10句 軽薄な色男
夏の始まり。
それは普段、それぞれの領土を護っている四門が本部に集まる時期でもある。
春夏秋冬――新たな四季が巡る度に集まり、各領土の情報を共有するのだ。
「うおぉぉぉー!! ここに来るのも久しぶりだなー!!」
特務部隊の本部でもある相楽邸の目の前で、身長185センチの筋肉だるまが大声を上げた。
胸元を開けた黒色の隊服に、ふわふわとセットされた茶色い髪。
どう見ても軍人とは思えないその出立に、道行く人々は怪訝な視線を送る。
「おいおい、そんなに注目されたら困るだろ!? あ! 俺が色男すぎるからか!!」
単に不審者だと思われているだけなのだが、頭まで筋肉でできているこの男が理解できるはずもなかった。
「うるせぇ奴がいると思ったらテメェかよ……」
「あー!! 杣じゃねえか!!」
「だからうるせぇって言ってんだろ!! 大声出すんじゃねぇよ!!」
そう言いつつも、朔夜もだいぶ声を張っていた。
いい歳をした男たちが、侯爵家の目の前でギャイギャイと騒いでいる。
もはや通報されてもおかしくはない。
そこにちょうど、東領司令部から戻ってきた旭が合流した。
「……2人とも、そこで一体何をしているんだい?」
穏やかに微笑みながらも、目は全く笑っていない上官に、2人の背筋が凍る。
「あ、旭!! 久しぶりだなー!!」
「久しぶりだね、漣。それで、その隊服の着こなしはどういうことなのか、説明してもらってもいいかな?」
同期であり親友であり上官である旭の雷が、南門・細小波 漣に落ちた。
*
「憩様、稽古のお時間ですよ」
「……どうしても行かねばなりませんか?」
「はい。旭様とお約束されましたよね?」
「そ、それはそうなのですが……」
兄が雷を落としている頃、少女は矢桐に諭されていた。
憩は令嬢教育の一環として、箏や茶道などの芸事も習っている。
その中で、どうしても好きになれないものが1つだけあった。
「憩様、行きますよ」
「でも……」
「舞がお嫌いなのは存じておりますが、これが終わらねば護身術の稽古はしませんよ」
その言葉に、少女は渋々立ち上がる。
足取りの重い主人の後ろを歩きながら、矢桐は聞こえないようにため息をついた。
ひどい指南役だったから、お嫌いになっても仕方がない……。
憩が5つの頃についていた、舞の指南役。
教える本人の技術は確かに素晴らしいものだったが、指導の仕方が最悪だった。
常に姉・和との差を指摘し、何故できないのかと咎め続ける。
その結果、少女は6つになる前に舞が大嫌いになってしまったのだ。
新しい指南役が来ても、その気持ちが変わることはなく、今も嫌々稽古を受けている。
……それにしても、旭様はよくお考えになる。
これから行われる四門会。
旭は、憩が朔夜と鉢合わせないよう、毎回稽古の日程を調整していた。
少女が舞の稽古を渋ることも想定し、それを終えてから護身術の稽古に入るよう、今回は矢桐に指示を出していたのだ。
「はぁ……」
「舞の稽古が終わりましたら、今日は冷やしぜんざいをお持ちしますから」
「ぜんざいですか!?」
「はい。ですので頑張りましょうね」
好物の餅に釣られ、憩は嫌々ながらも稽古場の扉を開けた。
*
「旭。あの、いこは……」
「今は稽古中のはずだから大丈夫さ」
「毎回ありがとうございます」
朔夜の問いに、旭は笑顔で答える。
そんな2人のやり取りを、漣は不思議そうな顔で聞いていた。
「あのさー、なんで毎回憩を避けるんだ? 一緒に住んでたじゃねえかよお前」
「テメェに関係ねぇだろが」
「いいじゃねえかよ聞いたって!! てかお前さっきからテメェってひどくね!? 俺のが先輩なんだけど!?」
「先に生まれただけで偉そうにすんな」
屋敷に入ってからもギャイギャイと騒ぎ続ける2人に、旭は大きなため息をついた。
全く……、だからこの2人を揃えたくないんだ……。
とはいえ、今日は四門会だから仕方がないんだけれど。
漣と朔夜は、けして仲が悪いわけではない。
レイピアを使う近接型の朔夜に対して、漣はハンドガンを使う遠距離型だ。
戦闘時の相性も、連携も悪くない。むしろいいぐらいだ。
しかし顔を合わせれば、毎回このようにくだらないことで言い争っている。
「ほら、もう書斎に着くよ」
「だってさー、こいつひどいんだぜ?」
「テメェがしつけぇからだろ」
「はあ!? お前本当に生意気な後輩だな!!」
収まるどころかヒートアップする2人に、旭は微笑みかけた。
「2人は今日、何をしにここに来ているのかな?」
その笑顔に、思わず2人は顔を見合わせる。
まずい……!! 旭がブチ切れかけている……!!
「わ、悪かったって! 仲良くすっからさ!」
「すみません、騒がしくて……」
「うん、わかってくれたのならいいよ。じゃあ入ろうか」
——東門の聖人・相楽 旭。
特務部隊で絶対に怒らせてはいけない人物である。
南門、ついに登場*\(^o^)/*




