世界を守る
【Vol.9:He protects your world with all his might】
それは、単なる失火だった
空気が乾燥していたのと、折悪しく風が強かったこともあり、
木造の粗末な教会と付属の孤児院は
あっという間に灰になってしまった
長い間、教会と孤児院を切り盛りしていた桂木神父は
消火後の黒ずんだ瓦礫の山を前に
しばし、呆然としていた
幸い、子どもたちは無事だった
すぐに近隣の教会が協力してくれ、
当座、子どもたちが過ごす場所を確保することはできた
しかし、教会と孤児院の再建には問題が山積みだった
費用の捻出は困難を極める
教区から幾ばくかの予算をもらうことができたが
それは教会の再建分に充てることしかできなかったし
そして、それすら全く足りていない
桂木神父は、地元の信徒や知り合いを訪ね歩き
寄付を募った
教会で唯一焼け残ったマリア像に祈りを捧げた
毎日のように、思いつくところをめぐり、
なんとか教会を、特に孤児院を再建しようと懸命だった
噂は孤児院の卒業者たちの間にもすぐに広まった
電話、メール、SNS、、、
自分が生まれ育った孤児院が焼けたことを多くの人が知った
少なくない人が、率先して寄付を申し出た
それでも、やっと教会と孤児院の再建費用の3分の1程度に過ぎなかった
誰もが諦めかけ
桂木神父すらも
子どもたちの引き受けてを探さざるをえないと感じはじめたとき
キセキが起こった
突然、何人もの実業家、経営者が
多額の寄付を申し出てきたのである
突然のことに驚いた桂木神父が
寄付を申し出た人たちにその理由を聞いた
すると、全ての人が「マサキ」という名を口にした
「突然マサキが来て、必死にお願いするものだから」
「うちはアイツに恩があってね
今度はこっちが助ける番だって」
「社長が会ってくれるまで、ずっと待ってるって言ってさ
んで、根負けだな」
桂木神父には
「マサキ」の名に覚えがあった
ウラナカ マサキ
札付きのワルで通っていた男だった
孤児院でも学校でも
さんざん問題を起こして
そのたびに神父は胸を痛め、謝罪巡りに奔走した
そして、
マサキが問題を起こすたびに
コンコンと説教をし、
聞かないで出ていこうとするマサキを押しとどめ
最後には、必ずマサキのために祈り
こう言った
「神様はいつもあなたのそばに居てくださる
君がどんなに悪いことをしてもだ
だから、
そんな神様に恥じないように生きなさい」
マサキは聞いているのか聞いていないのか
結局、最後までわからなかった
そんなマサキも大人になり
孤児院を出る時が来た
とても心配したが
風の噂で
トラック運転手として頑張っているらしいと聞いていた
その
マサキだ
桂木神父は
マサキのことを探した
寄付をしてくれた方に聞くと
存外、あっさりと見つかった
やはりトラックの運転手をしているらしい
しかも、他の運転手たちを束ねるような立場で
しっかりと仕事をしているということだった
桂木神父が運送会社にマサキを訪ねていくと
マサキは目を丸くして驚いた
桂木神父は
マサキに、お礼を言った
お陰で孤児院が再建できそうだと
マサキは照れたように笑うだけだったが
運送会社の社長がその背中をどんと押した
「こいつは、孤児院のことを聞いて、
すぐにあちこちに電話したり、
行ったりして寄付を募ったんだ
こいつは働き者で、
お客さんの結構な無理もよく聞いた
だから、沢山の人が快く寄付をしてくれたようだ
もちろん、俺も寄付したよ
こいつにはとても世話になったからな」
「なあ!おい!!
お前、話すことがあるんだろう?」
社長に促され
マサキは目を泳がせながら
ポツポツと言ったのだ
ーだってさ、
あんた、祈ってくれただろ?
親に捨てられて
先生からも呆れられ、
どうしようもなくグレて
ケンカや盗みばかりやっていた俺のために
あんた、祈ってくれたじゃねえか
神様がいつも一緒にいて
祈りが聞き届けられるから
絶対に大丈夫だって
あんた、言ってたじゃねえか
それ、ずっと信じているんだろう?
だったら、だったら、
俺がやるしかねえじゃねえか
あんたが信じている世界が
本当だって
神様ってやつが本当にいるんだって
俺が…俺が
証明するしかねえじゃねえか…
マサキはふと
窓を見た
社長は、その目に涙が溢れているのを
見ていた
桂木神父もまた
泣いていた




