第82話 アンデッドドラゴン戦後
「乾杯!」
「酒、うめえ!」
「久しぶりだよな」
「ジュースやお茶、お菓子も沢山あって、お酒を飲めない私たちもニッコリですよ」
「このジュース、高級品だから飲んでみたかったんだ」
「飯も最高!」
伴龍高校駐屯地に戻った私たちは、水無月市解放記念祝賀会を開催した。
料理とお酒、ジュース、デザートなどは、これまでに私が全国から集めた物を提供しており、みんな久々に食べるご馳走に大喜びだ。
特に今は、アンデッドのせいでお酒を作る余裕がほぼ皆無となっている。
これまでに作られた在庫品をアンデッドが溢れる町中から回収するか、戦後のように密造酒を作る輩まで現れたそうで、中にはメチルアルコールを使ったものまであり、失明してしまった者まで現れたとか。
私は全国を回って可能な限り使える物を回収しており、特にお酒は自分が好きなので熱心に集めていた。
「ぷはぁ、戸田司令最高!」
「隅川陸将の水無月市攻略部隊では、酒なんて支給されないだろうからな」
「料理も美味いな」
「豪勢だな」
「冷凍食品があるぞ」
「本当だ。今の冷凍食品は美味いからな。それにしても、どうやってこれまで保存してたんだろう?」
伴龍高校駐屯地所属の国防隊員たちは、缶ビール、缶チューハイ、ハイボール缶などを大喜びで飲み、普通の料理よりも、冷凍食品を喜んで食べていた。
この手の食品は、製造工場がアンデッドに占拠、破壊されてしまい、製造するのに必要な人手、食材、包装材、電気や水、ガスも供給が止まってしまったので、二度と食べられないはずだった。
冷凍食品を作る工場はいまだ再稼働していないので、私がアンデッド出現直後、急ぎ町中で集めた分だけが残存分というわけだ。
今となっては貴重なものなので、私たちだけで少しずつゆっくりと食べるつもりだったけど、これも伊作村で安全に暮らすためだ。
下手にそういうものを持っていることが悪党に知られたら、フリーのレベリストの悪人たちが伊作村に攻めてくる可能性だってある。
なので、ご近所さんである伴龍高校駐屯地の人たちに気を使っておく。
これも伊作村で安全に暮らすために必要なことだった。
「どうやら、私は昇進するようです」
高級ブランデーを舐めるように飲みながら、戸高さんが私にそう伝えた。
「それはおめでとうございます。ただ戸高さんは、水無月市解放作戦には参加していないことになっているのでは?」
「公的にはたまたま隣で演習していただけですが、すでに上の連中は微塵もそう思っていませんし、なんなら『余計なことをしやがって!』と怒っているでしょうが、それでも功績は功績なので。私を処罰した結果、せっかく解放した水無月市と神明町が再びアンデッドに奪い返されたら責任問題が発生します。だから、伴龍高校駐屯地司令と神明町とその周辺の防衛、水無月市防衛を手助けするために、仕方なく一般大学出の私を陸将にするって感じですね。私はレベリストなので、国防隊での待遇に不満を抱いてやめてしまう可能性も考えたのでは?」
「なるほど」
本当は一般大学出の戸高さんを陸将にしたくないけど、仕方なく例外でってことか。
陸将にはするけど、お前如きが統合幕僚長になれると思うなよ。
神明町と伴龍高校駐屯地の責任者にするから、しっかりと守れと。
「(やっぱり国防隊って頭が固いよなぁ……)」
旧軍の時代から、戦争中にも適性よりもハンモックナンバーで人事していたような組織だ。
そう簡単に変わらないのだろう。
「隅川陸将は、やっぱり次の統合幕僚長になるんですか?」
「多分」
「多分?」
「作戦の成功率を上げるためとはいえ、私たちの参戦を許可したからなぁ。上の連中の中には、隅川陸将を裏切り者と見ている人もいると聞いている。功績が大きいので、素直に統合幕僚長にすればいいという意見も少なくないのだけど……」
「……そんなどうでもいいことで……」
「本当にどうでもいいことだから、隅川陸将も呆れ果ててしまったようで。どうなるかは、その時になればわかるさ」
あまり先のことを考えても仕方がないと、そのあとはみんな、飲み食いに集中して英気を養った。
そして数日後、私たちは伊作村に戻って生活環境の改善を続けていた。
温泉が出る屋敷の掃除や修繕を行い、農作業にも精を出す。
私は毎日『移転』で伴龍高校駐屯地にも顔を出し、奈津子さんの開発も手伝った。
彼女はアンデッドドラゴンを倒したおかげで大幅にレベルを上げることができたため、作っている銀の銃弾と矢の品質と生産数が大幅に上がっていた。
さらに、試作中のミスリル炉の改良も進んでおり、私が預けた壊れたミスリル製の武器や防具、鉱石からミスリルを精錬。
これを、新しい武器と防具に加工することにも成功している。
「幸三さん、これもレベルアップのおかげです。またレベルアップに連れて行ってくださいね。新作の武器も持っていくので」
いつの間にか幸三さんと呼ばれるようになったけど、これも仲良くなった証拠ということで。
元の用務員のおじさんなら、こんなに綺麗な人から名前で呼ばれることもなかっただろうし。
「奈津子さんが作るものの品質が大幅に向上したな。やはりレベルアップが重要だ」
レベルが上がると、熟練度の増加が増すのだと思う。
具体的な数字が出ないので、あくまでも私の推測でしかないけど。
「作り続けることでも品質を上げられますけど、時間がかかりますからね。今後需要が増えて、補給、修理、配備が間に合わないことも考えられますので、レベルアップが重要になります」
奈津子さんは所謂生産職系のレベリストであることが判明し、レベルアップで技術力を急速に上がることが証明された。
他の技術者、研究員たちも、戸高さんが町長のリッチーを伴龍高校駐屯地に呼び寄せて一緒に戦ったおかげでレベリストになり、大幅にレベルアップしたので、今後の課題である銀弾と銀矢の大量生産、ミスリルの精錬、ミスリル製の武器と防具の量産に目処がつきつつあると聞いている。
「ただ、幸三さんが提供してくれたミスリルの量だと伴龍高校駐屯地の隊員たちの分で精一杯ですね。松代にもサンプルしか送っていませんし。倒したアンデッドがミスリルインゴットや鉱石、武器を落とす、なんてことがあるといいけど……無理かな」
私が魔王と戦っていた異世界でも、RPGのように魔物を倒すとゴールドやアイテムを得られるなんてことはあり得なかった。
今のところ、私が奈津子さんに渡した壊れたミスリル製の武器と防具、鉱石がすべてであった。
現代の地球にミスリルなんてないので、対アンデット戦闘の主力は銀になると思う。
「とりあえず、作れるだけのミスリル製の武具を、レベルの高いレベリストに貸与して伴龍高校駐屯地の戦力を上げます」
国防隊も常に人手不足なため、伴龍高校駐屯地に追加の人員はこなかった。
水無月市と朝山駐屯地が最優先というわけだ。
「神明町、朝山駐屯地、水無月市周辺に出現するアンデッドの数は減り続けている。今後は防衛よりも、レベルアップのための遠征訓練が必要になるだろうけど」
魔物の中ではアンデッドは弱い方であり、さらに地球ではアンデッドしか出現しないから、レベル上げが難しくなってきた。
とにかく沢山倒さないと、レベルアップしなくなったのだ。
アンデッドドラゴンのような特別個体を倒すと大幅にレベルアップするけど、そう滅多にいるものでもないし、とにかく強いので負けて死ぬかもしれない。
本当は急ぎレベルを上げだ方がいいのだけど、安心して暮らせる環境の整備も必要だ。
まさか、神明町と水無月市の守りを放棄するわけにいかないのだから。
「(私たちは、全国各地で使える物拾いをしたおかげで、『移転』で一度行ったことがある町にで手付かずのアンデッドを倒し続けることができる。それでも、ゾンビ、スケルトン、レイスだけだと、なかなかレベルは上がらないけど……)」
私が魔王を倒した時の強さを取り戻すには、とにかく時間がかかりそうだ。
「そろそろ私は伊作村に戻ろうかな」
「じゃあ、ボクも今日はアガリます。今日はみんなとお泊り会なので、一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「いいよ」
同じ若い女性同士ということもあって、奈津子さんはすぐ瑠璃さんたちと仲良くなった。
なのでちょくちょく伊作村に泊まりに来るようになったのだけど、車で行くと貴重なガソリンと電気を使ってしまうし時間もかかる。
そこで、私の『移転』に便乗することが増えていた。
「(女子会ってやつだな)」
兄である大島三佐としても、伊作村の住民は私以外全員が女性なので安心だと思っているのか。
特になにも言ってこないどころか、このところ大島三佐ともよく伊作村でお酒を飲むようになっていたけど。
私が『移転』を使えるようになった結果、すぐに伴龍高校駐屯地、神明町、水無月市に顔を出すことができるため、ようやく伊作村に落ち着いて住むことができるようになった感じだ。
今のペースだと、奈津子さんも伊作村に住むようになるのではなかと思うほど、よく遊びに来るようになったな。
「じゃあ、一緒に行きますか……って、その荷物は?」
「非番の日も個人的に研究したいので、伊作さんに貰った本と非番に伊作村で過ごすために必要なアレコレです」
「……そうなんだ」
私の予感は当たり、奈津子さんは祖父さんの家の一室に私物を運び込み、ほとんど伴龍高校駐屯地にある寮に戻らなくなってしまった。
瑠璃さんたちと仲良くやっているようだけど、兄である大島三佐もなにも言わない。
奈津子さんはもう大人なので、たとえ兄でも妹の私生活に口を挟まないってことなのか。
おじさんである私では対応できない、微妙な年齢の瑠璃さんたちへのフォローもしてくれており、彼女がいると伊作村の整備が捗るので、私としては大歓迎なんだけど。




