第80話 対アンデッドドラゴン戦(前編)
「幸三さん、作戦は?」
「アンデッドドラゴンが隅川陸将が指揮する部隊を攻撃しないように、私たちが全力で奴の気を引きつつ、ダメージを与え続けるだけだよ」
「いつもどおりだけど、今度はドラゴンだからハードっぽいなぁ。いきます!」
先陣を切って、私と瑠璃さんがアンデッドドラゴンに斬りかかり、未来さんがその隙を突いて拳と蹴りで攻撃を加えていく。
私はミスリルソードに『聖魔法』を纏わせてから、瑠璃さんは習得した『火炎剣』で、巨大なアンデッドドラゴンの体のあちこちをヒットアンドウェイで攻撃すると、斬り口から魔石を落とした。
未来さんも攻撃を連発すると、アンデッドドラゴンの体を構成しているゾンビとスケルトンが倒され、魔石を落とす。
「幸三さん、これって……」
「仕組みは、松代の巨人、町長のリッチーと同じだ」
未来さんの推察どおりだ。
多数のアンデッドが合体して、強固な個体になる。
アンデッド単体では異世界の強い魔物に比べると弱いが、こうやって合体することで強い個体、特別個体になるというわけか。
「まるで〇イミーだな」
「幸三さん、〇イミーってなんですか?」
「小さな赤い魚の群れで、一匹だけ黒い魚が仲間ハズレにされていたんだけど。みんなで集まって大きな魚に擬態することを提案、自分が体の黒さを利用して大きな魚の目の部分になって、上手くいったお話」
「ゾンビとスケルトンたちが集まって、ドラゴンになっているから似てる?」
「伊作さん、年がバレますよ」
「でしょうね。勿論戸高司令は知ってるでしょうけど」
「ええまあ……。国語の教科書で読みましたね」
「俺は若者なので」
次は、装備できるようになったミスリルソードとミスリルアックスに、楓さんから『聖魔法』を付与してもらった戸高さんと大島三佐がアンデッドドラゴンに斬りかかった。
バーーーン!
「命中するのは当然として、威力はまあまあかな?」
「ちゃんと引けた! レベルアップのおかげだな」
奈津子さんは、試作した大型ライフルを発射してアンデッドドラゴンの体に穴を開けることに成功した。
そしてその穴から、ポロポロと魔石が落ちていく。
大型ライフルの大型銀弾で貫かれた部分を構成していたゾンビとスケルトンがすべて倒された証拠だ。
レベルアップしたので晶に新たに支給したミスリルの弓(大型)で放ったミスリルの矢も、アンデッドドラゴンに深々と突き刺さってから青白い聖魔法特有の炎をあげ、命中箇所に密集していたゾンビとスケルトンをすべて燃やし尽くした。
炎が消えると、アンデッドドラゴンの体の抉られた部分から魔石をポロポロと落ちていく。
「楓姉ちゃんの『聖魔法』って凄いや」
レベルアップで威力が増した『聖魔法』を武器に纏わせると、これまでの数倍の攻撃力を出すことができるようになったので、楓さんはパーティメンバーの武器に『聖魔法』を付与する役割に専念、これまでの数倍の成果を出すことに成功した。
アンデッドドラゴンは穴だらけだが、ゾンビとスケルトンの集合体であるため、致命傷を与えたとは言い難いけど。
「自分も! はぁーーー!」
同じくレベルアップにより『聖魔法』の威力が増した未来さんも、その身体能力を生かして、次々アンデッドドラゴンの体を削っていく。
「グルグルグル……」
自分ばかり一方的にやられ続けたアンデッドドラゴンが尻尾を振り回して反撃を目論むが、私と瑠璃さんはこの動きを事前に察知して下がり、未来さんはその俊敏さを生かして鞭にように振り回された尻尾を回避しつつ、その先端部分に連続して攻撃を加える。
「尻尾、だいぶ短くなっちゃったね」
「グモォーーー!」
「当たらないよ」
未来さんの挑発で激高したアンデッドドラゴンが短くなった尻尾で彼女を狙うが、またも巧みに回避されてすべて無駄に終わった。
「交代で放てぇーーー!」
そして最後に、再配置を終えた隅川陸将が指揮する部隊が、銀の弾と矢を用いる火器や大型の弓で集中砲火を加える。
これも多くが命中して、アンデッドドラゴンは白いケムリを吐きながらその場をのたうち回った。
そのあとすぐ私たちも攻撃を始め、アンデッドドラゴンの意識が隅川陸将たちに向かないようにする。
今のところその目論見は上手くいっており、アンデッドドラゴンは私たちに対し憎しみの籠った目を向けながら、短くなった尻尾を振り回し、体当たりをかましてくる。
私たちは隅川陸将が率いる部隊に被害がいかないよう、アンデッドドラゴンの動きを挑発しながらコントロールしていく。
まるで、闘牛をするかのように。
「当たると大ダメージになる、気を付けてくれ」
「幸三さん、ちゃんと避けるって」
「まともに体当たりを食らったら、今の私たちのレベルでも全身の骨がバラバラになりそうですね」
「ドラゴンといえばブレス……ゲーム知識だけど……がこないのが救いだね」
「未来姉ちゃん、今のところはだろう?」
「ここに至るまでブレスを吐かないってことは、多分大丈夫だよ。それに……」
「それになに? おじさん」
「アンデッドは世界中に大量にいる。これから、強烈なブレスを放つドラゴンと戦うこともあるんじゃないかな? ゲームみたいに段々とボスが強くなっていくみたいだから」
アンデッドドラゴンの強さは、これまでに戦った特別個体の中でも一番だったからだ。
今後、こいつを超える強さの特別個体が出ても不思議ではない。
「……オレたちも強くならないと、いつか詰みそうだなぁ」
私たちは定期的に入れ替わりながら、アンデッドドラゴンに攻撃を続けた。
魔力の消耗が激しいが、攻撃が決まる度にアンデッドドラゴンが落とす魔石を腕に装備した魔法の腕輪に嵌めて回復させ、攻撃が掠っただけで受けるダメージは、私と楓さんの治癒魔法で治していく。
「撃て!」
「味方に当てるなよ!」
そして隅川陸将が指揮する国防隊員と傭兵たちはアンデッドドラゴンを遠巻きに包囲し、銀の弾丸、銀の弓でアンデッドドラゴンへと攻撃を繰り返した。
アンデッドドラゴンの興味を惹いて反撃されないように絶妙な匙加減が求められるが、その指揮を一手に担う隅川陸将は、さすがは次の統合幕僚長候補といったところか。
指揮能力は、戸高さんに引けを取らないと思う。
『アンデッドドラゴンの体が徐々に穴だらけになり、欠損部分が増え、その身が削れていくのが確認できました。もう一息ですね』
隅川陸将から無線機で通信が入るが、その声には嬉しさが混じってた。
自分たちも、強力な特別個体との戦闘に貢献できているからだろう。
多くのアンデッドが結合したアンデッドドラゴンは、攻撃される度にその体を構成しているゾンビとスケルトンが倒され、その身が削れて魔石を落としていく。
あとは焦らずに慎重に攻撃を続ければ、必ず倒せるはずだ。
「(とはいえ、あまり戦闘が長引くと……。あれを使うか)」
私は『異次元倉庫』から、事前に用意していたものを取り出した。
「幸三さん、それってもしかして」
「背負式の噴水器だよ」
「『聖水』を噴霧するの?」
「正解!」
かなり弱らせたアンデッドドラゴンにトドメを刺すため、私はレベルアップのおかげで再び作れるようになった『聖水』をタンクに詰め込んだ噴水器を背負い、アンデッドドラゴンに向けて噴霧し始める。
もしこのアンデッドドラゴンが強固な個体なら効果はないに等しいが、ゾンビとスケルトンの集合体なので十分にダメージを与えられる。
量もあるから、さらにその身を削ってくれるはずだ。
私の推察は正しく、聖水を浴びたアンデッドドラゴンは白い煙を吹き出しながらのたうち回り、ポロポロと魔石を落としていった。
「楓さん、やったよ」
「沢山作っておいてよかったですね」
楓さんもレベルアップのおかげで聖水を作れるようになっていたので、私が『異次元倉庫』から取り出した背負式の噴水器を背負い、聖水を噴霧し始めた。
この聖水なら他人を巻き込むことなく、アンデッドドラゴンだけにダメージを与えられる。
伊作村の井戸から採取された地下水を材料に、私と楓さんで空いている時間に作っておいたものだ。
聖水は綺麗な水ほど効果が上がるので、偶然とはいえ田舎の村を拠点にしていてよかった。
水道水でも聖水を作れなくはないけど、品質が下がるし、今の日本では水道水の方が手に入りにくいのだけど。
「じゃんじゃんぶっかけるんだ!」
「はいっ!」
ただ、他の人たちに渡すほどの量は作れなかったので、今後は聖水の量産にも着手しないといけない。
今後は、伊作村で聖水を作る作業を増やさないと。




