第72話 偽装撤退
「(確かに……。奴はこのまま我々を追撃可能ですね。味方が一旦態勢を整える時間がないかもしれません)」
と、大島三佐に話したわけではないが、彼は私の考えを察してくれたようだ。
相変わらずの優秀ぶりである。
「(戸高さんの判断に任せるけど)」
「大島三佐!」
通信兵が大島三佐を呼ぶと、すぐさま彼のところに向かって無線機で話し始める。
どうやら、戸高さんからのようだ。
通信を終えて私のところに戻ってきた大島三佐が、戸高さんの考えを伝える。
「(伴龍高校で迎撃準備を整えるので、奴にそのことがバレないよう、徐々に撤退してくれだそうです)」
「(そうきたか)」
確かに、ここで粘って戸高さんたちの援軍を待つよりも、防衛拠点と化した伴龍高校で迎撃する方が色々と罠も張れるし、戦力を増やして総力戦が可能だ。
「(レベリストでなくても、対アンデッド部隊なら火炎放射器でダメージを与えられますし、奈津子が試作した武器も投入できます)」
相手が相手なので、戸高さんはレベリストではない隊員や奈津子さんたちが作り始めた試作武器も使って総力戦を展開するつもりのようだ。
より多くの戦力で戦うという基本に忠実ではあるが、伴龍高校駐屯地まで誘き寄せるので、負けると私たちはあとがない。
稲美基地か朝山駐屯地に撤退せねばならず、ここで賭けに出るとは戸高さんも大胆だな。
「(戸高さんたちが迎撃準備を終えるまで、私たちは苦戦しながら撤退をしているように見せかけ、時間稼ぎをするわけか)」
「(はい、戸高司令はそうおっしゃっていました)」
「(では、そうするか。大島三佐、指揮を任せます)」
私と瑠璃さんたちだけなら、町長のリッチーにそう思わせながら徐々に退くことも可能だが、対アンデッド部隊全体をそう見せながら指揮することは不可能だ。
なにしろ異世界の勇者の経験はあっても、軍人の経験はないのだから。
「私たちが殿を務める。いいよね?」
「任せて、幸三さん」
「私たちが一番レベルも高いですからね」
「個人なら、自分、その辺の駆け引きは得意ですよ」
「オレ、頑張るよ」
私たちのパーティがリッチーに対し攻勢をかけると、その隙に大島三佐が巧みに少数ずつ対アンデッド部隊と傭兵レベリストたちを後方に下げ始めた。
秩序だった退却は難しいのに、それを上手くやっているように見せかけつつ、町長のリッチーに気がつかせることが重要だ。
しかも、それをわざとらしく見せていけない。
軍隊の指揮など執ったことがない私には到底できないことだが、大島三佐は見事にそれをやり遂げている。
やはり、餅は餅屋というか。
私たちは、殿役に集中することにする。
「ワシ ハ ムテキ ダァーーー!」
「くっ!」
味方に被害を出さないため殿役に徹しつつ、常に攻撃を続けていく。
攻撃は当たるし、その度に町長のリッチーが吸収したゾンビとスケルトンを倒した証である魔石が地面に落ちるが、それはあえて拾わず、以前手に入れて保管していた魔石を『アイテムボックス』から取り出し、魔法の腕輪に嵌めて魔力を回復させていく。
撤退を確実に成功させるため、魔石を拾う暇すらないように見せかけるためだ。
「マテェーーー!」
「ったく! しつこいな!」
「イイノカ? ワシ ニ ツイセキ サレタ ママ デ」
「……」
「コタエ ラレナイ カ。ツイデニ、ウバワレタ チ ヲ ウバイカエシテ ヤロウ デハ ナイカ、カクゴ スルンダナ!」
「……(食いついた!)」
だが私たちは喜んだ素振りを微塵も見せず、苦難の撤退を続けているフリを続けた。
町長のリッチーは、何度攻撃してもすぐに新明町からゾンビとスケルトンを引き寄せて回復してしまうため、実際に苦戦しているのだけど。
「(もう三時間も経ったのか……)」
ジリジリと撤退しながら、私が町長のリッチーからの攻撃を回避し、その隙に瑠璃さんたちが攻撃をする。
基本その行動パターンを繰り返し、ついに伴龍高校駐屯地が見えてきた。
「ソノミ ニ ユウケンシャ ヲ ヤドス コノ ワシ カ゚、ホロボシテ クレヨウ」
よほど自信があるのか。
回復手段を減らすのが嫌なのか。
町長のリッチーは、一体のまま伴龍高校駐屯地の前に辿りついた。
「伊作さん!」
正面門の中から、先に駐屯地内に逃げ込めた大島三佐の声が聞こえた。
事前の打ち合わせどおりに町長のリッチーから距離を置くと、駐屯地の外壁の上から銀の弓と銃を構えた非レベリストの射手たちが姿を見せ、一斉に射撃を開始する。
「ナントォーーー!」
大量の銀の矢と試作品である銀の銃弾が町長のリッチーに次々と命中し、その度に魔石を落としていく。
その勢いは衰えず、限界がきた町長のリッチーは慌てて両手を挙げ、新明町からゾンビとリッチーを呼び寄せてから吸収した。
「続けろ!」
「任せてください! 発射!」
正面門が開くとそこには重機関砲が設置されており、それを改良した奈津子さんの合図と共に唸りをあげた。
「キエテ シマウ!」
連続して銀の銃弾を浴びた町長のリッチーが大量の魔石を落とし、再び慌てて両手を挙げて新明町からゾンビとスケルトンを引き寄せ、吸収して回復を図る。
連続して命中する銀の弾丸によるダメージと、引き寄せたゾンビによる回復。
両者による競争は、先に重機関銃の砲身が過熱して冷やす必要があったため、町長のリッチーの勝ちとなった。
「ワシ ヲ タオス ナド ジュウネン ハヤイ!」
「なるほど、回復力以上のダメージを与えて、HPがゼロになれば倒せるんだな」
「晶、奴はそこまで間抜けじゃない。その方法で奴は倒せないよ」
確かに攻撃を食らいまくっているが、私たちが自分にどれくらいのダメージを与えられるのかを冷静に計っており、倒される前に神明町からゾンビとスケルトンを呼び寄せて回復させてしまう。
なので町長のリッチーを倒すには、神明町にいるアンデッドをすべて倒さなければいけない。
「持久戦になる」
「望むところだ!」
晶は気合を入れているが、やはり子供なのでちゃんと休ませないと。
私は年を取っていて睡眠時間も短めになりつつあったし、異世界では徹夜で戦うことも珍しくなかった。
敵は強く、まだ私は死にたくないので、寝ずに戦い続けなければ。
「(我々が全滅するか、神明町のアンデッドが全滅するかだ)」
想定外の事態により、私たち人間とアンデッド軍団による初の大決戦が始まるのであった。




