第九話 おやすみ、ルカ
体勢を整え、四人が一斉に飛び降りた。
アークの張った障壁と、シャンテが纏わせた疾風の加護が、落下の衝撃を殺す。着地の瞬間、足の裏に伝わったのは、乾いた感触だった。
ホールの床には神聖魔法で灰になった、魔物の残骸が積もっていた。一歩踏み出すたびに、サクリ、と乾いた音が鳴る。
奥から、低い唸り声が響く。
遠くにいた三体のドラゴンが、同時にこちらへ首を向けた。
「いくぞ」
カイリが、迷いなく駆け出す。
シオンは一瞬だけ、アーク達を振り返った。
アークは、短く頷いた。シオンも、同じように頷き返す。
シオンは身を翻し、カイリの背を追って走り出した。
シャンテとアークは、ホールの中央へ向かった。
そこには、いくつもの人影が佇み、こちらに手を伸ばしている。
シャンテが足を止め、静かに祝詞を口にした。遠い世界樹へ乞う言葉。正しい輪廻の奔流へ。彼らの魂が、迷うことなく還れますように。
アークは、静かに剣を抜いた。
奴隷だった自分を助け出してくれた、恩人。 弟のように可愛がってくれた、強くて優しい騎士。
かつてよく知った顔の面影は、もうどこにも残っていない。それでも、アークにはわかる。
涙が、一筋こぼれ落ちる。
「おやすみ、ルカ」
崩れかけた成れの果てへ、アークはそっと剣を下ろした。
竜は、地龍が二体、飛竜が一体。
シオンは地龍の背を蹴り、舞い上がった飛竜の翼へ斬りかかった。
硬い皮膜は簡単には裂けなかったが、狙いは正確だった。翼の薄い箇所を正確に叩き、飛行の自由を奪う。
落とせなくとも、それで十分だった。
カイリは、剣に魔力を限界まで乗せ、地龍二体を相手取っていた。一角の額から、魔力が絶えず溢れ出している。
久方ぶりの強敵に、嬉しくて仕方がない顔だ。
シオンは、ようやく地に落ちた飛竜に対し、細かく刻む戦い方を選んだ。柔らかい鱗の間に細かく刺し傷を作りながら、少しずつ削っていく。
時折放たれるブレスも、溜めの気配さえ読めば躱すのは難しくない。
視界の端で皆の様子をうかがいながら、シオンは確実に、飛竜を弱らせ続けた。
最後の聖火が燃え尽きたとき、ホールには、静寂だけが満ちていた。
得意げに竜の逆鱗を掲げるカイリが、中央に歩いてくる。
「シオンは?」
「……何か、探してる」
カイリはつまらなそうに答えた。
しばらくして、シオンが遠くから駆けてくるのが見えた。
その手には、一振りの剣があった。
「これを」
息を切らしながら差し出された剣を、アークは反射的に受け取った。
刀身に、見覚えのある柄。柄尻には、小さく名が刻まれている。
『ルーカス・レデウィン』
ルカの剣だった。
「魔力の残滓を追ったら……あったから」
シオンの声は、いつもより小さかった。
震える手で、剣を強く抱える。
アークの目から、涙が溢れた。
「……ありがとう」
アークは堪えきれず、シオンの肩に額をつけ泣き崩れた。
シオンはただその震えを、静かに受け止めていた。




