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白銀が護りし緋の神子 ―花笑の箒星―  作者: おやまみかげ
第2折 夏色の君影草

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11/13

10句 軽薄な色男


 夏の始まり。

 それは普段、それぞれの領土を護っている四門(しもん)が本部に集まる時期でもある。

 春夏秋冬――新たな四季が巡る度に集まり、各領土の情報を共有するのだ。


「うおぉぉぉー!! ここに来るのも久しぶりだなー!!」


 特務部隊の本部でもある相楽邸の目の前で、身長185センチの筋肉だるまが大声を上げた。

 胸元を開けた黒色(こくしょく)の隊服に、ふわふわとセットされた茶色い髪。

 どう見ても軍人とは思えないその出立に、道行く人々は怪訝な視線を送る。


「おいおい、そんなに注目されたら困るだろ!? あ! 俺が色男すぎるからか!!」


 単に不審者だと思われているだけなのだが、頭まで筋肉でできているこの男が理解できるはずもなかった。


「うるせぇ奴がいると思ったらテメェかよ……」

「あー!! (そま)じゃねえか!!」

「だからうるせぇって言ってんだろ!! 大声出すんじゃねぇよ!!」


 そう言いつつも、朔夜もだいぶ声を張っていた。

 いい歳をした男たちが、侯爵家の目の前でギャイギャイと騒いでいる。

 もはや通報されてもおかしくはない。

 そこにちょうど、東領(とうりょう)司令部から戻ってきた旭が合流した。


「……2人とも、そこで一体何をしているんだい?」


 穏やかに微笑みながらも、目は全く笑っていない上官に、2人の背筋が凍る。


「あ、旭!! 久しぶりだなー!!」

「久しぶりだね、(れん)。それで、その隊服の着こなしはどういうことなのか、説明してもらってもいいかな?」


 同期であり親友であり上官である旭の雷が、南門(なんもん)細小波(いさらなみ) (れん)に落ちた。



 

 *


「憩様、稽古のお時間ですよ」

「……どうしても行かねばなりませんか?」

「はい。旭様とお約束されましたよね?」

「そ、それはそうなのですが……」


 兄が雷を落としている頃、少女は矢桐に諭されていた。

 

 憩は令嬢教育の一環として、箏や茶道などの芸事も習っている。

 その中で、どうしても好きになれないものが1つだけあった。


「憩様、行きますよ」

「でも……」

「舞がお嫌いなのは存じておりますが、これが終わらねば護身術の稽古はしませんよ」


 その言葉に、少女は渋々立ち上がる。

 足取りの重い主人の後ろを歩きながら、矢桐は聞こえないようにため息をついた。

 

 ひどい指南役だったから、お嫌いになっても仕方がない……。

 

 憩が5つの頃についていた、舞の指南役。

 教える本人の技術は確かに素晴らしいものだったが、指導の仕方が最悪だった。

 

 常に姉・(なごみ)との差を指摘し、何故できないのかと咎め続ける。

 その結果、少女は6つになる前に舞が大嫌いになってしまったのだ。

 新しい指南役が来ても、その気持ちが変わることはなく、今も嫌々稽古を受けている。


 ……それにしても、旭様はよくお考えになる。


 これから行われる四門会。

 旭は、憩が朔夜と鉢合わせないよう、毎回稽古の日程を調整していた。

 少女が舞の稽古を渋ることも想定し、それを終えてから護身術の稽古に入るよう、今回は矢桐に指示を出していたのだ。


「はぁ……」

「舞の稽古が終わりましたら、今日は冷やしぜんざいをお持ちしますから」

「ぜんざいですか!?」

「はい。ですので頑張りましょうね」

 

 好物の餅に釣られ、憩は嫌々ながらも稽古場の扉を開けた。



 

 *


「旭。あの、いこは……」

「今は稽古中のはずだから大丈夫さ」

「毎回ありがとうございます」


 朔夜の問いに、旭は笑顔で答える。

 そんな2人のやり取りを、漣は不思議そうな顔で聞いていた。


「あのさー、なんで毎回憩を避けるんだ? 一緒に住んでたじゃねえかよお前」

「テメェに関係ねぇだろが」

「いいじゃねえかよ聞いたって!! てかお前さっきからテメェってひどくね!? 俺のが先輩なんだけど!?」

「先に生まれただけで偉そうにすんな」

 

 屋敷に入ってからもギャイギャイと騒ぎ続ける2人に、旭は大きなため息をついた。


 全く……、だからこの2人を揃えたくないんだ……。

 とはいえ、今日は四門会だから仕方がないんだけれど。


 漣と朔夜は、けして仲が悪いわけではない。

 レイピアを使う近接型の朔夜に対して、漣はハンドガンを使う遠距離型だ。

 戦闘時の相性も、連携も悪くない。むしろいいぐらいだ。

 しかし顔を合わせれば、毎回このようにくだらないことで言い争っている。


「ほら、もう書斎に着くよ」

「だってさー、こいつひどいんだぜ?」

「テメェがしつけぇからだろ」

「はあ!? お前本当に生意気な後輩だな!!」


 収まるどころかヒートアップする2人に、旭は微笑みかけた。


「2人は今日、何をしにここに来ているのかな?」


 その笑顔に、思わず2人は顔を見合わせる。

 

 まずい……!! 旭がブチ切れかけている……!!


「わ、悪かったって! 仲良くすっからさ!」

「すみません、騒がしくて……」

「うん、わかってくれたのならいいよ。じゃあ入ろうか」


 ——東門(とうもん)の聖人・相楽 旭。

 特務部隊で絶対に怒らせてはいけない人物である。



 


 南門、ついに登場*\(^o^)/*



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