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白銀が護りし緋の神子 ―花笑の箒星―  作者: おやまみかげ
第1折 春色の夢見草

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2句 鳥籠の少女


「今日は憩の行きたいところに行こうね」

「はい! お兄様、ありがとうございます」


 翌日、旭は憩と外出するため休暇をとっていた。

 あの後も色々行き先を考えはしたのだが、本人の気持ちが最優先だということに、今朝ようやく辿り着いたところだった。


「でも、お仕事がお忙しいのでは?」

「大丈夫だよ。僕が憩と出かけたかったんだ」

「嬉しいです! 私もお兄様とお出かけしたかったんです!」

「本当かい!? 僕はなんて幸せなお兄様なんだろう……」


 やはり、今日は休みをとって正解だった。

 報告書は山ほど溜まっているけれど、この笑顔に勝るものはないな……。

 

 陽の光を全身で浴びながら、隣で金色の瞳を輝かせる愛おしい妹。

 自分がそばにいられる今だけは、自由に羽根を広げられるかわいそうな妹――。


 ごめんね憩、だけどキミを護るためなんだ。

 

「じゃあ、どこから行こうか」


 未だ伝えられぬ秘密を抱えたまま、旭はにっこり微笑んだ。

 


 

「憩、これだけでいいのかい?」

「これだけって……、5冊もよろしいのですか?」

「もちろんじゃないか!」


 兄妹は屋敷から歩いて10分ほどの本屋へと来ていた。

 この距離でさえ、兄もしくは特務部隊が一緒ではないと外出が叶わない。

 旭に買ってもらった本を胸に抱えながら、憩は嬉しそうに店を後にする。


「お兄様、ありがとうございます!」

「どういたしまして。次はどこに行きたい?」

「えっと、では次は――」

「旭さん! お疲れ様です!!」


 少女が行き先を伝えようとしたタイミングで、夜間の巡回任務を終えた特務部隊の隊士たちが旭に声をかけた。

 愛する妹の言葉を遮られたシスコンの眉間には、一瞬深いシワが刻まれる。

 しかし、すぐにいつもの東門(とうもん)の聖人へと表情を切り替えた。


「お疲れ様。変わりはなかったかい?」

「はい! 昨晩も問題ありませんでした!」

「それならよかった。総司令には僕から伝えておくから、今日はこのまま帰っていいよ」

「ありがとうございます!」

 

 上官である旭と巡回班の隊長が話しているすぐ隣で、金色の瞳を持つ少女に目を奪われている新人隊士がいた。

 それに気づいた隊長が、すかさず隊士を肘で小突く。

 

「おい、無礼だぞ!」

「し、失礼しました!!」


 指摘され、新人隊士の頬が赤らむ。

 それと同時に旭の顔から一瞬笑顔が消えたが、それに気づくものは隊長以外いない。

 兄が話し終わるのを静かに待っていた憩は、一歩前に出ると隊士に微笑みかけた。

 

「ごきげんよう。初めまして、相楽憩と申します。いつもお祖父様やお兄様がお世話になっております」

「い、いえ! 滅相もございません!! 自分は――」


 少女に挨拶された隊士が自己紹介をしようとしたところで、隊長が慌てて彼の口を塞ぐ。


「多大なるご無礼を!! きつく言い聞かせますので!!」

「構わないさ、初回だからね。じゃあ、あとは頼んだよ」


 去っていく上官たちを、隊士たちは敬礼をしながら見送る。

 兄妹の姿が見えなくなると、隊長が大きなため息をついた。


「お前……、憩ちゃんに馴れ馴れしく声をかけるなんて……」

(なごみ)さんの下の妹さんですよね!? 初めてお会いしました!!」

「いいか? あの子に声をかけられても、返すのは挨拶だけするんだ」

「えぇ!? せっかくだから名前だけでも!!」


 興奮気味で話す新人の肩を、隊長ががっちりと掴む。

 そして、真剣な眼差しで一言だけこう伝えた。

 

 ――まだ、死にたくないだろう?




 *

 

 特務部隊は、大日本帝国を東西南北で分けた4領土単位で活動している。

 各領土には“四門(しもん)“と呼ばれる領土長が存在し、彼らの指示で隊士たちは日々任務当たる。

 その部隊の総司令こそが、憩たちの祖父である黄山(おうざん)だ。


「ごめんね憩、話が途中になってしまったね」

「いえ! ご挨拶ができてよかったです!」


 邪魔をされずに妹と話をするために、兄妹は甘味処へと来ていた。

 テーブルの上は、憩が注文した甘味で埋め尽くされている。


「憩は本当に食べるのが好きだね」

「はい! お兄様と来られたのが嬉しくて、頼みすぎてしまいました……」

「そっかぁ……、ゆっくりでいいからね」

「はい! いただきます!」


 嬉しそうに目の前でみつ豆を頬張る妹。

 ゆっくり、とは言ったものの甘味は次々に憩のお腹へと消えていく。


 憩のこんなに嬉しそうな顔、久々に見た気がする。

 僕も忙しくてなかなか外に連れ出してあげられないし、和とだと外には出られないからなぁ。

 朔夜が一緒に住んでいた頃はもう少し外に出られていたから、尚更寂しい思いをさせてしまっている……。


 悶々としている兄の考えなど露ほども知らぬ少女は、甘味の締めに抹茶を飲んでいた。

 

「お昼ご飯にトンカツを食べに行こうかと思っていたんだけれど、食べられそうかい?」

「トンカツ……!!」


 金色の瞳を見開きキラキラと輝かせる愛おしい妹の姿に、旭の目尻がさらに下がる。


「お昼ご飯の前に、行きたいところはあるかい?」

「はい! 寄りたいところがあります!」

 

 外に出られたとしても、近場しか飛べない鳥籠の金糸雀(カナリア)

 せめて、一緒にいられるときぐらいは好きに羽根を広げられるように――。


 鳥籠に鍵をかけるしか護る術のない現実から、旭は今だけ目を逸らした。


 

 


シスコンでブラコンの兄妹ですが、

本人たちは兄妹なんだから当たり前ぐらいの感覚です。



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