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白銀が護りし緋の神子 ―花笑の箒星―  作者: おやまみかげ
第2折 夏色の君影草

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11句 凍てつく泡雪


「憩様、ここはもっと優雅に舞うのです!」

「ゆ、優雅とは……?」

「もっとお淑やかに、ということですよ!」

「申し訳ございません……」


 指南役に叱責され、少女が肩をすくめる。

 そんな主人の姿を、矢桐は稽古場の隅で見守っていた。


 あの指南役(アマ)、言い方があるだろう。

 次の言葉次第では、また追い返してやる。


 今にも口から出そうな言葉を飲み込み、少女を見つめる。

 

 この舞の指南役は、(なごみ)の指導も行っていた。

 しかし吉原で売れっ子の彼女に、もはや教えられることなど何もない。

 そのため、憩への指導が一種の憂さ晴らしになっていた。


「全く、()()お伝えすれば——」

「もうよろしいのではないですか?」


 そう、口にし始めたところで矢桐が止めに入る。

 少女のトラウマを掘り起こしそうな指導を、彼女は許せなかったのだ。


「しかし、これでは優雅さが——」

「頭に血が昇り、優雅に指導できない貴女がそれを言いますか?」

「……もう、今日は終わりにします!」

「そうですか、ありがとうございました」


 指南役が睨みつけるのも気にせず、矢桐は稽古場の扉を開ける。


「終わったのでしたら、お引き取りください」


 使用人にそう言われ、怒りを露わにしたまま彼女は帰っていった。




「憩様、大丈夫ですか?」

「はい、申し訳ございません……」

「謝るようなことはありませんよ。彼女が悪いのです」


 青ざめてしまった少女を落ち着かせようと、矢桐は声をかける。


 どうしてこうも、舞の指南役はまともな方がいないのか……。

 黄山(おうざん)様は現状を知らないし、旭様に相談した方がいいかもしれない。


 そんなことを考えながら、主人の背中をさする。

 幾分か落ち着いたのか、顔色は徐々によくなってきていた。


「ご気分はいかがですか?」

「もう大丈夫です。それで、あの……」

「わかりました。冷やしぜんざいをお持ちしますので、少しお待ちくださいね」

「ありがとうございます……!!」


 お腹を空かせた主人のために、矢桐は稽古場を後にした。




 *


「だあー!! まだ始まんねえのか!?」

「うるせぇな。爺さんも寒凪(かんなぎ)もまだ来てねぇだろが」

「つーか寒凪遅くね!? あいつ遅刻かよ!!」

「まだ時間ではないからね、遅刻ではないよ」


 相変わらず騒がしい(れん)と、嫌々ながらも返事をする朔夜。

 そんな2人の会話を聞きながら、旭は管轄である東領(とうりょう)の仕事をこなしていた。


「なんだー? 東領、そんな仕事溜まってんのか?」

「いや、そういうわけではないんだけれどね。時間があるときに進めておきたいんだ」

「ほおー、さすが東門(とうもん)だな!!」

「テメェも少しは見習えよ」


 その言葉に漣が口を返そうとしたとき、書斎の扉が叩かれた。


「旭様、失礼いたします。寒凪様がいらっしゃいました」

「ありがとう、通してくれるかい?」


 使用人が扉を開けると、雪のように儚い美青年が姿を見せる。

 長い黒髪を後ろで1つに纏めたその姿は、声さえ出さなければ麗しの乙女そのものだ。

 

 旭は彼に柔らかい笑顔を向けた。


千歳(ちとせ)、お疲れ様。遠くから来てくれてありがとう」

「……別に、仕事ですから」


 にこりともせず、そう冷たく言い放つ。

 

 今期、北門(ほくもん)を継いだ千歳はまだ17歳。

 総司令の孫である旭でさえ、東門を継いだのは18歳の時だ。


「寒凪!! お前若いんだから、もっと声出そうぜ!!」

「……うるさいんですけど」


 空気を変えようと漣が声をかけるが、この様に一刀両断である。

 普段、彼に対して同じような返事をしている朔夜が見かねて声をかけた。


「お前さ、仮にもこいつ先輩だからな?」

「……(そま)さんだって、似たようなものですよね」

「あ? んだとコラ……」

「はいはい、喧嘩しないよ」


 朔夜が掴みかかりそうなところで、旭が止めに入る。

 漣と朔夜以上に、千歳は問題児だった。


 彼の能力は、同期の中でもずば抜けて高い。

 冷静な判断力、論理的思考力は旭に次ぐレベルなのだ。

 だからこそ、史上最年少で四門に選ばれているのだが——。


「……僕は喧嘩を売られてる側です」

 

 この通り、対人関係が壊滅的なのである。


「千歳、漣も朔夜も先輩だから敬うようにね」

「……旭さんのことは尊敬しています」

「旭のことは!? じゃあ俺は!? 俺!!」

「……うざ」


 あまりの扱いに、漣が立ち上がる。

 今回ばかりは朔夜も彼の味方だった。


「はいはい、やめてね」

「でも旭! こいつが——」

「漣、キミは先輩なんだよね? それならそれらしく振る舞うべきじゃないかい?」

「それは……、そうかもしんねえけどさ……」


 ぶつぶつと文句を言いつつも、漣はソファに座り直す。


「千歳もあまり刺激するようなことは言わないようにね」

「……わかりました」


 全く……、漣と朔夜だけでも騒がしいのに、ここに千歳も加わるだなんて。

 みんなの能力が高いのはわかっているけれど、これで本当に大丈夫なのだろうか……。


 ようやく静かになった3人を見ながら、旭は大きなため息をついた。


 



 北門登場! これで四門勢揃い*\(^o^)/*

 にしてもこやつら、問題児ばっかりじゃね……。



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