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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
13/26

歌姫参上

 深夜のファーストアベニューを走る装甲車の中で私たちはブリーフィングを始めた。

 私の初任務は、ファーストアベニューの居を構える運送会社の強制捜査だった。相手は移民系の中国人で、その業務内容は業界の中でも黒いものが多いと噂されている。

 市警察の特殊機動隊と私たちOSEのヒーローとの共同捜査であり、こう言った捜査をするときに限っては市警察に発砲許可が下りているのが殆どだった。

 荒事と言う事もあり私の心臓はうるさいくらいに鼓動している。

 初任務──初仕事。


『敵対が予想される運送会社は近年でも銃、麻薬等の密輸を行っている証拠が市警察の捜査で判明しています。過去の家宅捜索ではかなりの抵抗があり、今回も抵抗するものと思われます』


 銃撃戦はやむなし、そういう任務管制員は冷静でいられるが私はもう興奮で頭がどうにかしてしまいそうだった。

 セルドライバーを装備し変身したヒーローの装皮は弾丸を通さないほど堅牢であり私自身撃たれても同と言う事はないが、この状況は命のやり取りの前でありそれだけでも私は緊張と興奮でガチガチになっている。

 ギュッとギターケースを抱きしめて、息を落ち着かせようと目を閉じて深呼吸するがそれだけでは落ち着きが訪れるほど生易しい状況ではない。


『市警察、特殊機動隊との合同捜査です。公共の捜査でありこの任務はかなりのメディア露出が期待され、ヒーローエンタープライズの記者も同行しているため、相応の立ち振る舞いが期待されます。シェイプ・オールド、ディーヴァの活躍を我々OSE管制事業部も応援させていただきます』


 そう言い残してブリーフィング通信が切れて、装甲車内に沈黙が訪れた。

 俯いて息を整える私に、向かいに座る見えない先輩ヒーロー、シェイプ・オールドが茶化したように話しかけてくる。


「お嬢ちゃんはおしっこちびりそうなんですか?」


「緊張です。暴力的なのは苦手なので、当事者になると震えます」


「武者震いであってくれよ。今回は俺達の『売り上げ』にも関わった重要な任務だ」


 そういう彼のだが見えないのだから何とも言えない。

 肌の擦れ合う音だけが聞こえる。よくよく思えば素肌が透明化しているのだから衣服が見えないと言う事は、要は『全裸』と言う事ではないだろうか。

 シェイプはプロフィールでは『男性』となっており、性別をプロフィール通りに受け取れ全裸の男性と私は同じ空間にいることになる。

 少しだけ嫌悪感が浮かび、訊いてみる。


「全裸で寒くないんですか?」


「なんか勘違いしていないか? 俺の透明化は体毛の色合いで光が屈折して目に見え難くなってるだけで、完全な透明化ではないし、何より寒さは体毛で全身を覆われているから寒くはない」


「ビックフットみたいな見た目ってことですか?」


「……っ、ああそう言う事だ」


 私は静かに笑って見せた。なんとも道化的と言うか、素直にシェイプが答えてくれたことに嬉しかった。

 ほんの少しだけ彼のキャラクター像が崩れていることに、キャラクター像などなかったことに失望のようなものを覚えていたが、人には人の個性があり人格がある彼は口が悪いだけの楽しい男だ。

 そう思うことにしよう。

 私はそう思い、会話によって僅かに緊張が解けていることに安堵した。

 ロードマップの表示がもうすぐ目的の運送会社の倉庫に到着することを報せて、私は静かに覚悟を決める。

 すれ違うカーゴトラックを引いた可愛らしいアイスクリームトラックが見え、市民の非難状況を確認すると恐らくあのトラックが最後の人間だったようだ。


「俺達の売り上げの為に、しっかり働いてくれよ。ニューフェイス」


「分かってますよ」


 私はチョーカーの、セルドライバーのピンを抜いて変身の準備を整えた。

 ひとりでに浮かび上がるアームバンド。姿の見えないシェイプもアームバンド型のセルドライバーを装着してスイッチを入れた。

 私は目つきを鋭くして、この先の事をできうる限り考えず体が自然に動くようにと考えた。

 そして唱えた。重なり合う私とシェイプの声、ヒーローの掛け声だ。


『変身』



 ………………



 装甲車を降りてすぐに見えたのは運送会社社員たちの慌ただしい戦々恐々とした様子であり、その手に握られているのは物騒な黒光りする銃。

 社員はすべてアジア人、中華系の血筋の者たちだ。セカンドアベニューはアジア系移民が多く、多くの者はここの社長の劉と言う男を頼ってこの国に来たのに、こんなことになってはいたたまれない。

 しかしながら、彼らは犯罪を犯したのだ。この国で犯した犯罪はこの国の法律で相応の裁きを受けることになる。

 周囲に展開する特殊機動隊たちは運動機能サポーターの個人着用外骨格に身を包んで運送会社の建物を取り囲んでいく。

 指示系統は私たちヒーローとは全くの個別だ。

 今回の任務、私たちが先行して現場を制圧、その後に機動隊が突入して会社を完全に押さえるようにと指示が来ている。

 既に私は変身しており、この体を包むセルナノメタルが十分な防御力を発揮している。


「シェイプ。これからどうすればいい?」


 私は耳に付けた通信機でシェイプに問いかけ、指示を仰いだ。


『お得意の大声で連中の耳を潰すんだ。その後に同時に突入、好きなだけ暴れな。機動隊の突入は俺が指示する』


 数日の間に叩き込まれたテンプレートの戦略予測の中では私が面制圧を行うことが多くなると予想されていたが真っ先だ。

 私は息を整え、大きく息を吸いそして声として吐き出した。

 声として吐き出したがその声は人間の聞き取れない超音波の類で、その音量はセルドライバーによって増強されより破壊的な威力となって運送会社社員のみならずその建物全体を揺らして、窓ガラスは一斉に弾けた。


『突入しろディーヴァ』


「……了解っ!」


 私はギターケースからギターを取り出し、建物の中に飛び込んだ。

 私の声で聴力を失った社員たちがうめき声を上げながら、よろめいた足取りで私に銃口を向けてくる。

 社員たちのその動きはひどく鈍重で、まるでお遊びでスローモーションの動きをしているのかと思ってしまう。

 実際は私の認識能力がセルドライバーで飛躍的に高められているだけで、彼らは十分に速く動いているものだと思われる。

 ギターのフレットの部分を逆手に握り込んで、私はその銃口の元へ飛び込んだ。

 パンと銃声が鳴り、その弾丸の輪郭がはっきりと理解できるほど動体視力が上がっている。

 私の頬に当たるが装皮の堅牢さは群を抜いており、拳銃程度の威力ではへこみができればいい程度だった。

 火花が散り弾丸は跳弾しあらぬところに向かって飛んでいく。

 握ったギターを横ぶりに、ヘビーメタルのパフォーマンスみたいに敵を殴りつける。

 振る瞬間にギターのボディは変形し、巨大な斧のようなスタンロッドに形を変え、バチバチと音を鳴らして敵をなぎ倒した。

 手加減はしていたが、私の今の変身した姿は想像をはるかに超えていた。

 敵は殴られた衝撃で嘘のように回転しながら宙を舞い、鉄骨に後頭部をぶつけて気絶してしまった。


「ヤバ、やり過ぎた」


 ヒーロー業務にはある程度の制約がある。

 第一に、濫りにその力を使って治安維持をしてはいけない。勝手にやってしまえば自警団要因(ヴィジランテ)として処罰される。

 第二に、濫りに人を殺めてはいけない。いくらヒーローでも殺人罪は適応され、こう言った状況下であっても特殊な場合を除き殺人は許されない。

 第三に、どんなヒーローであってもOSEに登録されたならその業務に迎合しなければならない。

 この3点が何よりも優先される。

 今回は第二の要項に該当するかもしれなかった。急いで息をしているかを、心臓が動いていることを確認して正常であり息をついた。

 やにわに撃ち込まれる弾丸たちに体の所々に被弾しながら、私はギターを構え声と共にその者たちを打ち抜いた。

 ショックウェーブとOSEのヒーロー管理局から名付けられたその技は、私の戦闘スタイル、声の音波により指向性を持たせる技で、ギターのもう一つの機能の力だった。

 拡散性の音波をギターで集約させ、特別製のウーハーで敵を撃ち抜く。

 その威力はうるさいどうこうの話ではなく、物体を震わす音の振動が『衝撃』と変わり敵を吹き飛ばした。

 ドンドン、と僅かに私の耳にも届く衝撃音が建物内を反響し、血が舞い、悲鳴が響き、銃声がなる。

 心が躍る。戦いの狂乱で気分が上がる、罪悪感が吹き飛んでこの一生の中で初めて私は思いっきり声を出して楽しんだ。

 今までこの喉のせいでカラオケも、歌も、何もかもが法律で制限されていてこんなに声を出せることが気持ちい事なのだと初めて知る。

 手当たり次第に目に付く社員たちをショックウェーブで撃ちまくり、ようやく銃撃が止んだ時、私の声がちょうどよく枯れた。

 がらがらの喉に携帯している水を流し込んで、ようやく息をつけた。


「一丁上がり……」


 スカッとするような晴れやかな気分だった。うめき声が歓声のように聞こえ、泡を吹く彼らの唾液はまるでサイリウムの光だ。

 そう、私はヒーロー。その名前はディーヴァ、歌姫なのだ。

 この気分の昂ぶりはしばらく落ち着きそうになかった。通信機でシェイプに問いかけた。


「こっちは制圧は終わりました。シェイプ、そっちは?」


『俺はもうちょっとかかる。少し来て手伝ってくれ』


 そう言われ通信が切れる。

 ベテランが何を手こずっているのか。そう思いながら私はこの晴れ晴れとした気分でスキップしながらシェイプの元に行った。

 GPSの反応では二階の一室に居てそこに留まっている。その部屋の扉に手を掛けて私は扉を開いたとき、そこで行われているおぞましい光景に目を疑った。

 でっぷりとした腹を晒す人が椅子に縛り付けられ、血を流して苦しんでいる。

 何が起こったのか、何が起こっているのか。

 楽しそうに拳を振り上げて、その男性を殴りつけていたのはシェイプだった。

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