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第3話 おっさんの僕、紙袋から可愛い声を聞く

「ささ、勇者様?こちらで、勇者スキルの鑑定を致しましょう」


「勇者スキルの鑑定……ですか?」


「はい!!左様でございます。勇者召喚されし、異なる世界から渡し者のみが授かるという、固有スキルでございます!!」


 これは、異世界転生や異世界転移モノの作品の冒頭で、よく見かける場面そのものだ。まさか自分が、その立場になろうとは、夢にも思わなかった。


 あの後すぐ、司祭風の男性が声をかけると、騎士風の男性たちが、僕の周りを取り囲んだ。

 何をされるのかと、思わず僕は身構えた。でもそれは考えすぎなだけで、冷たい床の上から僕の身体を、その場に立たせてくれただけだった。


 その際、僕はあることに気付いてしまう。両手で大事に握りしめていた、戦利品の入った紙袋が1つ無いことに。

 それも、あろうことかレイオンの箱が入っていた紙袋の方だった。しかも、レイオンの方には、初回生産限定で、合体するサポートロボのダイキャストフィギュアも、同梱されていたのだ。

 だから、今の僕の精神的ダメージは計り知れない。


 救いだったのは、カピオンの箱が入っていた紙袋は、しっかり右手で握りしめられていたことだ。しかも、その中には水川さんからの手紙が、入っていたのだ。

 コインパーキングから移動する際、どちらの袋とは特に意識はせず、その中へ手紙を入れていた。


「では、勇者様。こちらの宝石に手をかざして頂けますでしょうか?」


「分かりました」


 透明で輝きを放つ巨大な宝石が、祭壇のような場所に置かれていた。司祭風の男性に促されるまま、僕はその宝石の前へと立った。


「こ、こんな感じで、良いでしょうか?」


「はい、ありがとうございます


 宝石の前へと、手をかざそうとした時だった。僕の視界の中に、祭壇の奥の暗がりから、こちらを覗き見ているような人影が、飛び込んできた。

 よく目を凝らして見れば、煌びやかな衣装を全身に纏った、50〜60歳ほどの男性だった。

 大概こういう流れだと、この男性は勇者召喚を命じた張本人というのが、定石だろう。


──「勇者スキルの鑑定が完了しました」

──「鑑定結果についてお伝えいたします」

──「【機乗(きじょう)】Lv1」

──「【修復(しゅうふく)】Lv1」

──「【自動翻訳(じどうほんやく)】Lv1」

──「【無限収納(むげんしゅうのう)】Lv1」

──「以上です」


 どういう仕組みなのか不明だが、どこからともなく読み上げる声が、周囲に響いた。明らかに、僕が授かった勇者スキルは、ハズレスキルとしか言いようがなかった。読み上げが終わる頃には、完全に嫌な空気が周囲に漂っていた。


「き、【騎乗(きじょう)】に、【修復】ですか……え?あ、はい」


 祭壇の奥の暗がりにいる男性が、手招きしたかと思うと、司祭風の男性が慌てて駆け寄っていった。何となく、この後の展開が読めてしまって、辛い。


◇◆◇◆◇


「はぁ……。どうしよう……」


 手元には、金貨が10枚程入った袋。僕は、勇者召喚あるあるの、ハズレスキルで厄介払いされたのだ。別世界から僕を召喚した、迷惑料兼手切れ金を手渡され、先程の場所から追い出されたカタチだ。

 どうやら、王城の敷地内にある、屋根のない祭壇の間に僕は居たらしい。


 正直、この世界のお金なんて貰っても、何も嬉しくない。ハズレスキルと分かったなら、僕を元いた地球に、日本に、戻して欲しかった。

 勝手に勇者として、僕を召喚しておいて、厄介払いするとは酷い話だ。志願してこんな異世界に来たいと、勇者になりたいと、来たわけではない。


 城下町をトボトボ歩いているが、街並みや住人の服装から、文明レベルは地球の中世ほどだろうか。この町で見かける住人の人種は、多種多様だった。エルフみたいな人種、ドワーフみたいな人種、動物みたいな人種、その状況証拠から、明らかに地球じゃない事は確定している。


「【状態確認(じょうたいかくにん)】!!」

──[【状態確認】ステータスやスキルを確認可能]


 『状態確認』、まぁ……よくあるステータスの確認のことらしい。この世界では、ステータスの確認について、そう唱えれば現在の状態を即座に確認できるとのこと。

 それにしても、唱えた直後……目の前に、スキル名と簡単な説明が、数秒浮かぶと消えた。そういう仕様なのだろうか。


──[ケイト・コーノのステータス]

──[状態:正常]

──[レベル:1]

──[職業:勇者召喚されし者]

──[職業レベル:1]


 「へぇ……」


 僕の名前は、河野恵斗なのだが……漢字は廃されて、まるで海外の方でも通る表記で、登録されている。厄介払いされて、王城から出て行く際、応対してくれていた、司祭風の男性が教えてくれたのだ。


 ただ、使うのは今が初めてだった。自分のステータスが、どんな風に確認出来るか、凄く興味があった。

 結果的には、表示する媒体など何もない目の前に、文字が5行浮き上がって見えている。なかなか、見かけないタイプのステータスの表示方法だ。

 とりあえず、職業は『勇者召喚されし者』だったので、少しホッとしている。

 これが……展開的にはよくある、『無職』とかだったら、この場に泣き崩れていたと思う。


「スキルが見たいな……」


──[習得済みスキル一覧]

──[【機乗】Lv1]

──[【修復】Lv1]

──[【自動翻訳】Lv1]

──[【無限収納】Lv1]


 目の前に表示されていた文字が、僕の独り言に反応するように、瞬時に更新された。


「あ、あれ?『騎乗なぞ誰でも出来る』って、笑われたけど……俺のは【機乗】じゃん!!」


 機乗と言えば、SFアニメなどではお馴染みの、マシンやロボットなどの機体への搭乗と同意だ。そうなると、この世界には、【機乗】可能な何か機体が……あるということになる。

 ただ、残念なことに、ここの王達は【機乗】というスキルや、それに連なる知識を有していなかった。そう思うだけでも、少し今のどんよりした僕の気分が晴れそうだ。


 確かに、もう一つの【修復】は、その機体に『機乗』する上では欠かせないと言える。スキルの説明が、一切書かれていないので、想像の域は出ないが。

 【自動翻訳】は、異世界転移の作品ではよく見かけるスキルで、実際王城の人たちと普通に会話することが出来た。この目の前に表示されてる文字も、現地語から翻訳されているのだろう。

 残る【無限収納】については、まだ利用出来ていない。名前から想像するに、どんなサイズでも際限なく収納できそうではあるので、期待している。


「うわぁぁぁぁっ!!魔族だぁぁぁぁっ!!」


「よ、予告通り……来やがった!!」


 城下町の郊外で、座り込んで一喜一憂していた僕の耳に、そんな声が飛び込んできた。先程までの、賑やかな城下町の様子が一変した。お店を営む住人たちは戸締りを始め、城下町を訪れていたであろう旅人たちは、逃げ惑っている。


 先程の『予告通り』って言葉が、僕の耳に強く残った。まさか、その魔族とやらに対抗するため、王城ではその為に【勇者召喚】を試みた。でも、肝心な僕の固有スキルが、鑑定したら誰でも得られるハズレスキルだと、王たちは勘違いして追い出した。


「まさか、点と点が繋がり始めたな……」


 僕の【機乗】スキルは、機体あってこそ生きる。手元になければ、あの王たちが言う通り、ハズレスキルでしかない。ただ、免許証を持ってるだけでは、役に立たない。


「襲撃だぁぁぁぁっ!!おいっ!!兄ちゃん、逃げろ!!魔族に殺されるぞ!!」


「な、何が起きたんですか?」


「ほら!!あっちを見てみろ!!爆炎が上がってるだろ!!遂に、魔族が攻撃して来たんだよ!!」


 その出で立ちからして、甲冑に槍と長盾を持った、この城下町の兵士というところだろう。先程の王城に居た兵士とは、階級の格差だろうか、えらく貧相な装備だ。

 恐らく、住人や旅人たちを、まだ魔族が迫ってきていない側へ、逃がす任を負っているのだろう。


「魔族は、どれくらいの数なんですか?」


「魔族は1人だが、引き連れている魔物が、見えただけでも100以上」


「では、魔族を叩けば」


「お、おいっ!?ば、馬鹿なこと言うな!!相手は、中位の魔族だぞっ?!お、俺たち下級兵士が束でかかっても、無理だ……」


 中位の魔族、これよくある展開だと……オープニングで主人公がそいつにやられて、なんとか一命を取り留めて……ってやつだ。ましてや、今の僕なんて、ただの旅人Aとなんら変わらない。


『ケイトさぁんっ!!【機乗】って叫んで下さぁいっ!!』


 可愛らしい……どこか聞き覚えのある声が、右手で握りしめた紙袋の辺りから、ハッキリ聞こえた。紙袋を覗いても、中にはカピオンのダイキャストフィギュアが、箱入りで入っているだけだった。

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