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エルフ王――四百年後、死んだはずの妻が帰ってきた  作者: 忘却セミコロン
第一章 沈黙を解く迷宮

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第五話 見えない道

二十二層目。


布陣が変わった。

前衛にカイリとシオン。中央にシャンテ。アークは、最後尾。


誰が言い出したのかは、わからない。気づけば、いつの間にか陣形ができていた。


「……何のつもりだ」

低く問いかけても、答える者はいなかった。


カイリは前を向いたまま歩き、シオンは黙って足を進め、シャンテは何食わぬ顔で髭を撫でている。


戦えない配置ではない。むしろ後衛からは、戦場の全体がよく見える。だからこそ、見なくてもいいものまで目に入る。


シオンが敵の体勢を崩す。その瞬間には、もうカイリの剣が振り下ろされている。合図はない。声もない。互いの呼吸を知り尽くした者同士にしか生まれない、淀みのない流れがそこにあった。


長い年月をかけて積み上げてきたものだと、一目でわかる。

胸の奥に、苦いものが湧く。


ついさっきまで、あの位置に立っていたのは自分だった。戦うことを楽しいと思い始めた矢先に、その場所だけをそっくり取り上げられたような喪失感。


助けを求めるように、シオンを見る。

目が困ったように細められ、肩がわずかにすくめられる。


休憩に入ったところで、アークはカイリを捕まえた。


「なぜ俺が後ろなんだ」

思わず大きな声が出た。


「たまにはいいだろ」

「理由になっていない」

「確かに、ならねえな」


カイリはひらひらと手を振り、悪びれもせずにどこかへ行ってしまった。


その背中を睨んでいると、視線を感じた。シャンテが楽しそうな顔で、こちらを眺めている。


「……なんだ」

問いただしても老司教は何も言わず、口の端だけで笑った。




二十三層目。


曲がった通路の先は行き止まりだった。


「ちょい、休憩」

魔力が枯渇したカイリが座り込み、シャンテも腰をトントン叩いた。


「そうだな。少し休もう」

アークが背の荷物を置く。


その先で、シオンはしゃがみ込み、床に手を当てている。


このところ、その頻度が増えている。頻繁に、執拗に、足元の石の奥へ見えない糸を垂らすように。


何かを探り続けていた。


ひどく苦しそうな横顔。寄せられた眉と、かすかに震える睫毛が、何かを堪えている。


思わず声をかけていた。

「どうかしたか?」


シオンの肩が強張った。そして長い沈黙のあと、彼は絞り出すように言った。


「ルーカスさん達はあの下に、いるかもしれない」




シオンが示したのは、その通路の何でもない一角。


カイリが小石を放る。石は床に触れた途端、音もなく消えた。石畳だと思っていた場所が幻のように掻き消え、黒い口がぽっかりと開く。


落とし穴だった。

その下は、モンスターホール。獲物が罠にかかるのを待つ、魔物の巣だ。


覗き込んだ闇の底に、シオンが探り当てたものがある。

「人の形をしたものが、複数」

シオンが、静かに告げる。


「神聖な魔力が混ざってる。でも、生きてない」

索敵の糸が、それを見つけてしまった。


彼は何度も確かめていた。確かめて、確かめて……それでも言い出せなかったのだろう。


神聖な魔力を纏った、人の形をしたもの。

半年前、この下で命を落とした、神殿騎士たち。


遺体を放置すれば、アンデッドになる。神殿騎士である彼らが、誰よりもそれを知っていた。


ルカ達が、ダンジョンに利用されている。


シャンテが、低く呻く。

その横でアークは、静かに穴の底を見つめていた。


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