密売取引
「お前は食い過ぎだ」
車を走らせて、僕たちは悪巧みに精を出していたが、僕はとうとう空腹に負けてごねて街はずれでもっとも近くのコンビニに寄ってもらい買えるだけ食料品や飲料品を買い込んで、店の陰でそれらを貪り食っていた。
「仕方ないだろ……ゴクン、血を結構抜かれて、ふらふらするし腹が減って死にそうなんだ」
「役立たずが飯だけいっちょ前に食べたがって、予定が押してんだよ」
口に物が入ってモノを訊くのは行儀が悪いがそんなことを気にするほど礼儀正しくもしなくてもいいだろう。
僕はスナック菓子の袋を傾けながらこの後に控えている予定を聞いた。
「何が──バリバリ……あるん、ゴクン、だ?」
「この先の違法製造をしてる連中にOSEの製品を渡すんだよ。まずは小さいが利益から突いていく」
「そのアニメビデオでか?」
このコンビニに寄る少し前に立ち寄ったビデオショップで購入したヒーローのアニメフィギア付きの特典ビデオを手に入れたジェフリーは得意気にそれを持って、邪悪に笑う。
「こういったモノでもバカにならないのがエンターテイメントの世界だ、海賊版一つで売り上げは落ちるんだぞ」
「僕には分からない世界だ」
ホットドックを一口にねじ込んで僕はエナジードリンクでそれらを一気に流し込んで、全ての飲食物を片付けて車に乗り直す。
車を走らせ、オーロヴィル・シティの発電所近くのプラスティック加工所に到着する。
まっすぐそこへ入って僕は驚いてしまう。
プラスティック加工と言うより、家電の販売所のように所狭しと押し込まれた3Dプリンター群が世話しなく稼働していた。
それらから出力されているのはアニメや漫画のキャラクターフィギアで、荒い塗装で偽物のパッケージに押し込めるように奥で作業をしている10名程度の人間がいた。
「谢谢,得救」
「ああ、気にするな」
中国語を話す一人にヒーローのアニメビデオを渡してジェフリーは外に止められている小さいサイズのコンテナが乗せられたカーゴトラックを車に繋ぎ始める。
「何突っ立ってんだ。手伝え」
「いったい何が入ってんだこのコンテナ」
「あれ見てそれ言えるのは目が腐ってる証拠だ。海賊版のフィギアだよ。3Dプリンターで大量製造だ」
確かに最近の3Dプリント技術は目を見張るものがある、プラスティック樹脂にシリコン、金属にタンパク質細胞でも何でも出力ができる。僕の腹に収まっている腸だってこのプリント技術で出力されたものだ。
それでも、中華製の粗悪品であるものを大量輸入しても出来は目に見えて悪いのが現実だ。
この国のように潤沢な資金と技術力でようやく相応のモノが出来ているのに、大戦の影響で経済破綻した国に何ができようか。
チェーンを車に繋いで、僕たちはオーロヴィル・シティへと再度車を走らせ始めた。
夜も更けて薄暗がりの中では街はずれは静かなものだった。
会話と言う会話をしないでいると静寂が僕たちの耳を耳鳴りのようなものが苛んでくる。
僕はそれに耐えられずにジェフリーに会話を投げかけた。
「連邦捜査官なんだって?」
「……昔はな」
「今は違うのか?」
「フリーランスだ。荒事に慣れてる体でデスクワークは向かなかった」
噴き出してしまった僕に冷たい目で睨んでくるジェフリー。
言い方は悪いが当然といえば当然だ。こんな男が大人しく椅子に座ってPC端末を突いていられるほどおとなしいとも思えない。
「悪い。……南方の麻薬戦争で活躍したんだって?」
「古い話だ。こんなことやってるよりかは遥かに楽しかった」
「僕たちの相手は英雄様だもんな。南方の麻薬戦争でもシヴァルドが戦っていたんだろ?」
「ああ、ゾッとしないぞ。ギャング何もしてないのに潰れていく姿見たら、ゲロ吐くぞ」
「シヴァルドのチェンバーとしての能力は念力だっけ?」
「マジモンの如何様なしの超能力だ。ギャングがソフトボール大の肉塊になっていく姿を想像してみろよ。敵わねえって思うぞ」
「そんな連中にアンタは戦争吹っ掛けるのか?」
ジェフリーは窓を開けて煙草に火を付けて答えた。
その目には確固たる自信に似た憎しみを滾らせて、視線で誰かを射殺せるだけの強さが宿っている。
「戦争じゃねえよ。制裁だ」
断言するジェフリーの表情、雰囲気。まるで僕の写し鏡のように怒りに支配されているようだった。
姉さんを奪われた僕の怒りも同じ。ヒーローに並々ならぬ怒りがあるようだ。
僕はその怒りの原因を訊く気にはなれなかった。僕も姉さんの死の状況なんて詳しく話したくはない。
きっとジェフリーも同じなはずだ。
「悪役万歳だ」
僕はそういった。ジェフリーもその言葉に鼻笑いで返してくる。
「ああ、万歳だ」
数分ほど車を走らせセカンドアベニューの運送会社に到着した僕たちは、カーゴトラックから荷を下ろし出す。
ここの社長だろうか。恰幅のいい髭ずらのアジア人がジェフリーを見て顔を綻ばせた。
でっぷりとした腹を揺らして近づいてくるその男はジェフリーを抱きしめて、豪快に笑っていた。
「来たかいじめっ子。待っていたぞ」
「遅くなったな。劉」
首元から覗く刺青がこの劉と言う男が堅気ではない事がそれとなく察しが付く。
オーロヴィル・シティのセカンドアベニューは中華系移民が多く店を構えている。そのこともあり中華マフィアも一緒に入って来てこうして裏の社会で細々と金を稼いでいる。
「ご用命のモノが届いてるぜ」
「ようやくか」
僕はほかのスタッフと共に荷物をすべて下ろしている中でジェフリーと劉の言うご用命のモノに心を躍らせるように悪役のそれと同じ笑い方をしている。
僕は荷物を下ろし終えて息をついている中で、ジェフリーに呼ばれてその荷物を見た。
木箱に丁寧に梱包された銃火器たち。あまりの多さに眼を剥いてしまう。
拳銃、散弾銃。対戦車ライフルまである。
旧世代品の火薬銃だが、その威力は折り紙付き。大陸から渡ってきた悪い子のお供だ。
「やけに古い銃だな」
僕はそう言って拳銃を手に取ってみる。
ズッシリとした重みは現行の銃とは違い格段に重い。この銃は薬莢を排出するタイプの銃だった。
動作を確認するジェフリーは上々といった様子で、対戦車ライフルの薬室状況を確認していた。
誰もいない場所に構えて見るジェフリーの様になっている姿、しかしやはり重たそうな感じであった。
「こんな重たいものを昔の人間は振り回していたのか?」
「今使われている電磁発火式のケースレス弾は軽量と管理の容易さが売りだからな。雷管発火式もなかなか乙なものだぞ」
「腕が疲れていけねえや」
発射機構と弾丸が一体化していない銃は重たいと聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
これを持って戦場を駆けまわっていた兵士たちには頭が下がる思いだ。
そう考えれば今の銃は大変計量だ。
薬莢を廃し、電磁誘導と制御電気の発射機構を一体化したシックスバレルのパッケージユニット化することで発射速度を1分間14400を実現している現行の銃に比べればその威力も機能も落ちているが、雷管発火式は管理が電磁発火式に比べ緩いのが利点だ。
胸を張って表を歩けない人間たち御用達の護身の武器、それが今の火薬銃だ。
「弾はどれだけ仕入れたんだ?」
「アンタなら仕事も手伝ってくれるし、金も払ってくれる。サービスであるだけ仕入れて来たヨ」
巨大なジュラルミンケーズを開いて見せる劉は得意気に腹を突き出して見せる。
金色の弾丸たちがキラキラと夜の明かりに照らされて発射されるのを今か今かと待ちわびている。
ジャラジャラと音を立ててそれらを持つジェフリーは本当に機嫌がよさそうだった。声が弾んでいる。
「何発仕入れたんだ?」
「拳銃5,000、散弾4,000、小銃5,000、ライフル弾1,000ヨ」
「やるじゃねえか。劉、アンタは最高の運び屋だぜ」
「ついでにこいつもいらないカ?」
別のケースの中身を見せる劉。その中身は白い細かな結晶が綺麗に袋に梱包されて敷き詰められていた。
大体の想像は付くが、とぼけてみよう。砂糖かな? 。
「そいつは別の奴に売れ、俺はこいつがあればハイになれる」
銃に頬ずりしてうっとりしているジェフリーに負けじと売りつけようとしてくる。
「これならもっとハイになれるヨ! 嘘は言わないヨ!」
グイグイと負けじとにじり寄ってくる劉。しかし、上機嫌のジェフリーの機嫌は山の頂の天候、女心のように変わりやすい。
いつの間に抜いたのか、ジェフリーの自前の拳銃が劉の顎に突きつけられていた。
「くどい奴は、商売に向かないぞ。いいかチャイニーズ、俺は連邦捜査官でお前は運び屋、本来な今すぐ豚箱なのを道具の仕入れ役でとどめてやってんだ。機嫌は取っておくべきだろ」
「も、……もちろんネ」
「ならさっさとこいつを俺の車に積み込め」
白い粉を払いのけてジェフリーはまた新しい玩具を見て笑って見せた。




