第6話 おっさんの僕、魔物との初遭遇で戦う
王城へと迫る【ファイアーボール】に対し、何とかカピオンを説得した僕は、打開策を練っていた。そうしている間にも、カピオンと【ファイアーボール】の距離は、着実に狭まってきている。
「もおぉぉぉっ!!【カピオンスプラッシュ】!!」
──[【カピオンスプラッシュ】カピオンから放たれる拡散水弾]
カピオンのスキルを叫ぶ声と共に、僕の目の前にスキルと簡易的な説明が、浮かび上がった。スプラッシュいうネーミングだったので、何となくは予想はしていたが、全くそれを裏切らなかった。
モニターにはカピオンから、無数の水の塊のようなものが、目前に迫る【ファイアーボール】に向け、放たれる様子が映し出された。
──『報告します!!複数の【ファイアーボール】の消滅を確認しました!!』
「おおおおっ!!カピオンっ!!凄いじゃないかっ!!」
【カピオンスプラッシュ】の効果と状況を、いち早く伝えてくれたのは、オペレーターさんだった。危機的状況を打開すべく、自らの意思でスキルを試みてくれたカピオンに、僕は労いの声をあげた。
「た、助かったぞおぉぉぉっ!!」
「み、味方なのかぁ?!」
「化け物って言って悪かったぁ!!」
先程まで、カピオンに対して散々な言い様だった、王城前の兵士たちの態度がコロっと軟化した。目の前で、迫り来る複数の【ファイアーボール】を、スキルで打ち消したのが効いているようだ。
それもこれも、全てカピオン自らの判断で、行動した事による功績だ。僕はと言えば、ただモニターでそれを見守るしか出来なかった。
「……」
「あ、あれっ?か、カピオン?一体どうした?!」
「あはっ……!!あははははぁっ……!!」
初手から、一目瞭然の分かりやすい成果で、カピオンは悦に入っているに違いない。しかも、スキル的にもカピオン自体、初見と僕はみている。ただ、こんな笑い方のカピオンは、アニメ放送時のエピソードで見た記憶は、僕の中にはない。
「か、カピオン!?だ、大丈夫か?」
「はっ!?なっ、なんでもないですよぉっ?」
──『警告!!警告!!衝撃に備えて下さい!!』
モニターには、【ファイアーボール】が再度表示されたが、加えて何者かをロックオンしたようだ。そのロックオンしたほぼ同位置から【ファイアーボール】が放たれたのも、AGIが導き出していた。
「ま、前っ!!」
「ぴ、ピンクの……お方ぁ!!【ファイアーボール】来てますっ!!」
──「はぁいっ!!兵士の皆さぁんっ?ご声援ありがとうございまぁすぅっ!!」
王城前の兵士からどよめき、ざわめきが起きた。外部スピーカーから流れたその声が、その見た目には似合わぬ、可愛らしい女性のものだったからだ。
アニメ放送時のカピオンの声優さんとは、全く声質は異なっているが、可愛い声をしている。それに、僕はこのカピオンの声を、どこかで聞いた記憶があるような気がするのだ。
「ねぇっ!!名前、何て言うのぉ?」
「おいっ!!ずるいぞお前っ!!」
「抜け駆けだっ!!抜け駆けっ!!」
──「あ、あのぉっ?下がってて下さいねぇっ?」
「か、カピオンっ!!何かが、向かってきてるぞっ!!」
「えっ!?」
和やかなムードをぶち壊すように、ロックオンしていた何者かが、急速にこちらへと接近していた。それは、自らが放ったと思われる、【ファイアーボール】の群れを、追い越す程のスピードでだ。
──『警告!!警告!!回避をご提案します!!』
「もぉうっ!!間に合いませぇんっ!!【カピオンクロー】!!」
──[【カピオンクロー】カピオンから放たれる渾身の一爪]
AGIからの予測を伝える、オペレーターさんの提案はカピオンには届いてはいた。ただ、主人公ロボと違い、サポートロボのカピオンには、それに応えられる機動力が無いのだろう。
間に合わないとカピオンが判断し、この状況だ。レイオンには専用の武器があるため、格闘系の必殺技の使用は見たことがなかった。味方のロボやサポートメカでも、使用する者はごく僅かしか見たことがない。
「しねえぇぇぇっ!!」
──『警告!!警告!!衝撃に備えて下さい!!」
モニター上に、何者かの姿が鮮明に映し出された。俗にファンタジー世界で言う、悪魔とか魔族とか呼ばれている、異形の人型の種族だろう。
黒髪に青褐色の肌、目は白目の部分が黒く、虹彩の色が金で、黒目部分が白い。
先程、厄介払いされた後、城下町を彷徨っていたが、こんな人型の種族は見かけなかったと思う。
とりあえず、仮で悪者1号とでも、僕は呼ぶことにする。
「か、カピオォォォンッ!!」
まぁ、そんな悠長な事を言っている暇などない。急接近してきた勢いのまま、悪者1号はその手に握られた戦斧を、明らかな殺意と掛け声と共に、躊躇なくカピオンに向け振り下ろしてきた。
「ていやあぁぁぁっ!!」
◇◆◇◆◇
カッパモチーフのカピオンの手はデフォルメされており、特に爪などは概念的な意匠と思っていた。
しかし、今……目の前のモニターに映し出された光景は、そんなイメージを一瞬で吹き飛ばした。
「か、カピ……オン……だよな?」
なんという事だろう、カピオンの手からは、某アメコミヒーロー的なエグい爪が、5本出ている。しかも……その右手、いや右腕は……悪者1号の身体を貫いていた。
丸腰だと見誤り、カピオンへと単騎で突っ込んできた、悪者1号の慢心が招いた結果とも言える。
まぁ、なんと言うべきか、カピオンのそれは……生き物の爪とは程遠く、凶器としか形容し難い。
それはそうと、悪者1号はピクリとも動かない。
「えっ?!えぇぇぇっ!?なっ、何なんですかぁこれぇっ!!」
「何なんですかって……そりゃ、悪者1号に【カピオンクロー】、お見舞いした結果だろ?」
「わ、わたしぃ……し、知らなかったんですよぉっ!!こ、こんな攻撃が出来ただなんてぇっ!!」
正直言って、カピオン自身が知らない攻撃なんて、存在するのだろうか。先程、迫り来る【ファイアーボール】を、上手に迎撃してみせた【カピオンスプラッシュ】然りだ。
今の【カピオンクロー】なんて、どう考えても刃が予め仕込まれてなければ、説明つかないだろう。
「あぁ!?そ、そうだっ!!カピオン、怪我は?!」
「そ、そうでしたぁっ!!『しねえぇぇぇっ!!』って……わたしぃ、ぶ、武器をぉ……振り下ろされてたんでしたぁっ!!」
身体の様子を確認しようとしているのか、モニターの映像が左を向いたり、右を向いたりし始めた。ただ、腕が悪者1号の胸の辺りを貫通したまま、確認しようとしているようで、動き辛そうに見える。
「な、なぁ……?カピオン、動き辛くないか?早く、腕……抜いたらどうだ?」
「はっ!?はいぃぃぃっ!!そうでしたぁっ!!」
カピオンが天然キャラというのは、アニメをリアタイで視聴していた僕は、知ってはいた。知ってはいたのだが、ここまでとは思ってもみなかった。
おもむろに、悪者1号の肩あたりを左手で掴むと、胸部を貫通している右腕を……引き抜いた。
「ほらぁ?ケイトさぁーんっ!!腕ぇ、抜けましたよぉっ?」
「今の抜き方……敵とはいえ、酷くないか?……って!?爪、消えた?!」
モニター越しに見る、その挙動はヒーローらしからぬもので、思わず口を挟んでしまう程酷かった。サポートロボといえど、ヒーローには代わりない。
後ろで大勢の兵士たちが見守る中なら、尚更だ。
蛮行をしたおかげで、敵だと認定されてしまったら、撤回するまでに時間がかかり面倒だからだ。
──「カピオンLv1は、『グレーターデーモン』を倒しました」
「わぁいっ!!やりましたぁっ!!」
「ぐ、『グレーターデーモン』っ?!」
勇者スキルの鑑定の時と同じく、天の声……アナウンスと共に、目の前にも文字が表示され始めた。まさかの、カピオンによる『グレーターデーモン』の討伐。Lv1だという事も考えて、『レッサーデーモン』あたりかと想像していた。
──「パーティは、1000の経験値を獲得しました」
──「ケイトLv1、カピオンLv1、パーティ内のLv高低差0、公平に分配されます」
「はあぁぁぁっ?!」




