一人と一匹と、寄り道 〜錆びた栄光と、ひとつの果実〜
1.
傾きかけた夕陽が、のどかな田舎村の入り口をオレンジ色に染め上げている。
長い長い街道を歩き通した一人と一匹は、ようやく見えてきたその村の入り口に立つ、ひと際大きな樹の影で足を止めた。
村よりも、寧ろ、大樹のほうが主役であると錯覚してしまいそうなほどに、その大樹は悠然と空まで伸びている。
地面を波打たせるように這う太い根は、悠久の時を経て岩のように硬く変質しており、見上げるほどの巨大な天蓋が、空を赤く染める夕陽の光を幾重にも切り裂いて、足元に濃い影を落としていた。
「ふぅ。なんとか日が暮れる前に着いたね」
『ああ。魔物の気配も薄い、退屈だが平穏な村のようだ』
「ゆっくり休めそうだ」
伸びをするコロの隣で、ウルがふと鼻先を向けた。
向こうに見える巨大な樹の根元。
苔生した何かの石碑に背を預けるようにして、一人の男が座り込んでいるようだ。
ボロボロに擦り切れた外套を羽織り、頬はこけてひどく不健康そうだったが、その腰には不釣り合いなほど立派な長剣が帯びられていた。
柄に施された細工はかつての栄華を思わせるほど精巧だが、手入れが行き届いていない刃の根本には赤茶けた錆がこびりつき、まるで彼自身の朽ちゆく命を体現しているかのようだった。
『おい』
「ん?」
『……なんだ、あれは』
ウルの言葉に、コロの耳がピクリと動いた。
「あれって……ああ、あの見窄らしい人?」
『ああ。この村の住人か?』
コロは男をチラリと一瞥しただけで、すぐに興味を失ったように視線を村へと戻した。
「さあね。遠目から村を見た限りでは、あんな風に路傍に座り込むほど困窮している村には見えないけど」
『では物乞いか』
「こんな田舎の村で?ははは、物乞いをするにしても、ちょっと効率が悪いね」
男は虚ろな目で宙を見つめたまま、一人と一匹が通り過ぎてもピクリとも動かない。
行き交う村人たちも、男を遠巻きに見てはいるものの、特に声をかける様子もなかった。
『生きてはいるようだな』
「辛うじて、ね」
コロにとって、自分たちに実害のない他人の事情など、道端の小石と同じ。
一人と一匹はそのまま男の横を素通りし、村の宿へと向かった。
ザク、ザクと、乾いた土を踏みしめるコロの足音だけが、虚ろな目をした男の耳元を無関心に通り過ぎていく。
当然、夕食の席でも宿の主人にあの男の話題を振ることはなく、主人からも特段その話題が出ることはなかった。
2.
翌朝。
窓から差し込む明るい朝日と、香ばしく焼かれたパンの匂いに満たされた宿の食堂で、朝食を済ませた一人と一匹は、主人から興味深い話を聞き出していた。
「お、この村の東にある森っていうと、『酸鳴きの森』に行くのかい?」
「そういう名前なの?そこへ行こうと思うんだ」
「あそこにはなぁ、今の時期、酸っぱいんだけど慣れるとやみつきになる美味い果実が実るんだよ!」
そう言いながら、主人がヒョイと手元の籠から取り出したのは、皮の薄そうなミカンに似た赤い果物だった。
主人の太い指が皮を剥いた瞬間、プツッという小気味良い音と共に、目が覚めるような鮮烈な酸味を含んだ果汁の香りが弾け、テーブルの周りにフワリと広がった。
「ほれ、野ミジアっていうんだけどさ」
「普通のミジアなら知ってるけど、味が薄い食べ物だなって印象かな」
「これは違うんだよなぁ。ほれ、食べてみなよ」
そして無造作に手渡された実を、コロは自身の口へと放り込みつつも、ジッと目を見つめてくるウルにの口にも放り込んだ。
『……美味いな!』
「うん、凄く美味しい。疲れが取れそうな味がするね」
一人と一匹の尻尾がゆさゆさと機嫌良さそうに揺れている。
「もし急ぐ旅じゃないんだったらさ、薬草を採取するついでに摘んでみたらどうだい?」
その提案に、ウルの尻尾が微かに揺れたのをコロは見逃さなかった。
「ありがとう、おじさん。それじゃあ、今日はその森を探索してみるよ」
「魔力が見える人の話だとさ、なんか魔力が溜まっている辺りに生えてる木に、特に美味い実がなるんだってさ」
「分かった。いっぱい採れたらお裾分けするから、背負う籠を貸して欲しいな」
「お!いいよ!ちょっと待ってなよー?」
奥へと小走りで向かう主人の背中を見送りながら、コロは口の中に残る爽やかな甘酸っぱさを舌で転がした。
『……コロ。あの果実、思いのほか悪くないな』
「うん。適度な酸味のおかげで疲労回復にも効きそうだし、なにより美味しい。それに、皮を干してドライフルーツにしても日持ちしそうだよ」
『ふむ。魔力が集まる場所に実るというのも興味深い。ならば、数日はこの村を拠点にして、あの森の果実を根こそぎ収穫するのも悪くない選択だ』
ウルが名残惜しそうに鼻先をペロリと舐めながら提案すると、コロも実務的な計算を終えたように小さく頷いた。
「そうだね。急ぐ旅でもないし、当分の食料と路銀の足しには十分なりそう。しばらくはあの森で『収穫祭』といこうか」
そうこうしているうちに、主人が奥から大きな背負い籠を二つ抱えて戻ってきた。
「ほらよ! 嬢ちゃんの分と、そっちの大きな犬の背中に括り付けられそうなやつも見繕ってきたぞ!」
「ありがとう、おじさん。それじゃあ、さっそく行ってくるね」
『犬ではないが……まあ、この背中を貸してやろう』
美味しい果実への期待からか、ウルの足取りは普段よりも少しだけ軽い。
かくして、大きな籠を手に入れた一人と一匹は、村の入り口を抜けてお目当ての森へと足を向けるのだった。
身支度を整え、村の入り口を抜けて森へと向かう途中。
一人と一匹は、再びあの悠然たる大樹の下を通りかかった。
昨日と全く同じ場所で、全く同じ姿勢のまま、錆びた剣を抱えるようにして座り込んでいる男。
『……あいつは何をしているんだ』
「息をしているのと、じっと茂みを眺めている以外、特段何かをしているようには見えないね。……まあ、私たちには関係ないよ」
コロは肩をすくめ、男に一瞥もくれることなく、お目当ての森へと足を踏み入れていった。
3.
村の東に広がる『酸鳴きの森』は、宿の主人が言っていた通り、野ミジアの木々が群生する豊かな場所だった。
魔力が溜まりやすいという森の奥深くに進むにつれ、鼻腔をくすぐる特有の甘酸っぱい香りが濃くなっていく。
「おお、いっぱい生えてるね」
『……美味い実がこれほどあるというのに、つまらんほど獣の気配がないな』
「ああ、この『キィキィ』って木が擦れる音のせいだね」
『ん?ああ、言われてみれば……』
野ミジアがたわわに実っている木の葉や枝が、風に揺られて擦れ合うたび、コロの言う通り耳障りな『キィキィ』という金切り音を立てていた。
「良くも悪くも鈍感な人類とか、ウルみたいな上位種にはただの音だけどさ、敏感な動物はこれは近寄れないよ。それに、この音に魔力が乗っちゃってるから、有象無象の魔物が縄張りにするにはちょっと難しいんじゃないかな」
『そうか、そんなものか』
「このうるさい音で『魔力酔い』しちゃうんじゃないかな」
『いずれにせよ、僥倖ということだな』
「そうだね、収穫祭をしようか」
そう言って、背負っていた籠を背負い直すコロ。
「日当たりのいい高い場所にある実のほうが、赤みも強くて美味しそうだよ」
『フン、造作もない。下で構えていろ、コロ』
収穫しはじめたものの、コロの幼い少女のような背丈では、到底手の届かない頭上の枝葉。
しかし、誇り高きアッシュウルフであるウルにとっては、恰好の遊び場――もとい、狩り場であった。
タッ、と。
巨体とは思えないほど軽やかな身のこなしでウルが幹を蹴り、宙を舞う。
しなやかな体躯が枝から枝へと飛び移りながら、鋭い牙と前足を器用に使って、赤く熟した野ミジアだけを正確に弾き落としていった。
「ウル。次はもう少し右の枝をお願い」
『任せておけ。……フッ、そら!』
ポトポト、ボトッ!と落ちてくる大量の果実を、コロは木の下を駆け回り、背負い籠で次々とキャッチしていく。
無駄な動きが一切ない、長年の相棒ならではの完璧な連携プレイだ。
物理的な腕力や身長のなさを、ウルの圧倒的な身体能力が完全にカバーしている。
「ふふっ。これなら籠がいっぱいになるのも時間の問題だね。今日のウルはすごく働き者だ」
『当然だ。美味い果実を食うための労働ならば、やぶさかではないからな』
「奮発して砂糖を買ったら、これで美味しいジャムが作れそうだね」
『いいな。焼いた肉が柔らかくなるやつか』
「うん。私が頑張らなくても、村でそういうのを作っているかもだしね」
尻尾を機嫌良く揺らしながら、一人と一匹は夢中で野ミジア狩りに没頭し、森の奥へと足を進めていった。
4.
その日の夕暮れ時。
二つの背負い籠いっぱいに薬草と、目当ての野ミジアを詰め込んだコロとウルが村へと帰還する途中、天気が急変した。
つい先程まで晴れ渡っていた空に真っ黒な雲が立ち込め、バチバチと大粒の雨が地面を激しく叩きつけ始めたのだ。
「うわっ、山の天気は変わりやすいって言うけど、いきなり降ってくるなんて!」
『チッ、毛皮が濡れる。コロ、走るぞ!』
たまらず、一人と一匹は村の入り口にある巨大な樹の下へと滑り込んだ。
村を丸ごと覆い隠してしまいそうなほど分厚い葉の天蓋が、激しい雨を完全に遮ってくれている。
「通り雨みたいだね」
『だな。すぐに上がる』
「ここで少し雨宿りしていこうか」
コロが濡れた銀髪を払いながら息をついた、その時だった。
『……おいコロ。さっきから、凄まじく不快な音が聞こえるのだが』
「え?」
ウルの抗議に耳を澄ますと、葉を叩く激しい雨音に混じって「ギュルルルル……」という、地鳴りのような腹の虫の音が響いていた。
音の出処は、昨日からずっと大樹の根元に座り込んでいる、あの男だ。
コロは呆れたように男を見下ろした。
そして、彼が背を預けている苔生した石碑の表面をよく見て――パチリと目を瞬かせた。
雨の湿気を吸って苔の隙間から見えたその意匠は、間違いなくコロが信仰する『女神様』のシンボルだったのだ。
「……こんなところに女神様の石碑があったなんて」
『ん、女神の石碑だったのか』
「女神様、気づかなくてごめんなさい」
『おいおい、女神本人はそんな石碑など認知していないだろう。放っておけ』
コロは慌てて籠の中から、森で採取してきたばかりの野ミジアを一つ取り出した。
「そんなわけにはいかないよ」
『お前、時折、やけに人類臭くなるな。いつもなら「非効率の極みだね」とか言うだろうが』
「そういうことじゃないの」
そして、コロが男の横を通り抜け、石碑の前にそっとお供えしようと身を屈める。
「……去れ」
不意に、ひび割れた低い声が響いた。
見れば、男が落ち窪んだ目でコロを睨みつけ、腰の錆びた剣の柄に震える手をかけている。
「祖国を追放され、身一つに落ちぶれたとはいえ……私は誇り高き騎士だ。子供から『施し』を受けるなど、死んでも御免だ。……情けなど、かけるな」
絞り出すような、ひどく重々しい拒絶。
だが、コロは一切の感情を動かすことなく、氷藍色の瞳で男を見下ろした。
「ん?ごちゃごちゃと……何を勘違いしてるの?」
「な……?」
「これ、女神様へのお供えなんだけどね」
コロは呆れたように一蹴すると、鞄から綺麗な布を取り出し、男が背を預けている石碑の苔をキュッキュと丁寧に拭き始めた。
「だいたい、施しなんてそんな不効率なこと、私がするわけないでしょ。女神様の石碑だからお供えして綺麗にしてるだけだよ」
コロの身も蓋もない正論に、男は言葉を失い、口をパクパクとさせている。
『……おいコロ。さっきからこいつの腹の音がうるさくて敵わん。雨音を突き破ってくるぞ』
「そうだね」
コロは石碑を拭く手を止め、冷徹な目で男の痩せこけた頬を見つめた。
「女神様の前でそんな下品な音を鳴らされるのも困るかな。……ねえおじさん」
コロの言葉に、痩せこけた男がジッとコロの目を見つめる。
そして、小さく肩を竦めたまま、コロは言葉を継いだ。
「昨日からずっとここでぼんやりと息をしてるだけみたいだけど」
「……」
「物乞いをするわけでもないし、ただ座ってるだけなら、それ、物乞い以下のただの『風景』だよ。 ……騎士だか何だか知らないけど、その『誇り』ってやつを掲げても、お腹は全然膨れてないみたいだね」
「き、貴様に……私の何が……!」
男が反論しようとしたが、極度の空腹のせいか「ゴホッ、ゲホッ」と激しく咳き込んだ。
コロは同情するでもなく、淡々と事実だけを突きつける。
「……おじさん。人類の『器』っていうのはね、ただ呼吸をして動かすだけでも、毎日膨大な燃料を要求してくる、とっても維持費の高い不自由な道具なんだよ」
「……」
「そもそもね、この厳しい世界で、自分の命を繋ぎ止めておくだけでも、十分に算段が狂いやすい難儀な仕事なんだ。……もう今の時点で、おじさんは生きるのが凄く難しくなってるでしょ?」
コロは、男が抱える手入れの行き届いていない重たい剣を一瞥した。
「それをこれ以上、自分で難しくしてどうするの?」
「難か……しく……」
「生きるのはそれだけで難しい。タダでさえ何も持ってなさそうなのに、それ以上に難しくする必要なんて、どこにもないと思うけど。おじさんのその『騎士の誇り』っていう荷物は、今の器を維持するのに本当に必要なものなの?」
「……」
コロの言葉に、男は息を呑み、己の震える手と、すっかり輝きを失った錆びた剣を見比べた。
彼の心の中で、今まで必死に抱え込んでいた『重たい何か』が、音を立てて崩れていくのが分かった。
生きるだけで難儀なこの世界で、彼を最も苦しめていたのは、空腹でも、隣国からの追放でもなかった。
それは、彼自身が捨てきれなかった『騎士の誇り』という名の、過去の幻影だったのだ。
男は静かに地面を見つめたまま、やがて、震える手で自身のボロボロの懐をまさぐった。
そして、泥と汗にまみれた、最後の一枚の銅貨を取り出した。
「……う、売ってくれ」
「銅貨一枚、ちょうどだね」
コロは事務的な手つきでその銅貨を受け取ると、籠の中から、赤く熟した野ミジアを三つ、男の震える両手の中に落とした。
「豊作だからね、サービスだよ」
「……あ、あぁ……」
男は泥にまみれた手も気にせず、ひび割れた唇で、皮を剥く事もせず、その果実にかぶりついた。
プツッ、と薄い皮が弾け、鮮烈な酸味と強烈な甘みが、枯れ果てていた男の口内を満たす。 それは、死にかけていた『器』の隅々にまで、無理やり命の火を灯すような、乱暴で優しい味だった。
「……っ、う、あぁ……っ」
男は喉の奥で嗚咽を漏らした。
頬を伝って、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
それは「施しを受けた恥」でも、「生き延びた感動」でもない。
ただ、器が燃料を得て、もはや不必要となった『見栄』という重たい機能を完全に停止させた際の、単純で原始的な反応に見えた。
『こんな実ひとつで、ここまで泣くのか……』
ウルが呆れたように鼻を鳴らす。
『人類というものは、空腹だとメソメソ泣くように設計されてるのか?』
「さあね」
コロは、果実の汁と涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる男を一瞥し、軽く肩をすくめた。
ウルの背中をポンと叩いてみせる。
一人と一匹が空を見上げると、分厚い天蓋の隙間から、いつの間にか雨が上がり、雲間から一筋の光が差し込んでいた。
それ以上の言葉を交わすこともなく、二人はその場を後にした。
「これでやっとおじさんの器が少しだけ軽くなったんじゃないかな。……余計な荷物を一つ、泣いて捨てたみたいだからね」
『それにしても、騎士というものは、その辺の木の実ひとつも自力で見つけられんのか』
「さあね。偉い人だったらそんな事知らないだろうし、もしくは『騎士の誇り』とやらが邪魔をしていたのか」
『……もはや何も言えん』
「人類になるのは無理だなって思っちゃうね」
一人と一匹の影が街道に伸びていく。
5.
――その夜。
宿の柔らかいベッドの中で、コロは深い微睡みの中へと落ちていった。
ふわり、と。
野ミジアの甘酸っぱい香りから一転して、鼻腔をくすぐるような甘く清らかな香りがコロを包み込む。
真っ白な空間で、コロは女神の温かい腕の中にいた。
「おかえりなさい、私の愛おしいコロ」
「ただいま、女神様。今日ね、とっても不器用なおじさんに会ったよ」
「ええ、見ていたわ」
「……生きるために必要な糧よりも、自分を苦しめるだけの『誇り』を大事にしてたんだ」
「なんとも人類らしいわね」
女神は愛おしそうにコロの銀髪を撫でながら、微笑んだ。
「ねえ、女神様」
「なにかしら、コロ」
「どうして人類は、ただでさえ難儀なこの世界を、自分たちの手でもっと複雑にしようとするのかな。そういう生き物だっていうのは分かっているつもりだけど……それでも、やっぱり不思議」
「そうね。……彼らは、何もない器のままでは不安でたまらないのよ」
「不安でたまらない……」
「ええ。だから、重くて役に立たないと分かっていても、何かを背負っていないと立っていられない不器用な子たちなの」
「ふーん……やっぱり人類になるのはちょっと無理かな」
コロは女神の胸に顔を埋め、目を閉じた。
「私はね、器を動かすための糧と、隣を歩く口の悪い相棒がいれば、それだけで十分だと思うんだけどね」
「ええ。あなたのその身軽さは、とても賢明で美しいわ」
「私とウルにとっては、ごく当たり前な話なんだけどね。それでも人類らしい『無駄』を楽しんでいるつもり」
女神は微笑みながら、コロの頭の狼の耳をゆっくりと撫でつけている。
「そういえばお供え物、ありがとう」
「あそこに供えたって、女神様に味なんて分かんないでしょ?」
「ふふ、そうね。そして、それがコロの言う『人類らしい無駄』なのね」
「うん。無駄だなっていうのは分かってるけど、なんか好きなんだ、人類のそういうの。あそこに供えて喜ぶのは女神様じゃなくて、その辺の動物だけなんだけどね。ほら、これ」
そう言いながら、コロは外套のポケットに入れていた野ミジアを一つ、女神へと手渡した。
女神はクスクスと笑いながら、その赤い実を受け取る。
「ありがとう、コロ。あなた達、とくにウルが俄然張り切って収穫する程の実ってどんなのかしらって、ちょっと気になっていたの」
「酸っぱいから覚悟しておいてね」
「ふふ、そうするわ。明日も、良い旅を。私の可愛いコロ」
女神の底知れない慈愛に包まれながら、コロは再び温かい眠りの中へと溶けていった。
明日もまた、一人と一匹は、重たい荷物を背負い続ける不器用な人類たちの横を、身軽に、無関心に通り過ぎていくのだろう。
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