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エルフ王――四百年後、死んだはずの妻が帰ってきた  作者: 忘却セミコロン
第一章 沈黙を解く迷宮

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第十話 名前

シオンは床に手を合わせ、目を閉じた。

「多分あと三層で、核《コア》がある」


帰るか、踏破か。


「もし皆が協力してくれるなら、このダンジョンの核《コア》を抜きたいんじゃが」

シャンテがそう切り出した。


核を手にすれば、ダンジョン内の魔素の供給が止まる。神殿騎士団で対応できない魔物が出始めた以上、このダンジョンは閉じたほうがいいと判断したのだ。


「いいな、踏破か!」

カイリは不敵に笑った。


「二度と、同じ悲劇は起こしたくない」


同意し頷いたアーク。その顔をシオンは、静かに見つめていた。





二十五層。


ドラゴンやオーガといった大型種の多いエリアだった。


カイリは、楽しげにそれらを蹴散らしていく。中でも、オーガに対しては特に容赦がなかった。


「オーガを名乗んな!」

剣を一閃させながら、吐き捨てるように言う。


「弱えくせに、角つけてんじゃねえよ!」

その言葉に、シオンの肩がぴくりと揺れた。俯くように、少し顔を伏せる。


「ハイオーガとオーガは、関係ないんじゃがなあ」

離れた場所から、シャンテがのんびりと口を挟んだ。

「角だけ見て、人間が勝手につけた名なんじゃよ」


アークは、その横顔をちらりと見てから、シオンに尋ねた。

「ハイオーガというのは、強さと角に関係があるのか」


シオンは、少し間を置いてから答えた。

ハイオーガは黒髪と赤い瞳が特徴の、角と牙を持つ種族だ。


ただ彼らの住まう鬼の国ドラウグヴァルでは、奴隷として攫ってきた人間も多く存在するため、混血が生まれやすい。


そうした混血は、純血に比べて見目や能力が劣るとみなされ、下級として扱われる。


同じハイオーガでも、角も無くわずかな牙しかないシオンでは、アリアやカイリとは明確な身分差がある。


「そんなことで……」

アークは、思わず言葉を失った。


「俺のアリアは、角が二つ。美しく長い黒髪に、真紅の瞳だった」

会話に割り込むように、カイリが自慢げに言う。


「……まあ、それでも同僚で、幼馴染だからな。シオンとは仲良くしてやってんだよ」

そう言い残し、カイリは次の敵へと駆け出していった。


アークとシャンテは、思わずシオンを見た。だが、シオン自身は、それを気にした様子もない。


それが、二人にはよほど痛々しく映った。





下層へ降りる前に、一行は野営地を見つけて休むことにした。

敵が強い分、慎重に進む必要がある。


アークは焚き火のそばで、受け取ったばかりの剣の手入れをしていた。布で刃を拭っているだけで、目の奥が熱くなる。


ふと視線を感じて顔を上げると、シオンと目が合った。

口元は見えないのに、微笑んでいる気がした。


アークの口角も、ゆるく上がる。

「シオ……」


「シオン」


割り込むように、カイリが呼んだ。


シオンはほんの少し戸惑いを見せたが、その後をついていく。


アークは説明のつかない予感に、すっと血の気が引くのがわかった。


そんなアークの様子に気づいたのか、カイリは薄く笑ってみせた。それからシオンの手首を掴み、そのまま奥の闇へと消えていった。

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