第77話 極秘参戦案
こんな感じで隅川陸将との面会は終わったのだが、そこから戸高さんが落ち込んでしまったため、伊作村に戻るのを中止して、彼を大島三佐と共に慰めていたわけだ。
「美味い酒だ。隅川陸将ほど優秀な人でも、やはり上からの命令には逆らえないのか……」
『安城陸将の悲劇再び!』になりかねないので、戸高さんが落ち込むのもわからなくはなかった。
「トップエリートでも、常に正しく行動できないんですね。人が死んでしまうのに……」
一緒に酒宴に参加している瑠璃さんからすれば、そんな理不尽な命令なら拒否すればいいのにと思っているのだろう。
ちなみに奈津子さん以外の女性陣は未成年なので、高級なジュースやお茶を飲んでいた。
「白井さん、上の連中もバカじゃない。今の戦力では勝てないことくらいわかっているが、政府がそう命じたら戦うしかないのさ」
「大人の事情で、理不尽に死ぬ人たちが哀れですね」
「私もそう思うよ。最悪、朝山駐屯地と稲美基地は放棄せざるを得ないなぁ。伴龍高校駐屯地と新明町を守らなければ……」
アンデッドとの戦いで厄介な点は、味方は犠牲者が出て戦力ダウンするが、向こうは死者がアンデッドとなって戦力が増える点だ。
だから勝てない戦いを仕掛けない方がいいのだけど、なかなかそうはいかないのが現実だった。
勝利のために耐え忍ぶというのは難しい。
「だから、勝てない戦いはやめてほしいんだよなぁ……」
それでも松代の連中は、水無月市解放作戦をやめないのだろうけど。
そう思うと、ストレスが溜まってついお酒が進んでしまう……俺の上司ではないので、ただお酒が飲みたいだけだけど。
給料を貰えないのに、気を使っても仕方がない。
「おおっ! そのブランデーは!」
「幻のナポレオン! 伊作さん、私にもくださいよ」
「遠慮なく飲んでください」
「この伴龍高校駐屯地は、お酒に困らないのが最高ですね」
全国を回って色々と使えそうなものを回収する過程で、お酒を重視した結果だ。
ちなみに、伴龍高校駐屯地の兵士たちにも定期的にお酒や嗜好品を配給しているので、士気はかなり高いと自負している。
「あの、戸高司令。もし私たちが援軍として水無月市解放作戦に参戦したら、勝利できる可能性はあるのですか?」
高級なジュースを飲んでいた楓さんが、顔が赤くなった戸高さんに質問をした。
「伊作さんのおかけで、伴龍高校駐屯地にいる者たちは全員がレベリストになったし、今も交代でレベルアップを続けている。勝てるかもしれないが、如何せん朝山駐屯地の兵員と援軍のレベリスト率が低すぎる」
「確率的には半々ですね」
戸高さんと大島三佐の考えは一致していた。
その可能性は高いが、やはりリスクはあると。
「国防隊も懸命にレベリストを集めてはいるが、自然発生したレベリストの数はさほど多くなく、安城陸将の件で国防隊、警察、消防に雇われることを拒否し、フリーで活動するレベリストも少なくない。ようやく傭兵扱いで雇われてくれても、全国の部隊で取り合いをしているからなぁ」
「伊作さんと一緒に特別個体を倒すとレベリストになれる、みたいな裏技もないですしね」
「このまま朝山駐屯地の部隊が水無月市解放作戦に失敗して大きな損害を出し、隅川陸将が左遷なり、クビになったとします。かえって状況が悪くなりませんか?」
「朝山駐屯地と稲美基地が危うくなるから、そうなる可能性が高いだろう」
戸高さんは、楓さんの推論を肯定した。
「坂田さんは、隅川陸将に手を貸せというのですか? ですが、我々は動くなと言われています。なにより、手柄を奪われたと上が怒るでしょうね」
大島三佐は、楓さんの考えに反対のようだ。
私たちが勝手に隅川陸将を助けた結果、余計なことはしてくれるなと、国防隊の上層部に恨まれる可能性が高いのだから。
ただ、隅川陸将たちが負けて大きな損害を出すと、こちらの状況が悪くなるのも確かだった。
楓さんの懸念は、そこなのだろう。
「公式に手を貸すのではなく、伴龍高校駐屯地で常時行われている『レベルアップ』を独自に行なっていたら、たまたま隅川陸将の水無月市解放作戦に手を貸した形になってしまった、ではどうですか?」
隅川陸将の動きに合わせて、伴龍高校駐屯地の部隊が水無月市内でレベリングをすることでアンデッドを減らし、水無月市解放の成功率を上げる作戦か。
「それなら、命令違反にならないな」
「レベリストがレベルアップをして強くなるのは、通常の任務の一環ですからね」
レベリストはアンデッド戦における切り札であったが、レベルが低いとあまり役に立たない。
常にアンデッドを倒してレベルアップをする必要があるのだけど、最近伴龍高校駐屯地と新明町周辺に出没するアンデッドの数が減り続けていた。
私たちが沢山倒したからなのだが、このままだとレベリストたちのレベルアップが難しくなってしまう。
「水無月市周辺及び、水無月市内に遠征してレベルを上げれば、隅川陸将たちの負担をかなり減らせるはずです」
「それはいいアイデアではあるけど、どうしてそこまでやろうと思うのかな? あなたたちは、あくまでも善意の協力者という扱いなのだから」
私たちが国防隊に入らず、傭兵でもないのは、日本政府や国防隊に都合よく利用されないためだ。
戸高さんと大島三佐からしたら、楓さんが隅川陸将による水無月市攻略作戦に手を貸した方がいいと思ったことが不思議でならないのだろう。
だけど、私には楓さんの意図がなんとなくわかった。
「水無月市解放作戦失敗の悪影響を、ここがモロに受けるからなぁ……。隅川陸将が責任を取らされて左遷されたあと、後任が酷い奴になることもある。こっちに無茶を言ってくるかもしれない。となると、隅川陸将に功績をあげさせた方がいいという考えもある」
隅川陸将を統合幕僚長にして恩を売りつつ、バカな国防隊上層部や政治家たちの防波堤にする。
そのためにも、水無月市解放を成功させる必要があるわけか。
「しかし、もし負けるとさらにダメージが大きくなるかもしれませんよ」
「だから朝山駐屯地の兵士たちも強化するんです。幸三さんの特別な力を使って」
「……やるしかないのかね」
このままスルーしてもいいんだけど、その結果さらに不利な状況に追いやられる危険があるからこそ、楓さんは水無月市解放作戦への協力を提案したのだろう。
「うーーーん、確かに少しは恩を売って、私たちの立場を強化しておく必要があるかも。向こうが恩に感じない可能性もあるけど」
唯一の懸念は瑠璃さんの言うとおり、私たちが助けても向こうが恩に感じないという点だろう。
それでも隅川陸将の部隊が大きな損害を出した結果、こちらに重い負担がくるよりはマシなんだけど。
「朝山駐屯地の隊員たちを強化するってことは、密かに朝山駐屯地の部隊と一緒に特別個体を倒すわけね。でもそう簡単に見つかるかな?」
「未来姉ちゃん、それは伴龍高校駐屯地自慢のドローン部隊で探せばいいんじゃないの?」
「そうするのがいいと思う」
晶のアイデアに、戸高さんが賛同した。
町長のリッチーと戦った時に使われたドローン偵察部隊は、人を偵察に出してアンデッドに襲われるリスクを避けられるので、戸高さんが規模を拡大していた。
配備されたドローンは、私があちこちで拾ってきた玩具や民生用のドローンを整備兵たちが改良したものばかりだけど。
「隅川陸将に連絡を取って、早速実行してみよう。事情を話せば、彼は上手くやるはずだ」
こうして私たちは独断で、隅川陸将による水無月市解放作戦に協力することになった。
これも私たちの生活を守るため……上手くいくといいのだけど。




