表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀が護りし緋の神子 ―花笑の箒星―  作者: おやまみかげ
第1折 春色の夢見草

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/13

8句 黎明の少女


「あ、旭様!! どうなさいましたか!?」


 夜の相楽邸に、使用人の声が響き渡る。

 自室で本を読んでいた憩は、その名を聞いて部屋を飛び出した。


 階段を下りた先にある玄関ホール。

 そこには、ボサボサの髪にドス黒いクマ、ヨレヨレの隊服を着た兄が、隊士たちに両脇を支えられながら立っていた。


「お兄様!! 一体どうなさったのですか!?」


 愛しい妹の声に、それまで輝きを失っていた旭の瞳が生を取り戻す。


「憩……!! ただいま! 遅くなってごめんね。手紙も読んだよ、返事を書けなくてごめんね」

「手紙なんて、今はそんなことはいいのです! 申し訳ございませんが、お兄様を客間まで運んでいただけますか?」


 隊士たちは言われるがまま、旭を客間へと運んでいく。

 オロオロとするばかりの使用人に、憩は声をかけた。


「お湯と手拭い、それからあたたかいお飲み物をお願いします」

「か、かしこまりました……」

 

 使用人が去ると、少女はすぐさま兄の後を追った。




「お兄様、ご気分はいかがですか?」

「……ごめんね、憩。大丈夫だよ」


 ソファに横たわる、痛々しい姿の兄。

 けして傷を負っているわけではない。寝不足で見た目がひどいだけで……。


「隊士の方から伺いました。寝ずにお仕事されていたんですよね……」

「うん、思ったより仕事が片付かなくて。ごめんね、手紙も返さず心配かけたよね」

「そんなことはいいのです……! お兄様が無事帰ってきてくだされば……」


 憩は下唇をグッと噛み締めると、旭の顔を手拭いでそっと拭う。


 私が、花火大会のことをお手紙に書いたから。

 だからお兄様は、お仕事を終わらせるために無理して……。


 

 ——私が、わがままなんて言ったから。


 

「……憩、違うよ。この間も言っただろう?」


 目に涙を溜め、今にも泣き出しそうな妹の頭を旭はそっと撫でる。


 憩は何も悪くない。

 僕たちがこの子を閉じ込めてしまっている。

 その()が、奴らに渡ると()()だからと教えることもせず——。


「お兄様も(なごみ)も、憩と過ごす時間が1番大切なんだよ。だから、一緒に過ごしたいと言われるのは何よりも嬉しいことなんだ」

「でも……」

「ごめんね。こんな姿で帰ってきたから、びっくりさせてしまったよね」


 こぼれ落ちる妹の涙を拭いながら、旭は迷っていた。


 もう、伝えるべきなのだろうか。

 憩も来年で16になる。そろそろ自らの血の秘密を知っても……。

 ——いや、ダメだ。伝えたら、この子は自らを犠牲にするかもしれない。

 そんなこと、絶対にさせはしないんだ。


「ごめんね、憩。明後日の花火大会は絶対に3人で行こうね」

「はい……、でも今はお休みください。お兄様がお好きな胡桃入りのクッキーも焼いたんですよ」

「うん、ありがとう憩。起きたら必ず食べるから……」


 微睡んでいく意識の中、自分の手を握る妹の微笑みだけが旭の心を救っていた。




 旭が眠りにつくと、憩は自室へと戻っていた。


「私が待っていることしかできないから、お兄様もお姉様も……」


 窓の外に目をやる。今日は満月だ。

 静かな闇の中に浮かび、辺りを照らす力強い月。

 それはまるで、ずっと会いたい誰かにそっくりだった。


「朔夜……」

 

 ふと、彼に送っていた手紙を思い出す。

 毎回手紙の最後に書いていた締めの言葉。

 

 ——早く帰ってきてくれると嬉しいな。


「私……、朔夜にも無理させてる……?」


 だから、1回もお返事をくれないの……?

 ただ待っていることしかできない、護られることしかできないから……?


 ずっと屋敷で過ごしてきた憩は、家事全般は大得意だ。

 侯爵令嬢としての振る舞いも、勉学にも励んできた。

 しかし1つだけ、絶対にやらせてもらえないことがあった。


「……私が自分の身を守れるくらい強くなれば、みんなが無理をしなくて済む。私が強くなれば……」


 ——いいかい、絶対に怪我をしてはいけないよ。


 何度兄姉に言われたかわからない。

 そのため、護身術などの教育は一切受けていなかった。


「明日、お兄様にお願いしてみよう」


 憩は再び満月を見上げる。


 ——私、強くなるから。だから待ってて。

 

 万年筆と便箋を取り出すと、すぐに手紙を書き始めた。




 *

 

(そま)さーん!! よかった、間に合った! 手紙っす!!」


 西領(さいりょう)の最北端にある屯所。

 ここで朔夜は、部下の指導に当たっていた。

 

 普段は西領司令部にいる彼も、時折様子を見るために領土各地にある屯所をまわる。

 手紙や書類は全て司令部に届くが、その度に部下が朔夜の元へと届けていた。


「毎回持ってこなくていいって言ってんだろ」

「でもこの手紙は届けた方がいいって先輩が……」


 まもなく夜間の巡回任務に出るところだった上司へと手紙を渡す。

 受け取ったそれには、几帳面な字で「朔夜へ」と綴られていた。

 

 中を開けなくても、差出人が誰であるかは一目でわかる。

 手紙を開くと、いつもと変わらない見慣れた字が並んでいた。


 

 朔夜へ

 お元気ですか?

 私は変わらずお屋敷で毎日退屈な日々を送っています。

 花火大会、今年はお兄様とお姉様と見に行きます。

 朔夜のいる西領からも花火は見えるのかな?

 また一緒に花火が見られる日を楽しみにしています。

 最後になりますが、詩を詠んだので贈ります。

 月の君 闇を照らせし その影は 黎明の空 なお光りけり

 憩

 


「なんだ、この詩……」

 

 週に1回届く憩からの手紙。

 今までこんなものが書かれていたことは1度もなかった。

 そして、朔夜が感じたもう1つの違和感。


 ……早く帰ってきてくれると嬉しいな、って書いてねぇな。


 無意識に胸ポケットに手が伸びる。

 そこには、今まで憩からもらった手紙を製本した宝物が入っている。

 前回の手紙に同封されていた桜の花。

 あれも栞にして、その本に大切に挟んでいた。


 ……あいつ、なんかあったのか?


 そう思いつつも、返事は出さない。いや、出せなかった。


 ——俺も早くいこに会いたい。


 そんな期待させることを書けるはずがない。

 いつ会えるかもわからない、叶えられるかもわからない約束なんてできない。

 

 報告で本部に行くことがあっても、それは業務でのことだ。

 だから朔夜は、絶対に少女に会わないようにしていた。

 会ってしまったら、もう西門(さいもん)でいることができなくなるとわかっていたから。

 

「花火か……」

「杣さん? どうしたんすか?」

「いや、なんでもねぇよ」


 西領からは、桜の満開を祝う帝都の花火大会は見えない。

 だが朔夜の胸には、かつて一緒に見た花火が色鮮やかに咲いていた。

 



 

 これにて第1折は終幕、2折からは夏が始まります。

 

 憩ちゃんが朔夜に贈った詩。これは作者の創作です(._.)

 いつも通り、創作に創作を載せるスタイルぶちかましました。

 季語とか細かいことは考えていません。

 何故なら、憩ちゃんが朔夜を想って書いたことが大事なので……。


 次話は、ちょっとした人物紹介&用語説明を挟みます。

 ですので、物語が進むのはその次の話からになるのですが、まとめて更新するので土曜日は2話上がります( ✌︎'ω')✌︎


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ