第79話 アンデッドドラゴン
「近づいてくるアンデッドは、すべて倒せ!」
「定期的に前衛を交代させて、可能な限り疲労を抑えるように。いつ終わるかわからないからな」
「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」
ついに、水無月市解放作戦が始まった。
私たちも密かに参加というか。戸高さんが『たまたまレベルを上げるために水無月市周辺にいただけで、近くに隅川陸将たちの部隊とは合流していない』と松代に報告し、公的には隅川陸将たちとは別行動ということにしている。
そんなわけがないのは、今私たちは水無月市の外縁部に侵入してこちらには向かってくるゾンビとスケルトンを倒しまくっているが、視界に隅川陸将が指揮する部隊を目視できていたからだ。
水無月市にいるアンデッドの数は多く、兵力の分散は愚かだという結論に俺、大島三佐、戸高さん、隅川陸将は気がついており、現場では臨機応変に合流していた。
アンデッド軍団は人間の軍勢ではないので、相手の士気をくじいて撤退を促したり、降伏させるわけにいかない。
ただ目前に迫ってくるゾンビとスケルトン、レイスを倒して全滅させるしかなかった。
「ふう……」
一時間ほど暴れてから後方で休んでいると、そこに隅川陸将がやって来た。
「キリがないのはこちらも同じだが、伊作さんのおかげで全隊員をレベリストにできたので、レベルアップで兵数が変わらないのに戦力を強化できた。今のところ、犠牲者がゼロなのが奇跡だ。もしレベリストでなげれば、今頃処分しないといけない部下が出たはずだ」
ゾンビに噛まれ、スケルトンに引っかかれたままアンチアンデッド薬で処置しないとゾンビになってしまう。
そうなる前に、自分たちで味方の隊員を処分することが度々あったのだと、隅川陸将が説明してくれた。
「それは辛いですね」
「情をかけて後方に送ったら、そこでゾンビになって他の隊員を噛んでしまい、さらに犠牲者を増やしたこともあった。だから今は、これまでで一番苦戦せずにアンデッドと戦えている」
水無月市解放作戦は順調に進み、丸一日で市の中心部にアンデッドたちを追い込むことに成功した。
ゾンビの骨がスケルトンに復活するのが厄介だが、最初からわかっていれば対処は楽だ。
水無月市からは、順調にアンデッドが駆逐されていった。
「なんとかなりそうだな」
私を含めて、みんなが作戦の成功を確信した瞬間だった。
「ヴォーーー!」
「なんだ?」
「突然強風が……」
「こんな鳴き声の動物なんていたか?」
突如けたたましい鳴き声が周囲に鳴り響き、アンデッドたちが溜まっている町の中心部に向けて強風が吹いた。
そしてそれが晴れるのと同時に、なんと町の中心部に茶色と灰色の肌が入り混じる巨大なドラゴンが出現したのだ。
「ドラゴンだって!」
驚いたのなんのって。
異世界で戦っていた時は、大小合わせて多数のドラゴンとの戦闘を経験していたが、まさか現代日本で遭遇するとは……。
この世界にアンデッドは出現しても、ドラゴンや魔物の類は出現しなかったはずなのに……。
「しかもコイツ、アンデッドだ!」
異世界でドラゴンのアンデッドと戦ったこともあるが、どうやらこの世界にドラゴンが出現したわけではないようだ。
よく見るとドラゴンの形をしているが、その体はゾンビとスケルトンの集合体であった。
こいつが水無月市を支配する特別個体であることは、誰の目から見ても一目瞭然であった。
「どうする?」
「どうするって……。こんな巨大なドラゴンに勝てるか?」
「しかし、隅川司令が攻撃命令を出したら……」
「やるしかないが、俺たちは死ぬな」
「ああ……」
巨大なアンデッドドラゴンを見た国防隊員と傭兵たちの士気が下がっていくのが、容易に察知できた。
町の中心部に追い込んだアンデッドを殲滅すれば、水無月市の解放は達成される。
みんながそう思って内心安堵していたのに、突然すべてがひっくり返されてしまったのだ。
水無月市解放作戦に参加した者たちの間に動揺が広がり、もしアンデッドドラゴンが彼らに攻撃を開始したら、すぐに崩壊してしまうだろう。
「……ゾンビとスケルトンで構成された、アンデッドドラゴンとはね」
どういう仕組みなのか。
異世界ではこんな奴に遭遇したことがないので、私も困っていた。
「幸三さん、どうする?」
「晶、他のアンデッドの動向を探ってくれ」
「わかった」
晶がドローンを飛ばして上空から町の様子を探ると、なんとあれだけいたゾンビとスケルトンの姿がまったく見えないという。
「おじさん、これって……」
「そういうことなんだろうな」
水無月市にいたすべてのアンデッドが、どういうわけか一体のドラゴンになってしまった。
こんなことは、異世界でも経験したことがない。
このままだと各個撃破されてしまうと感じたゾンビとスケルトンが生き残るため、集合することでパワーアップしたと見ていいのだろうか?
「一対一なら、確実に勝ち目がない」
私のレベルはかなり上がったけど、最盛期には遠く及ばない。
アンデッドかそうでないかはあまり関係なく、向こうは大型のドラゴンだ。
勝てるわけがないのだ。
「幸三さん、一人で戦うのは駄目だって、楓と怒ったのを忘れてないよね?」
「それは勿論」
みんなを撤退させて、私だけで戦うのはナシだ。
瑠璃さんと楓さんは絶対に私から離れないだろうから、ちゃんとアンデッドドラゴンを倒す方法を考えよう。
「幸三さん、自分も最後まで付き合うから」
「おじさんがいないとオレもやだし、後方で矢を放ち続けるからいいよね?」
未来さんと晶も、私の傍から離れるつもりはないようだ。
こうなったら、私たちのパーティが主力となってアンンデッドドラゴンと戦うしかない。
現実問題として、水無月市解放作戦のためにレベリストにした国防隊員たちは、レベルアップが間に合っていなかった。
もし彼らが真正面からアンデッドドラゴンと戦ったら、すぐに殺されてしまうだろう。
「だから彼らも、アンデッドドラゴンとの近接戦は避けてほしい」
「隅川陸将ならきっとそうするさ。彼は優秀だからね」
そう言いながら戸高さんも前に出てきたが、大島三佐と奈津子さんも一緒だった。
やはり撤退の意志はないか。
この三人のレベルの高さも上位なので、アンデッドドラゴンと戦う主力の資格は十分にあった。
『戸高陸将補、あなたも戦うのですか?』
通信兵が、隅川陸将から通信が入ったと戸高さんに告げ、広帯域多目的無線機のレシーバーを渡した。
将官である戸高さんが前線で戦うことを知った隅川陸将が驚き、通信を入れたようだ。
普通に考えたらあり得ないが、レベルが高い者が戦わないと勝率が上がらないから仕方がないし、指揮官は他にもいる。
もし戸高さんになにかあっても、伴龍高校駐屯地の隊員たちの指揮は大島三佐か、その他の尉官たちが引き継げばいいのだから。
「伊作さんによれば、低レベル者がアンデッドドラゴンに挑んでも死ぬだけだそうで。ならば、私も前に出ないといけません。大島三佐もそうなので、私の部隊は佐川一尉、渡辺二尉などに任せています。隅川司令たちは……」
『遠距離からの支援が主ですか……』
「我々がアンデッドドラゴンに近接戦闘を挑んでその気を引き続け、まだレベルの低い多くの隊員たちは遠距離からの攻撃に徹する。それが一番勝率が高そうですから」
『私もそう思います』
「では、お願いします」
戸高さんと隅川陸将が、通信機を用いての作戦会議を終えた。
「伊作さん、ではいきましょうか」
「戸高さんが戦わないという選択もできるのに……」
私も戸高さんが戦ってくれるとありがたいのは事実だったが、彼は国防隊の陸将補だ。
後方で指揮を執り続けるという選択もできたし、それに私がどうこう言ったところで、その決定を覆せる力はない。
アンデッドドラゴンと近接戦闘をすることを了承した戸高さんは、そんな性格をしていると思う。
「私がどの立場にいようと、レベルが高い者が前に出る。対アンデッド戦の基本でしょう?」
「確かに……」
「それに、私と伊作さんは同じ年じゃないですか。負けてられませんし、このところレベルアップの影響か体も軽いですからね」
「じゃあ、いきますか」
「勝利の美酒になにが出てくるかな?」
「とびっきりのとっておきを出しますよ」
せっかくアンデッド溢れる町中から集めた貴重なお酒だ。
こういう時に飲まなければ。
「伊作さん、ご馳走になります」
「当然ですが私は成人してますし、お酒が好きなので。久々にお酒が飲める!」
大島三佐と奈津子さんもパーティーに加わり、アンデッドドラゴンとの死闘が始まるのであった。




