第78話 レベリスト増殖
「クソォーーー! カコマレタァーーー!」
「リッチーなので知能はあるのか。攻撃開始!」
朝山駐屯地と水無月市の中環地点で、大島三佐が指揮するドローン偵察部隊が特別個体を発見した。
町長のリッチーとは違って少し強いだけなので、隅川陸将が連れてきた大軍に包囲され、反撃する間もない早さで銀の剣で斬り刻まれていく。
レベリストではない普通の人間がリッチーの攻撃を食らうと即死なので、私がガッチリと背中から羽交い締めにして動けなくしておく。
そのおかげで大勢の国防隊員たちはダメージを受けることなく、特別個体への攻撃を続行していた。
「普通のリッチーなら、もう苦戦しなくなったな」
私が背中から羽交い締めにしたリッチーはまったく動けないまま、次々と銀の剣で斬られ、ダメージを蓄積させていく。
町長のリッチーのように、他のアンデッドを吸収して回復することもなかったので、数分でリッチーを倒すことに成功する。
「どうです?」
「おおっ! 私にもレベルの表示が出ました」
「私もです!」
「じゃあ、次の非レベリストの隊員たちと交代だ」
私と一緒にボスアンデッドを倒した隅川陸将と隊員たちは、全員がレベリストになった。
さすがに、朝山駐屯地にいる隊員全員を一度にボスアンデッドとの戦闘に参加させられないので、あと数回これを繰り返す必要がある。
まずは隅川陸将が指揮する朝山駐屯地の部隊を強化して、水無月市のアンデッドたちとの戦いでは死傷者を減らさないと。
「大島三佐、次のボスアンデッドは見つかりましたか?」
「はい。水無月市郊外にある森にリッチーがいるのを、ドローンで確認しました」
「次はそいつを倒そう。すでにレベリストになった隊員たちは、水無月市周辺にいるゾンビを狩って一つでもレベルを上げてくれ」
「わかりました」
松代が援軍と物資を送ってくる前に、私が朝山駐屯地所属でレベリストではない隊員たちと共に特別個体と戦ってこれに勝つと、一緒に戦った隊員たち全員がレベリストになった。
この作業を繰り返して、朝山駐屯地に所属する隊員を全員レベリストとする。
すでにレベリストになった隊員たちは、水無月市の外縁部にいるアンデッドを倒してレベルを上げて戦闘力を強化。
こうすることで、少しでも水無月市解放作戦の成功率を上げるのだ。
「……ふう、これで朝山駐屯地の全員がレベリストになったか。次は私たちも、水無月市周辺にいるアンデッドを倒してレベルを上げましょう」
「了解しました」
戸高さんと大島三佐が指揮する伴龍高校駐屯地の部隊と私たちは、さらにレベルアップを果たすべく隅川陸将たちと別れた。
ずっと一緒に行動しないのは、表向きはそれぞれ別々に任務をこなしている体にしているからだ。
私たちと戸高さんたちは隅川陸将に手を貸しておらず、たまたま一緒に戦っただけ。
だからもしこのあと隅川陸将が水無月市解放に成功しても、それば隅川陸将単独の功績だと国防隊の上層部に思わせる。
もし私たちの功績が下手に評価されると、今後国防隊が私たちを取り込もうとするかもしれず、面倒になるからだ。
「幸三さん、水無月市は市だから、新明町よりも多くのアンデッドがいるね」
「作戦どおり朝山駐屯地の隊員たちは強化したので、松代からどのくらい援軍が来るかで成功率が変わりますね。晶ちゃん、偵察の結果はどうですか?」
「楓姉ちゃん、まだ水無月市の特別個体は見つからないよ」
私たちも偵察用のドロ-ンを伴龍高校駐屯地の整備兵たちに改良してもらって所持していたが、これを動かしていたのは晶だった。
なぜなら、一番操作が上手だからだ。
私は……新しいことにすぐ順応できて、若いって素晴らしいと思う。
「見つからないってことは、水無月市に特別個体はいないとか?」
「これだけの規模のアンデッドの群れに、特別個体が一体もいないなんてことはないはずです」
未来さんの考えを、楓さんが否定した。
水無月市のアンデッドの多さからして、特別個体が一体もいないわけがないと。
なので特別個体との戦に備えて、私たちも水無月市の外縁部でアンデッドを倒してレベルをあげていく。
これは、水無月市解放作戦本番までに一体でも多くのアンデッドを減らしておくためでもあった。
「レベリストの数を大幅に増やして、レベル上げは個々に任せるとして、次は援軍でやってきた連中も全員レベリストにするのか」
「そこまでやってようやく、勝率は六割くらいだと大島三佐が予測してしました」
「それでも六割か……。確かに、気は抜けないな。どっちに転ぶかわからないのだから」
戸高さんの表情は晴れない。
六割の勝率があれば成功する確率の方が多いとはいえ、四割の確率で負けるという事実は無視できない。
ならば、援軍もできる限り強化して勝率を上げるべきだ。
「私たちに助けられて、松代からの援軍が納得するかは未知数ですけど」
プライドを傷つけられたと、上に私たちのことを報告するかもしれないが、犠牲を減らすためには仕方がない。
「松代からの援軍も、同じ現場の人間だ。死なずに済むというのであれば、伊作さんたちのことは口を噤むさ」
彼らだって、自分たちは死にたくないと思っている。
戸高さんと私たちが密かに支援している事実をわざわざ上に伝え、不興を買う真似はしないということか。
「安城陸将の件もあったから」
現場の隊員たちも、上層部に不信感があるのか……。
自分たちはたまたま、水無月市周辺でレベルアップ中の私たちと顔を合わせただけだと。
どうせ松代からの援軍は、水無月市の解放に成功したら、朝山駐屯地と水無月市の守りにつくことになる。
松代に戻らないので、松代のお偉いさんたちに気を使う必要はないということか。
「……おおっ! なぜかレベリストになってしまったぁ」
「我々部隊全員がレベリストになるなんて、本当に不思議なことだが、そういうこともあるのだろう」
「……」
「でしょう? 伊作さん」
数日後、松代からやって来た援軍は、たまたま私たちがドローン部隊で見つけた特別個体を同時に発見、それぞれが攻撃を加えた結果倒すことに成功し、運良く全員がレベリストになった。
なので、ついに命令が下った水無月市解放作戦に備えてレベルを上げることにする。
そんな報告を松代にしたそうだが、特になにも言われなかったと、戸高さんが私に教えてくれた。
「全員がレベリストになった隅川陸将の部隊なら、水無月市解放に必ず成功する。その事実の前に、私たちのことなんてどうでもいいのだと思う」
「それならそれで、ありがたいんですけどね」
レベリスト率が百パーセントになった、隅川陸将指揮の水無月市解放部隊にも秘かに参加する私たちであったが、新明町の数倍のアンデッドが巣食う水無月市を無事に攻略できるのだろうか?
それは、神のみぞ知るというやつだ。




