魔法の時間
【Vol.12:If I could use magic to turn back time】
「もしも、5分だけ
死んでしまった母親に会えるなら」
先生はおっしゃいました
5年前、母は末期がんに冒されていました
一日に意識がはっきりしているのは
ほんの数時間でした
当時、僕はまだ高校生で
そんな母の姿を目にするのがイヤで
父と妹は毎日のように行っていた
母の病院にも
滅多に行くことはありませんでした
日に日に顔色が悪くなり
髪が抜け落ち
声がしゃがれていく母親
とても正視することは出来ませんでした
いよいよ、治療も万策尽き
あとはいかに楽にあの世に旅立たせるか
そんな話が出始めた頃でした
父が、僕を病院に呼びました
僕は戸惑いながらも
促されるままに病院に行きました
病室には、点滴をつけられ、
真白なベッドの上に寝かされた
痩せこけた母がいました
母はかろうじて意識があるようでした
父は黙って僕の背中を押しました
父にも、そして、僕にも分かっていたのです
母に話ができるのが
もう今日しかないということを
でも、僕の口からはどんな言葉も出ませんでした
父はちゃんと言え、というようなことを言ったと思います
でも、やはり僕は何も言えませんでした
そんな時、母の主治医だった先生が
病室の廊下に僕を連れ出して
こう言いました
「君の母親はもう死んだ」
え?
頭が真っ白になりました
そして、数秒後、怒りがこみ上げてきました
なんてことを言うんだ!
母はまだ生きている!!
「君の母親はもう死んだ
でも、私はキセキを起こせる
5分だけ、君の母親を生き返らせることができる」
「もしも、5分だけ
死んだ母親に会えるなら
⋯⋯
君はなんて、言うんだい?」
僕はハッとしました
先生は僕を病室に入れ
父も、妹も、先生も病室から出ました
僕と、母親が二人きりになりました
『もしも、5分だけ…』
他に誰もいない病室で
僕は母の手を握りました
骨ばっていて
カサカサで
とても軽い手でした
僕が少し握ると
母も弱々しく握り返しました
なんと言ったらいいのだろう…
僕は母への言葉を探しました
何分経ったのか
キセキの時間が終わってしまう
終わってしまう、その前に…
僕は妙な焦燥感を感じていました
そして、病気になった母をその時、初めて
見つめた気がします
――お母さん…
自然と僕の口から言葉が紡がれていきました
――産んでくれて、どうもありがとう
母が心なしか手をぎゅっと握った気がしました
母の眼から涙がこぼれ
頬を伝います
その後、僕はずっと母の手を握っていました
それから程なくして
母は永眠しました
先生は、
母は最期、穏やかな顔だった
とおっしゃいました
僕はあの日の、
先生がくれたキセキの5分を
多分、一生忘れないでしょう




