表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀が護りし緋の神子 ―花笑の箒星―  作者: おやまみかげ
第1折 春色の夢見草

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/15

1句 金色の少女


「こらぁ、(いこい)!! お主はまた窓から脱走しおって!!」


 3階建ての煉瓦(れんが)造りのお屋敷。

 その屋敷の一角にある書斎で、黄山(おうざん)が怒鳴り声をあげていた。

 帝都中に聞こえるのではないかという大声は、孫娘である憩に向けられたものだ。


「だって、お祖父様が許可してくださらないから……」


 着物をギュッと握りしめながら、15歳の憩は黄山の前に立っていた。

 揺れる金色(こんじき)の瞳には、疲れ切った祖父の顔が映っている。


「何度も言っておるじゃろ。(あさひ)と一緒なら外出許可を出すと」

「お兄様は忙しくて帰ってこないではないですか……」

「仕方ないじゃろ、あやつは四門(しもん)の中でもトップだからな。それに欲しいものがあるなら、矢桐(やぎり)に頼めば買ってきてもらえるじゃろ?」


 そういうことじゃないもん……。


 諭すような祖父の言葉に、憩の眉間にシワが寄る。

 

 相楽家の当主である黄山が言うように、少女の専属である矢桐に頼めば、必要な物は屋敷から出なくても揃えられる。

 しかし、憩の目的はそこではないのだ。


「……お主が外に出たいのはわかるが、危険だと何度も教えておるじゃろ?」

「わかっています……」

「それならもう2度と、窓から脱走したりせぬようにな」


 その言葉に返事をすることなく、憩は書斎を後にした。




「私だって、別に好きでこの()なわけじゃないのに……」


 憩は自室に戻ると、化粧台の前で自分自身と睨めっこしていた。

 兄である旭にも、姉である(なごみ)にも、同じ血が流れているはずなのに、2人とも瞳の色は淡い薄茶色。

 顔も似ているし、髪色も同じなのに、なぜか瞳の色だけが違う——。


「私も()()()()がよかったな……」


 大きなため息をつくと、鏡の中の自分と再び目が合った。


 ——いいか、憩。

 金色の瞳は帝都では、いや帝国ではとても珍しいものじゃ。

 その瞳に惹かれる者も少なくはない。絶対に1人では外出せぬようにな。

 外に出るときは、必ず儂か旭の許可を取るように。


「……お祖父様が許可を出してくれたのなんて、たった数回」


 黄山の教えを思い出しながら、窓の外を見つめる。

 

 季節は春を迎えたばかりだ。

 小鳥たちが楽しそうに歌を奏でている。

 上手な子もいれば、下手くそな子もいる。

 しかしどの子も春の陽を浴びながら、楽しそうに過ごしていた。


「……いいなぁ。私も自由に外に出たい」


 3階にある自室は、ちょうど小鳥たちと目が合う位置だ。

 外にいるその子たちとの違いに、憩は再び大きなため息をついた。




  *

 

「旭さん、ご報告申し上げます!」


 帝都が一望できる高台の上で、旭は部下から言伝を聞いていた。

 内容は吸血鬼(ヴァンパイア)の出没状況や他領土の守備報告などで、特段変わったことはない。


「ありがとう、引き続きよろしく頼むよ」

「かしこまりました!」


 にこやかに返す上司に、隊士は誇らしげに返事をする。


 ――帝国陸軍特務部隊。別名、対吸血鬼討伐部隊。

 彼らは帝都に跋扈(ばっこ)する吸血鬼を、秘密裏に処理する組織だ。

 その活躍が表に出ることはなく、同じ陸軍にでさえ公表されることはない。


「今日は帰れそうかな……」


 緋色(ひいろ)に染まる担当領土を眺めながら、旭は静かに口を開いた。


 もう1週間も屋敷に帰れていない。

 先月した憩との約束も護ることができなかった。

 あんなに楽しみにしていてくれたのに、兄として不甲斐ない……。


「何か、新しい本でも――」


 いや、それではダメだ。

 あの子は外に出たいのだから、それを叶えてあげないと……。

 今日はもう遅いから、明日は朝から憩と本屋に行ってそれから——。


 夕日に照らされながら、何やら物思いにふける旭。

 そんな彼の背を、まるで崇高なものを見るかのように隊士たちは眺めていた。


「やっぱり旭さんかっこいいよな! 侯爵家のご子息なのに偉そうにしないし」

「他の四門たちより優しいし、東門(とうもん)の聖人って二つ名なだけあるよな!」

「きっと今も、俺たちが思いつかないようなすごいこと考えてるんだぜ!!」


 憩は甘味も好きだから、やはり甘味処にも寄るべきかな?

 でも、久々に2人でトンカツを食べに行くというのも捨てがたい……。

 あ! そうだ!

 トンカツを食べに行って、それから甘味処に行けばいいんだよ!


 部下たちからは慕われ、上官からの信頼も厚い相楽旭。

 しかしその実態は、妹を愛してやまない重度のシスコンなのである。

 



 *

 

 ——いこ。お前、また爺さんに叱られてんのか?


朔夜(さくや)!?」


 憩は飛び起きると、辺りを見渡す。

 窓から細く差し込む月明かりが、寂しく部屋を照らしていた。


「なんだ、夢か……」


 もぞもぞと、再びベッドに身体を沈める。


「朔夜に会いたいなぁ……」


 彼と生活を共にしたのはたったの2年間。

 だけど、私にとっては忘れられない2年間——。


 初めて行った花火大会、初めて行った本屋さん、初めて行った甘味処。


 全部全部、朔夜が連れていってくれた。連れ出してくれた。

 いつも隣にいてくれた、誰よりも会いたい大好きな人との大切な思い出——。

 

 暗い天井を見つめていると、なぜか視界が歪み始める。


「早く、帰ってきてくれないかなぁ……」


 頬を伝う寂しさを抱えたまま、夜はしんしんと更けていった。



 

憩ちゃんの鳥籠時代のお話――。

ちょっとしんみりなところも多いのですが、

お楽しみいただけますと幸いです*\(^o^)/*

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ