う気だろう。
こんなどうしようもない男であっても、利用できるのなら徹底して利用し尽くす気でいるように見える。
ジェフリーの提案に犬のように卑しくすり寄ってくるカルロは緊急連絡の画面を閉じてた。
「なら快く手伝ってやる」
「どうしようもないな」
そう言った僕を蛇のようなねちっこい鋭い目つきで見てくるカルロが握手の手を伸ばしてくる。
「よろしくな坊ちゃん。カルロだ」
「……ジャック・アネラだ」
本当にこの男は信用に値するのか。それすらも疑わしい立ち振る舞いにカルロから隠れるようにジェフリーに耳打ちして聞く。
「信用なるのか。この男」
「薬さえきちんと与えてればしっかり働く、昔もそうやってきたんだ。安心しろ」
「信用ならないな……」
不安要素が一つ増えた事に僕はやきもきしながらアームから情報を聞き出す方法を思索した。




