第81話 対アンデッドドラゴン戦(後編)
「聖水が辛いようね! 反撃する隙を与えないわ!」
「傷口を抉るように、拳で一撃を入れる!」
「連射しまくる!」
「大島三佐、年は取りたくないものだね。以前よりも疲れやすくなっているよ」
「戸高司令、レベルを上げれは伊作さんのように疲れにくくなりますよ」
「ならば、指揮官先頭で頑張るか」
瑠璃さんは火炎剣で攻撃を続け、美空さんはアンデッドドラゴンの傷口をさらに抉るように拳での一撃入れ続け、晶はだたひたすら矢を射り続けていた。
戸高さんは私と同じ年だが、私よりレベルが低い分、長時間の戦闘で疲労感が出てきたようた。
若い大島三佐は、ミスリルアックスでアンデッドドラゴンを攻撃し続けている。
奈津子さんは試作品の自動小銃を連射して、アンデッドドラゴンにかなりのダメージを与えていた。
やはり、火力を充実させることが必要らしい。
そして隅川陸将が指揮する水無月市開放部隊は、遠距離から銃撃と矢、魔法で攻撃を続けていた。
「アンデッドドラゴンが消滅するまで手を抜くな!」
「銀の弾丸が尽きるまて撃て!」
「覚えたての魔法でも、アンデッドドラゴンを構成するゾンビには効果がある! 放て!」
包囲されて袋叩きにされるアンデッドドラゴンがどうにか反撃しようとするが、こちらはその隙を与えない。
もしアンデッドドラゴンが隅川陸将たちの部隊に反撃をしたら、少なくない犠牲者が出てしまうからだ。
優れた指揮官である隅川陸将は、隊員たちの攻撃タイミングを精密に計算、私たちとも連携しての絶え間ない連続攻撃を行い、そのせいでアンデッドドラゴンは反撃するどころか、その場から動くことすらできない状態が続いていた。
「このまま終わってくれ!」
私は聖水をアンデッドに吹きかけながら、珍しく神に祈っていた。
もしこちらが力尽きた時にアンデッドドラゴンが生きていたら、反撃されて全滅することは確実だからだ。
「あとのことは考えるな! 使い切るつもりで放て!」
隅川陸将は、指揮する部隊にあと先考えない攻撃を命じた。
用意した銀の弾丸と矢は、すべて使いきって問題ないと。
もし自分たちが先に攻撃手段をなくした時にアンデッドドラゴンが生きていたら、撤退戦で全滅も覚悟しなければならない。
それなら、全力で攻撃してアンデッドドラゴンが倒れることに期待するしかなかった。
「だいぶ縮んだな。あとは……まだ動くのか! こうなったら! みんな!」
私は『異次元倉庫』から、『魔物封じの縄』を取り出してみんなに渡した。
「幸三さん、それは?」
「短時間だが、魔物の動きを完全に封じる。使い方は、魔物に投げつけるだけだ」
「便利だけど、時間制限アリなんだね。投げるぞぉーーー!」
私から魔物封じの縄を受け取った瑠璃さんたちがアンデッドドラゴン向けて投げると、すでに小型のドラゴン程度の大きさまで縮んだアンデッドドラゴンに次々と絡みつき、最後の反撃をする余力さえ奪ってしまった。
アンデッドドラゴンは、自分の体に絡みついた魔物封じの網を引き千切ろうとするが、これは特殊アイテムの類。
一定時間が過ぎるまでは切れない仕組みになっていた。
「だけど、効果時間はあまり長くない。攻撃を集中するんだ!」
『わかりました。標的に対し火力を集中しろ!』
隅川陸将が、全軍に対し制限なしの全力攻撃を命じる。
ここに至ってブレスを吐かないということは、アンデッドドラゴンはブレスを吐けないと断定していいだろう。
隅川陸将の部隊はアンデッドドラゴンとの距離を詰め、動きを封じられたアンデッドドラゴンに対し容赦なく銀の銃弾、銀の砲弾、銀の矢、魔法、聖水が雨あられと命中し、大量の魔石を落としていく。
その体を構成していたゾンビとスケルトンが次々と倒され、徐々に体が縮んでいくのが目視できる。
「しぶといなぁ……」
「もうすぐだよ、瑠璃さん」
これで最後だと濃密な集中攻撃が続き、ついに聖水で体を焼かれて噴き出す白煙に包まれたアンデッドドラゴンの姿を確認できなくなった。
そしてその直後……。
「ギュワァーーー!」
耳の鼓膜が破れんばかりの断末魔と思しき悲鳴が鳴り響き、アンデッドドラゴンは完全に姿を消した。
『撃ち方やめ!』
隅川陸将の命令で攻撃がやむと、アンデッドドラゴンがいた場所には大量の魔石が散らばって落ちているだけだった。
これにてアンデッドドラゴンは完全に消滅し、同時に水無月市のゾンビとスケルトンも全滅したわけだ。
「幸三さん、やったね」
「ああ……」
「水無月市をアンデッドから取り戻しました」
「それも、犠牲者も出さずに」
「オレたち、やったんだ」
「伊作さん、新明町に続いてやりましたね」
「さすがは伊作さんだ」
「あっ! レベルが凄く上がってる! これで、さらに強力な武器や防具が作れるようになるはずです」
「強敵ほど倒すと上がるレベルが多いのは、異世界と同じだな」
ただ、アンデッドドラゴン討伐で火力面で貢献してくれた隅川陸将が指揮する部隊は、あと少しで銀の弾薬と矢がなくなる寸前だったと、私たちの前に姿を見せた隅川陸将が教えてくれた。
「ギリギリの勝利か……」
なににせよ、これで伊作村と神明町の安全度は上がったはずだ。
「水無月市をアンデッドから取り戻すことに成功しましたが、とにかく銀の弾と矢の消耗が激しい。負傷者だけで殉職者は出なかったが、しばらくは攻勢に出られませんね。念のため、残敵の捜索と水無月市の確保を行います」
「水無月市の確保は隅川陸将に任せて大丈夫でしょう」
「我々は、新明町に戻りますか」
「戸高陸将補、大島三佐。助かったよ」
銀の弾と矢は残り少ないが、隅川陸将が率いている部隊は、アンデッドドラゴン討伐に参加したおかげで大幅にレベルが上がった。
周辺にアンデッドの気配も『探知』できないので、全員が銀の武器を装備している隅川陸将の部隊に任せて大丈夫だろう。
もし少数のゾンビとスケルトンが外部から襲来しても、アンデッドドラゴン戦で大幅にレベルアップしたので余裕を持って対処できるはずだ。
松代も、せっかく解放した水無月市を再びアンデッドに奪われたくないだろうから、すぐに補給と援軍を寄越すはず。
なにより戦果を挙げたのは、彼らが期待していた隅川陸将なのだから。
「とにかく、犠牲者が出なくてよかったよ」
もし対アンデッド戦向けの精鋭部隊として整備された隅川陸将の部隊が大きな犠牲を出していたら、再び松代や日本政府が無茶な作戦を国防隊に命じるかもしれないからだ。
「私たちは、たまたまレベルアップ中にこの場に居合わせただけだ。帰るとしましよう」
「それもそうですね」
「私たちの居場所を守るためとはいえ、なんか複雑」
瑠璃さんは、私たちが次々と特別個体を倒してもまったく評価されないことに不満というか、納得できない部分があるようだ。
「白井さん、これは伊作さんを守るためでもあるんだ。本人も表に出ることを望んでないからね」
そんな瑠璃さんに、戸高さんは私の気持ちを伝えてくれた。
もし水無月市の解放において私が主力であることが知られると、全国から援軍を頼まれてしまうかもしれないのだから。
そんな生活、嫌に決まっている。
「瑠璃さん、戸高さんの言うとおりですよ。『私は』、伊作村で幸三さんと静かに暮らせたらいいんです。なによりアンデッドに有効な聖水を作れるのは、今のところ『私』と幸三さんだけですから」
「自分と互角かそれ以上に実戦形式の鍛錬ができるのは幸三さんだけだから、ずっと一緒に暮らします」
「おじさんはオレの保護者だから。オレが大人になったら、どうなるかわからないけど」
「幸三さんと私が開発、製造した武器が日本を救うんです。このまま公私共に……」
他の女性陣も、水無月市解放の主力として政府や国防隊に評価されなくても特に問題ないと思っているようだ。
「伊作さんは、モテモテだねぇ」
「私は彼女たちの保護者だから」
戸高さんが私をからかうが、もし彼の娘さんと私が結婚したいですなんて報告したら確実に怒りそうだ。
私と瑠璃さんたちでは年齢差がありすぎるし、これはきっとこの世界にアンデッドが襲来して不安だったから、たまたま少し助けた私に吊り橋効果でそういう感情を抱いたに過ぎないはず。
とにかく私はいい大人なので、瑠璃さんたちを保護していかないと。
私には子供はいないけど、親ってこんな感じなんだろうなって思ったり。
「戸高さん、帰ってお祝いしませんと。ご馳走とお酒も沢山用意しますから」
「いいですねぇ。伴龍高校駐屯地に帰りましょう」
「俺も連れて行ってくださいよ。こういう時は、ビールで乾杯するのが一番ですよ」
私たちが介入することにより、隅川陸将率いる部隊は、無事水無月市の解放に成功した。
用意した銀の弾丸、矢をほぼ使い尽くしてしまったが、犠牲者がゼロなのは喜ばしいことだ。
銀の弾丸と矢は、回収すれば簡単に再生産できるというのもあった。
それに、この功績をもって隅川陸将が統合幕僚長になれば、彼に恩を売れたので私たちに無理な要求をされることもない……と思いたいところだけど、はたしてどうなるかな?




