第4話 おっさんの僕、ロボット♀に搭乗する
「か、カピオンなのかい?」
『説明はぁ、またぁ後ほどぉっ!!早くぅっ!!【機乗】って叫んで下さぁいっ!!』
明らかにその声は、紙袋の中にある化粧箱から、発せられている。確信を得ることが出来たのは、他でもなく耳を箱に近づけてみたからだ。ただ、本当にそうなのだとしても、気になることがひとつだけあった。
もし、ダイキャストフィギュアであるはずの、カピオンが喋っているのだとすると、声が違うのだ。25年前のアニメ放送時の声優さんの声とは、明らかに違うのだけど、どこか聴き馴染みがあった。
「いくぞおぉぉぉっ!!カピオォォォンッ!!」
「はあぁぁぁいっ!!」
一度、言ってみたかったセリフの1つだった。主人公ロボであるレイオンに搭乗する際、相棒であるもう一人の主人公の青年がそう叫ぶのだ。
ただ、この状況……どうみてもレイオンではなく、カピオンなのだろうから、僕のアドリブだ。
「【機乗】ぉぉぉっ!!」
──[【機乗】機乗可能]
簡単でも【機乗】について、スキルの説明が表示されると……期待していた僕が馬鹿だった。
──『機乗……承認』
「へっ?!」
スキルの説明の残念感を吹き飛ばすかのように、紙袋の中から、もう一人の女性の声が聞こえた。アニメ『機装械真ヴェルレイオン』の、ロボに機乗=搭乗したりするシーンでは、お馴染みの声だった。
「ま、マジで!?この声、オペレーターさんでしょ?!」
「はぁいっ!!マジですよぉ?」
突然、紙袋があり得ないくらいの質量を持って、底が抜けた。紙袋というか、カピオンの入った化粧箱と表現するのが正しいだろうか。
中身は、ただのダイキャストフィギュアのはずだ。でも、ドスンという音と地響きがして、地面が化粧箱の形で10cm以上めり込んでいる。
「ほ、本当に……カピオンなの?」
「あのぉ……ケイトさぁんっ?少ぉしぃ……離れててくださいねぇっ?」
次の展開が、容易に想像がついてしまった。本来のカピオンのサイズまで戻りたいのだろう。レイオンが5m程の全高で、カピオンはデフォルメのフォルムで、4m程という公式情報だったはずだ。
この城下町の郊外とは言え、4m級のロボが出現すると周囲への影響が……と周囲を見た。先程の兵士さんに避難を促されたこと、紙袋が喋り出したことで、人目のつかぬ場所に無意識に来ていた。
とは言え、僕自身が化粧箱のそばに居ては、確実巻き込まれるだろう。とりあえず、自分の感覚で5mくらい離れると、そこから見守ることにした。
「カピオン!!離れてみた!!」
「はぁいっ!!ケイトさぁんっ!!ありがとうございまぁすっ!!」
バリッと音がしたと思ったら、化粧箱が弾け、保護材の発泡スチロールも粉々になった。先程まで、何も遮るもののなかった僕の目の前には、大きな影が出現した。
鮮やかなピンク色で、カッパの女の子がデフォルメされたそのフォルム。アニメでよく見ていた、サポートロボのカピオンその姿だった。
「ま、マジなのか……」
「ケイトさぁんっ?もう承認済みなのでぇ……早くぅ乗って下さいねぇっ?」
カピオン(?)が動くたび、駆動音や、部品同士が擦れる音が、間近にいる僕の耳に飛び込んでくる。かなりの大きな音で、建設機械のそばという表現が近いだろうか。
まぁ……実際の話、4mもの機械を動かすのに、静かなはずがないのだ。車は車輪なので駆動が簡単だが、二足歩行のロボットはそんな訳にはいかない。
「あぁっ!?ケイトさぁんっ、大変でぇすっ!!」
「えっ?えっ?な、何が大変なの?!」
「すみませぇんっ!!気付かれちゃったんでぇすっ!!」
「へ?き、気付かれたって……だ、誰に?!」
「そ、それはぁっ?勿論っ……『悪者さん』たちにですよぉっ!!」
4mもの高さがある上、カピオンの外装は鮮やかなピンク色だ。それに、日本以外……いや、日本人ですら、実際カッパの姿を見た人など、極めて希だ。
ただ、ここは異世界で、魔族や魔物が居ることは確定している。まだ姿は見ていないが、そんな『悪者さん』が気付く程のインパクトが、カピオンにはあるのだろう。流石、日本を代表するようなUMA(未確認動物)と言ったところか。
「な、なぁ?カピオンに乗り込む時って、どうすればいいんだい?!」
『機装械真ヴェルレイオン』の作中で、カピオンに主人公の青年が機乗する回は一度もない。主人公ロボのレイオンがいるのに、わざわざサポートロボに搭乗する意味がない。
この場には、カピオンしかいないし、そもそも僕は主人公の青年でもない。
「ケイトさぁんっ?わたしの目の前にぃ、立って下さぁいっ!!」
まだ恐らくとしか言えないが、レイオンに搭乗する時と、ギミックが同じのようだ。
「こ、この辺で、良いのか?」
「はぁいっ!!ケイトさぁんっ?完璧でぇすっ!!」
「うおぉぉぉっ?!」
突然、カピオンの胸部辺りから、まばゆい光が放たれた。ただ、ここまでは僕の中では想定内だった。しかし、あまりにも眩しい光量で、思わず声が出てしまった。
「うっ……んっ、おおおおっ!!」
「ようこそぉっ!!ケイトさぁんっ!!」
眩しい光が消えたので、恐る恐る目を開けた。すると、僕の目の前から城下町の風景は消えており、先程カピオンと名乗る声が聞こえた。
「ぼ、僕は……か、カピオンの」
「はぁいっ!!恥ずかしいのでぇ、そ、それ以外はぁ……なしでお願いしまぁすっ!!」
カピオンの言ってる内容では、絶対に誤解を招くので、ちゃんと説明をしておこう。現在、僕が居ると思われるのが、カピオンの内部であり操縦席だ。
まず圧倒されたのが、目の前にある巨大な180度周囲モニターだろう。そこから約70〜80cm程手前の位置に、様々なコンソールを備えた操縦席が設置されている。
先程、僕が目を開けた際、大きな声をあげてしまったのは、その席に座した状態だったからだ。何故、すぐ分かったかと言えば、アニメ放送時の主人公ロボ、レイオンの内部構造に似ていたのだ。
それに、目の前のモニターに表示されている映像は、恐らくカピオンが見ているものなのだろう。こちらに向かって進んできている、複数の異形の存在たちの姿が、ロックオンと囲んで表示されている。
カピオンは、この情報をもとに『悪者さん』たちと称し、魔物の動向を僕に警告してきたのだろう。
アニメでも主人公の青年が、モニターに映し出された映像で、敵を見つけロックオンしていた。
「あれっ?」
「ど、どうしましたぁっ?!」
「いや……えっと、ロックオンって手動だよね?」
「あぁー!!わたしぃ、ロックオンはAGI制御なんですっ!!」
「え、AGIって……汎用人工知能の略だよな?」
AIではなく、更に踏み込んだAGI制御とは、25年も経てば、採用する技術も革新していた。操縦席のコンソール部分が、異様にスッキリして見えたのだが、そういう理由からだったらしい。
「はぁいっ!!因みにぃ?わたしもぉ……AGPなんですけどねぇ?」
「AGP……?んー、汎用人工……人格ってこと?」
「はぁいっ!!流石はぁ、ケイトさんですねぇっ?」
AGPなる言葉は、聞いたことなかったが、AP=人工人格は聞いたことがあった。AGIからの流れで、そうではないかと思い答えたら、当たっただけだ。
「わ、分かったから……!!カピオンっ!!ロックオンしてる『悪者さん』とやらが、向かって来てるが……」
「あぁっ!?そうでしたぁっ!!少ぉしぃ、前進してぇ……迎え撃ちまぁすっ!!」
コンソールにある、カピオンの各部位の健康状況が表示されたパネルの横に、タッチパネルがある。レイオンはそこに、【機装】、【変形】、【合体】とボタンがあり、主人公の青年が毎回押していた。
確認する限り、レイオンのボタンがあった箇所には、非活性化されたボタンの表示があるだけだ。
「か、カピオンっ?!ど、どうやって……『悪者さん』たちと、戦うつもりなんだっ!?」
「わたしにぃっ、任せて下さいぃっ!!」
カピオンはそう言うと、僕の不安をよそに、魔物たちが向かって来ている方角へと、歩きはじめた。




