第二話 噛み合う刃
最初の数回の戦闘は、様子見だった。
魔物が現れるたび、アークとシャンテは最短距離で処理しようとし、カイリは待ちきれずに前へ出て、少年――シオンは、常に一歩引いた位置から全体を見ていた。
噛み合わない。
アークの聖火はカイリを気にして範囲を絞りすぎ、カイリの一撃は狙いすぎて外周を逃す。シャンテはタイミングを計りかねていた。
互いのやり方に、まだ慣れない。
「――そっちじゃない」
三戦目、初めてシオンが口を開いた。短く、迷いのない声。
指し示す先は、ヴァイル・ピクシーの群れの後方。逃げようとしていた一匹。
「放っておけば、仲間を呼ぶ」
アークは半信半疑のまま、示された方向に剣撃を向けた。結果は、シオンの言う通りだった。以降、追撃を受けることはなくなった。
四戦目では、カイリが単独で突出し、多眼ワームに囲まれかけた。
「カイリ、右」
シオンの声に、カイリが半瞬遅れて剣を返す。小さな個体が、彼の喉を食い破る寸前だった。
「いちいち口出すんじゃねーよ」
「ごめん」
素っ気ないやり取り。慣れた掛け合いなのは、アークにも分かった。
五戦目には、明確な変化があった。
シオンがクラグドレイクの脚を斬り、体勢を崩させる。その隙に、アークが聖火で牽制し、視界を奪う。逃げ場を失った獲物へ、カイリの一撃が入る。焼き切れなかった残りは、シャンテの風刃が静かに刈り取っていく。
誰かが号令をかけたわけではない。ただ、動きの隙間に、次の一手が自然と収まるようになっていた。
「――ほう」
シャンテが感心したように呟く。
「息が合ってきたのう」
アークは内心驚いていた。数刻前まで初対面だった相手と、まるで長年組んできたパーティのように、隙がなくなっている。
その要にいるのは、間違いなくシオンだった。
戦況の全体を見て、次に何が起こるかを先に読み、必要な言葉だけを最小限で放つ。派手さはない。だが、彼が声を発するたびに、四人の動きが噛み合っていく。
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、布の隙間から覗く目が、こちらを見ていた。
「治癒、頼む」
短い一言。
彼の目線を追うと、カイリの二の腕がわずかに裂け、血が滲んでいた。
本人はまるで気にした様子もなかったが、シオンは気になるようだ。
アークは黙って頷き、光を灯した掌をカイリへ向けた。
戦いの中で、少しずつ。
四人の間に、言葉にならない呼吸のようなものが、静かに生まれ始めていた。




