第四話 二十四層
下層に降り、隊列が変わった。 前衛にシオンとアーク。後衛にシャンテとカイリ。
悪霊系のモンスターが増えたため、神聖魔法の障壁で前後を固めながら進む。
「アーク」
「ああ」
シオンの補助は、驚くほど的確だった。 アークが踏み込もうとする一瞬前に、スケルトンナイト達の体勢が崩れている。斬るべき場所が、常に目の前に開けている。
聖火を纏わせた剣を、振るう身体が軽い。 後ろでは、カイリの炎とシャンテの浄化が、隙間なく敵を刈り取っていく。
「ほい、ほい。楽じゃのう」
シャンテののんきな声が聞こえる。
歩みは順調だった。 アークは、ふと気づく。
戦うことが、楽しい。
ルカを喪ってから、無心で剣を振ってきた。 戦うことは義務だった。
それがいつの間にか、そうではなくなっている。 シオンの横顔が、視界の端をかすめた。 アークは迷わず、次の敵へ踏み込んだ。
戦闘後、浄化をかけているアークの横で、シオンが床に手を置き何かを探っていた。
「あっち」
あっさり、次の階段が見つかる。 階層の構造を捉える精度。
こんな探知法は、見たことも聞いたこともなかった。
気づけば二十層を越えていた。 壁際の窪みで足を止め、短い休憩を取る。
腰の小瓶を取り出し、各自が魔力回復のポーションを口に含んだ。直近の連戦で、魔力はだいぶ削られている。
小瓶を空にしたカイリが、ふと口を開いた。
「なあ。神殿の仕事って、こんなに深くまで潜るもんなのか?」
「いや。本来は中層までの遺体回収と浄化までじゃ。ここから先は、儂らの私用でな」
空になった小瓶を懐へしまいながら、老司教は淡々と続けた。
「この迷宮の最下層は、まだ誰も辿り着いておらん。今、確認されとる一番下が二十四層じゃ。半年前、そこにリッチが出た」
死霊系の最高位。アンデッドを統べる魔物だ。
「神殿騎士団は、総勢三十名の討伐隊を組んだ。儂とアーク、儂らの仲間のルカ……ルーカスって奴も入っておった。三十人がかりで一体を相手にする、万全の布陣じゃった。余裕があるはずの戦いだったんじゃ」
シャンテは、そこで一度言葉を切った。
「じゃが、リッチと同時に、もう一種出た。偽愛魔。愛しい者の姿を写し取り、心を乱した相手を喰らう魔物じゃ。その時は誰も見たことのない敵でな。前線が崩れて、半数が死んだ」
どこかで水滴が落ちる音が、やけに大きく響いた。
「辛くも勝ちはした。じゃが、遺体を置いて逃げ帰るのが精一杯でな」
アークは、睨みつけるように通路の先の闇を見ていた。 ふと、シオンの視線が自分の手元に向いていることに気づいた。
無意識に爪が食い込むほど、力がこもっていたようだ。 アークは少し息を吐いた。
「ルカ達は、まだあそこにおる。ちゃんと弔って、魂を輪廻に戻してやりたい。だから、業務の範囲を超えて潜っとるんじゃよ」
しばらく、誰も何も言わなかった。
カイリが、静かに視線を下げた。シオンはただ、祈るように手を組んだ。
重くなった空気を、シャンテ自身が破った。
「まあのう、そういうわけで仲間を探しとったんじゃが……こやつが、な」
顎でアークを指し、大げさにため息をつく。
「女がおると、途端に不機嫌になる。だから、なかなか人が集まらんのよ。苦労しとるんじゃ、儂は」
「……余計なことを言うな」
アークが低く言った。
「事実じゃろうが。他の騎士なんぞ、儂が何人取り持ってやったか」
「必要ない。気持ち悪い。触れるのも、見るのも不快だ」
吐き捨てるような声。冗談の色は一切なかった。
シオンとカイリが、顔を見合わせる。
カイリが、目線でシオンに何かを合図した。余計なことは言うな、とでも言うような目だった。シオンは困ったように眉を寄せ、それでも小さく頷いた。
それに気づいたシャンテは顎鬚をひと撫でし、アークをチラリと一瞥した。




