第5話 おっさんの僕、王城の門前へと向かう
魔族の襲来により、兵士たちが避難誘導したお陰か、ひと気の無い城下町を、カピオンが突き進む。出来るならば、住人たちが暮らす区域への被害を抑えたい為、町の広場に向かっているところだ。ただ、カピオンが一歩、一歩と前進するたびに、大きな駆動音と地響きが、城下町に鳴り響いている。
「か、カピオン?い、移動方法って……歩くしか無いのかな?」
「はぁいっ……。今のぉ……わたしではぁ、これしかないんですぅ……」
「そ、そうなんだ……」
「ゴメンなさぁいっ!!」
どうしてそんな事を、カピオンに僕が聞いたのかは……とある根拠があったからだ。主人公ロボのレイオンには、初期状態でもホバリング可能な機構が、備わっていたのだ。
まぁ、そもそもサポートロボであるカピオンに、主人公ロボの性能を、期待するのが間違っている。搭乗出来ただけも、凄い事だと思わないとバチが当たる。
「べ、別に……カピオンが謝ることじゃないよ?」
「本当ですかぁっ?」
──『警告!!警告!!衝撃に備えて下さい!!』
突然、操縦席内にオペレーターさんの声が響き、僕たちの危機的状況を伝えた。モニターを見れば、確かに『敵さん』のいる方角から、何か飛翔体が向かってきているのが分かる。
誰のためなのか、その飛翔体が視認しやすいように、周囲を縁取って表示するという、親切設計のようだ。
「カピオンっ!!来るぞっ!!」
「うーんっ、何でしょうかねぇ?」
「ま、魔法かっ?!赤いから……火属性とかな?」
ここが、よくある異世界ファンタジーの世界ならば、魔族や魔物が放った……魔法の可能性が高い。
そんな、得体の知れない飛翔体が迫り来る中、カピオンの落ち着きっぷりが、僕には狂気に感じた。
「あっ!!カピオンの【状態確認】って、僕にも出来るのかな?」
「あぁー、ケイトさんでしたらぁ……可能なはずですよぉっ?」
この異世界においての、カピオンの扱いについて、さっきから気になっていた。『1人』または『1体』として認識されているのか、『1台』の乗り物扱いなのかを。
「【状態確認】っ!!」
──[【状態確認】ステータスやスキルを確認可能]
──[カピオンのステータス]
──[状態:正常]
──[レベル:1]
──[職業:カピオン]
──[職業レベル:1]
「か、カピオンっ?!しょ……職業なのっ!?」
「はぁいっ!!そうなんですよぉっ!!全くぅっ!!失礼しちゃいますよねぇっ?」
職業欄が雑すぎで驚いたのもあるが、カピオンが乗り物扱いでないことが、何故だか嬉しく思えた。僕の『勇者召喚されし者』も、どっちつかずで適当だとは思っていたが、それを遥かに上回った。
「ま、まぁ……カピオンも、この世界では異質な存在ってことなんだろうな?」
「なっ、なるほどぉっ!!ケイトさんの言う通りかも知れませんねぇっ!!」
「で、カピオン?自分のスキルは確認したのか?」
「えぇぇぇっ!?あの5行で終わりじゃないんですかぁっ?!」
ふと、紙袋の中にいたカピオンが、誰の説明も受けず【状態確認】が使えたのか、疑問が生まれた。でも、次の瞬間には、それが杞憂だと気付いた。
だってカピオンは、この世界に来る前からずっと……僕の握りしめた紙袋の中に居たのだから。
「スキルを見せて?」
──[習得済みスキル一覧]
──[【カピオンクロー】Lv1]
──[【カピオンシュート】Lv1]
──[【カピオンスプラッシュ】Lv1]
僕の言葉と共に、カピオンのステータスの表示内容がスキルへと切り替わった。それっぽいスキルが並んでいるが、デフォルメのフォルムのカピオンが使う姿を、全く想像できない。
「わあぁっ!!スキルが3つもあるんですねぇっ!!」
「ええええっ?!ど、どうやって戦うつもりだったのっ!?」
色んな意味で僕は驚きの声をあげた。そもそも僕は、カピオンの内部に居るのに、どうやってステータスの表示を見たのだろうか。それに、自分のスキルが3つあることを、カピオンはこのタイミングで、認識したこともだ。
「それはぁ、ですねぇっ?当たって砕けろですよぉ!!」
「はああああっ!?」
◇◆◇◆◇
──『警告!!警告!!衝撃に備えて下さい!!』
相変わらずオペレーターさんの声が、操縦席内に定期的に響いている。飛翔体の正体が、ハッキリとモニターで視認出来る大きさまで、迫ってきていた。因みに、AGI=汎用人工知能の解析によると、火属性魔法【ファイアーボール】とのことだ。
「『悪者さん』たちはぁ、どちらに行かれたのでしょうかぁっ?」
──『承知しました!!探知範囲を拡げます!!』
AGIが予測した、【ファイアーボール】に当たらない位置まで、カピオンは前進し続けている。それと並行して、未だにコンタクトしない『悪者さん』こと魔族や魔物を、探していた。
「さっきは、あんなに……ロックオンしてたのになぁ?」
「はぁいっ!!そうなんですよぉっ!!『悪者さん』たちぃっ?どこ行っちゃったんですかぁっ?」
「あぁ、そうか……。王城の方へ向かったんじゃないのか?恐らく、本来の目的はそっちだからな?」
「もっ、もしかしてぇっ!?わっ、わたしたちのことぉっ……眼中にないってことですかぁっ?!」
見るからに大きくて、異様な外見をした初見の相手に挑むのは、相当な覚悟とリスクを負う。魔法などの遠距離攻撃を、その相手に対して多数放っておいて、その間に距離を取ればいい。
その標的にされた方は、向かってくる遠距離攻撃について、必然的に回避行動を取ることになる。その数が多ければ多いほど、回避行動などに時間を割く羽目になる。
──『ケイトさんの仰る通りです!!現在、王城に向け、多数の未確認生物が侵攻中です!!』
今、モニターで確認できているだけで、【ファイアーボール】の数は、優に20を超えている。しかも、放たれた位置がそれぞれ違うのか、時差でこちらに到達することを、AGIが予測している。
「この位置からなら……そこの角を曲がれば、【ファイアーボール】も躱わせて、王城に先周り出来るかもな?」
──『はい!!こちらでも経路予測しましたが、王城までの最短経路です!!』
「はぁいっ!!『悪者さん』たちにぃ、ひと言言いたいのでぇっ?わたしぃ、向かいますよぉっ!!」
ここまで、カピオンが歩くと地面が沈み、地響きと大きな駆動音も伴うので、なるべく影響が少ない経路を選んで進んでいた。今から進もうとしている通りは、カピオンの機体では、横幅がギリギリ通れるかどうかで避けていた。
それに、僕をこの世界に勇者召喚しておいて、勇者スキルがハズレだからと、即厄介払いした王たちを助ける義理はないと、先程までは思っていた。
「カピオォォォンっ!!向かうぞおぉぉぉっ!!」
「はぁいっ!!」
ただ、こちらには攻撃スキルを3つも有する、カピオンがいるのだ。こういう展開でよくあるのが、王城の者たちの目の前で、魔族を蹴散らしてしまうザマァパターンだ。
しかし、カピオンは主人公ロボではなく、サポートロボなので、潜在的なポテンシャルが全く未知数だ。いざ、魔族たちとの戦闘になり、あっという間に、こちらが蹴散らされる可能性もあり得る。
でも、一歩踏み出してやってみないことには、何も分からず仕舞いのまま、終わるかもしれない。
それに、レイオンの時代になかった技術が、カピオンには反映されていることは、間違いない。操縦席だけ見ても、25年前にはなかった技術が使われている。
──『警告!!警告!!衝撃に備えて下さい!!』
「前からっ、来ますっ!!」
歩行に慣れたのかは知らないが、カピオンは王城の門前の広場まで、辿り着いていた。前方から、複数の【ファイアーボール】がカピオン目掛け、飛んできているのがモニターに映った。
もし、ここでカピオンが避ければ、王城への被害は免れないのは、誰がどう見ても分かることだ。
「な、なんだあれは?!」
「ぴ、ピンク色の……ば、化け物っ!!」
「はぁいぃぃぃっ?!化け物ですってぇ!?」
閉じられた王城の門前で、大勢の兵士たちが様々な武器を持ち、臨戦態勢になっているのは見えた。だが、まさか化け物呼ばわりされるとは、カピオン自身は思ってもいなかったようだ。
「まぁまぁ……カピオン?細かいこと、気にするな?僕も、そいつらに厄介払いされたからさ?」
「守ってあげる義理なんてぇ、ぜんっ!!ぜんっ!!ないですぅっ!!」




