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エルフ王――四百年後、死んだはずの妻が帰ってきた  作者: 忘却セミコロン
第一章 沈黙を解く迷宮

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第九話 おやすみ、ルカ

体勢を整え、四人が一斉に飛び降りた。


アークの張った障壁と、シャンテが纏わせた疾風の加護が、落下の衝撃を殺す。着地の瞬間、足の裏に伝わったのは、乾いた感触だった。


ホールの床には神聖魔法で灰になった、魔物の残骸が積もっていた。一歩踏み出すたびに、サクリ、と乾いた音が鳴る。


奥から、低い唸り声が響く。

遠くにいた三体のドラゴンが、同時にこちらへ首を向けた。


「いくぞ」

カイリが、迷いなく駆け出す。


シオンは一瞬だけ、アーク達を振り返った。

アークは、短く頷いた。シオンも、同じように頷き返す。


シオンは身を翻し、カイリの背を追って走り出した。




シャンテとアークは、ホールの中央へ向かった。

そこには、いくつもの人影が佇み、こちらに手を伸ばしている。


シャンテが足を止め、静かに祝詞を口にした。遠い世界樹へ乞う言葉。正しい輪廻の奔流へ。彼らの魂が、迷うことなく還れますように。


アークは、静かに剣を抜いた。


奴隷だった自分を助け出してくれた、恩人。 弟のように可愛がってくれた、強くて優しい騎士。


かつてよく知った顔の面影は、もうどこにも残っていない。それでも、アークにはわかる。


涙が、一筋こぼれ落ちる。


「おやすみ、ルカ」


崩れかけた成れの果てへ、アークはそっと剣を下ろした。




竜は、地龍が二体、飛竜が一体。

シオンは地龍の背を蹴り、舞い上がった飛竜の翼へ斬りかかった。


硬い皮膜は簡単には裂けなかったが、狙いは正確だった。翼の薄い箇所を正確に叩き、飛行の自由を奪う。


落とせなくとも、それで十分だった。


カイリは、剣に魔力を限界まで乗せ、地龍二体を相手取っていた。一角の額から、魔力が絶えず溢れ出している。


久方ぶりの強敵に、嬉しくて仕方がない顔だ。


シオンは、ようやく地に落ちた飛竜に対し、細かく刻む戦い方を選んだ。柔らかい鱗の間に細かく刺し傷を作りながら、少しずつ削っていく。


時折放たれるブレスも、溜めの気配さえ読めば躱すのは難しくない。


視界の端で皆の様子をうかがいながら、シオンは確実に、飛竜を弱らせ続けた。




最後の聖火が燃え尽きたとき、ホールには、静寂だけが満ちていた。


得意げに竜の逆鱗を掲げるカイリが、中央に歩いてくる。


「シオンは?」

「……何か、探してる」

カイリはつまらなそうに答えた。


しばらくして、シオンが遠くから駆けてくるのが見えた。

その手には、一振りの剣があった。


「これを」

息を切らしながら差し出された剣を、アークは反射的に受け取った。


刀身に、見覚えのある柄。柄尻には、小さく名が刻まれている。


『ルーカス・レデウィン』


ルカの剣だった。


「魔力の残滓を追ったら……あったから」

シオンの声は、いつもより小さかった。


震える手で、剣を強く抱える。

アークの目から、涙が溢れた。


「……ありがとう」


アークは堪えきれず、シオンの肩に額をつけ泣き崩れた。


シオンはただその震えを、静かに受け止めていた。

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